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2023.07.25 20:22|未分類
2018.11.30 23:56|怪奇幻想文学いろいろ
 最近遅まきながらデビューした電子書籍で、ヘンリー・カットナーの「サルドポリスのレイノル王子」シリーズを見つけて購入してみました。シリーズといってもわずか二作だけなのですが、後篇の「暗黒の砦」をヒロイックファンタジー大集合アンソロ「不死鳥の剣」で読んで以来、その前作で邦訳がほぼ入手不可能な"Cursed Be The City"(「呪われた都」)の存在がずっと気になっていたのです。
 (先日ツイッターで「未訳」と書いたのは厳密には間違いで、いつも参考にさせて頂くameqlist様のサイトによれば、ミステリマガジンの1971年1月号に「呪われた城市」という題で訳出されているとのこと)

 「呪われた都」は時系列的にも「暗黒の砦」のわずか前に起きた出来事を扱っており、主人公レイノルとその従者エブリクが故国である中央アジアの都市国家サルドポリスの滅亡を逃れ、流浪の旅に出たいきさつが語られます。自分の覚え書きを兼ねてのあらすじ紹介ですが、最後まで内容をネタバレしていますので知りたくない方はお気を付けください。いずれどこかで新訳が出ないとも限りませんし。


― "Cursed Be The City"(「呪われた都」) あらすじ―
 
 サルドポリスの都は北方から攻め寄せた大軍の前に陥落しようとしていました。着々と攻城の準備が進められるなか、城壁に一人上ってゆくのは年老いた予言者。都の運命を嘆く老人は「じきお前たちの上にも、森から来たいにしえの破滅が降りかかろう!」という叫びを最後に身を投げ、下で待ち受けていた敵兵たちの槍に貫かれて絶命します。とはいえそんな警告に耳が貸されるわけもなく、やがて侵略軍は城門を破ってなだれ込み、都は至るところで略奪と虐殺が繰り広げられる阿鼻叫喚の場に。

 王宮の玉座の間では征服者サイアクサレスの前に、サルドポリスの王チャレムをはじめとする一団の捕虜が引き出されていました。臣従の意を示せば助命するとの言葉をにべもなく撥ねつけたチャレムをサイアクサレスは一刀のもとに斬り倒し、遺骸はハゲワシにくれてやれと命じますが、その時捕虜たちの中から罵声を浴びせた一人の若者に目を留めます。彼こそはチャレムの息子、レイノル王子でした。
 その挑発的な言葉に怒ったサイアクサレスはレイノルを拷問室へと連れ去らせ、一人になるとしばし奪った玉座の上で思いを巡らせます。先程から一部始終を見ていた相談役の妖しい美青年、ネコ
(※猫ではありません)が現れ勝利を称えても、王は表情を曇らせたまま。そしてネコに向かい、お前と出会ったのが災いの始まりだったと野望と自己嫌悪をない交ぜにした心情を吐露するのでした。

  地下で拷問台に拘束されていたレイノルは、際どいところで忠実なヌビア人の従者エブリクに助けられます。エブリクは乱戦の中王子とはぐれたあと、倒したサイアクサレス方の兵士の服を着て宮殿に戻り、レイノルの居所を突きとめると王の伝令と偽って地下牢に現れ、油断した拷問係を一突きに殺したのです。
 
 王宮を抜け出し追跡をかわすうち、この都の主神である太陽神アモンの神殿に入りこんだ二人が目にしたのは、神殿の中央に据えられた巨大な黄金球、そしてその上に無惨にも両手足を釘付けされた老神官の姿でした。助け下ろされ介抱を受けた神官はかろうじて息を吹き返し、王子を認めると自分を球体のところまで運んでほしいと頼みます。老人の指が球の表面を探るとそれは真ん中で二つに割れ、地下への階段が現れました。
 
 下りた先の石造りの隠し部屋で、瀕死の老神官はレイノルに神殿の秘密を明かします。サルドポリスが築かれる以前、この地は恐るべき森の神によって支配されており、まさに今いる場所にその祭壇があったこと。そこに太陽神アモンを奉じる王家の祖先たちが攻め寄せ、森の神を『沈黙の谷』と呼ばれる地に魔術で封じこめたこと。しかしサルドポリスが滅びる時、その封印もまた解かれ、自由となった神はかつての住処に戻ってくると予言がなされたことを。
 そして今こそかの予言の時だと、かつての森の神の祭壇を塞ぐ位置に置かれた金属製の円盤を示し、中央にはめ込んである大理石片の護符を、都の彼方にそびえる山脈に住まう『岩山の奪取者』と呼ばれる男のもとに届けるよう依頼します。それこそが侵略者たちに対するアモン神の復讐だと最期の力を振り絞って言い遺し、神官は息絶えたのでした。

 隠し部屋の壁に設けられた抜け穴から脱出し、手に入れた馬で『奪取者』の山へとひた走るレイノルとエブリク。一方王宮では、破滅を防ぎたければ都から逃げた二人の男を目的地に着かせてはならないと、ネコがサイアクサレス王に助言していました。
  果たしてレイノルたちは後方に迫ってくる大勢の敵に気付きますが、険しい山中を巧みな馬さばきで乗り切って追手を引き離すことに成功し、天辺に城を頂く巨大な一枚岩のふもとに辿り着きます。ほどなく現れた騎馬の一隊に迎えられ、二人は城の主である『奪取者』キアリーの待つ大広間へ。
 
 アモン神の名にもサルドポリス陥落の報にも全く関心を示さなかった配下たちと異なり、自分への伝言と聞いただけでキアリーの様子は一変。レイノルから渡された護符を手に、ついにその時が来た、わが支配も終わりだと呟いた彼は、腹心の部下サマルを残して他の者たちを下がらせ、さらに娘のデルフィアを呼んでこいと命じます。

 デルフィアと呼ばれる若い女性が現れると、キアリーは改まった態度で自分たち一族とサルドポリスとの関係を語り始めます。
 遥か昔、北の地から二人兄弟の王がやって来てこの地を征服し、それ以前に崇拝されていた森の神―パン―を打ち負かしました。兄王はサルドポリスを建国して王家の祖に、弟王はパンを幽閉した『沈黙の谷』を見下ろす岩の上に城を築いて封印の監視役に。そして兄弟は誓約を交わし、いつかサルドポリスが滅ぼされる日が来ればすみやかにパンを解き放ち、簒奪者のもとへ差し向けるよう取り決めたのだと。

 話を結びかけたキアリーの前に部下の一人が血相を変えて駆け込んでくると、ふもとの谷が敵軍であふれかえっていると報告します。自分も一緒に戦うというデルフィアを父キアリーは退け、レイノルとエブリクを『沈黙の谷』へと案内するのはお前の役目だと諭すと護符をレイノルに返し、どう使えばよいかはいずれ分かると言い残して立ち去りました。恐れの色をありありと浮かべながらも、城内に設けられた隠し扉から谷底へ続く道へと二人を導くデルフィア。

 深い森に覆われた谷間はその名通り異様な静寂に包まれ、鳥や獣の気配どころか木の葉のさやぎさえも聞こえてきません。しかし歩みを進めるうち、レイノルの知覚はこの土地を満たしている人には聞き取れない音域の囁き、そして意識の奥底にひそむ、太古の地球の記憶と共鳴しあう生命の力をひしひしと感じ取るのでした。
 やがて神殿の廃墟とおぼしき場所に出ると、デルフィアは倒れた石柱に囲まれた一点を指し示します。そこには都のアモン神殿にあったのと瓜二つの金属の円盤が据えられており、その中心の凹みにもやはり大理石片がはめ込まれていました。レイノルが携えてきた護符の片割れをもう一方にあてがうと、二個のかけらはまるで磁力に引き合わされたようにくっ付き、一つに融合したのです!

 その瞬間森の囁きは堰を切ったような歓喜の叫びへと一変し、さらにそれを凌駕するつんざくような笛の音が響き渡ります。パンを見ることは死を意味します、すぐに立ち去らなければというデルフィアの声に促され、レイノルは無我夢中で完全な形に戻った護符を掴みとると、ざわめきを増してゆく森を仲間たちと駆け戻ります。

 城はすでにサイアクサレス王の兵士とキアリー一党の死闘の場となっていました。息つく暇もなく武器を抜き加勢する三人ですが、多勢に無勢、サマルをはじめとする部下たちは次々と斃れてゆき、最後まで奮戦したキアリーもついに壮絶な討死を遂げます。
 残ったレイノル、エブリク、デルフィアの三人を円陣に取り囲み、じわじわと追い詰める兵士たち。ですが絶体絶命と思われたその時、レイノルの記憶に新しい囁き声とかすかな笛の調べが彼方から聞こえてくると、たちまち城全体にこだます大音響に膨れあがったのです。うろたえる敵兵たちを横に、レイノルは直感的に持ってきた太陽神の護符に触れ、他の二人に側を離れないよう命じてそれを高く掲げました。
 
 たちまち霧のとばりが三人を取り囲んで護るかのように降りてきます。その霧の向こうに見え隠れしているのは、文字通りパニックに陥って右往左往する敵兵たち、そして歓喜の笛の音に合わせ狂ったように踊りながら駆けてゆく、角とひづめを備え毛皮をまとった者たちの影でした...
 
 土台から揺れ動く城が崩壊するのはもはや時間の問題と悟ったレイノルが意を決して護符を掲げたまま足を踏みだすと、霧の障壁は歩みにつれて動いてくれます。もはやためらわず、あらん限りの速さで岩山を駆け降りた一行が見上げる前で、頂上の城は跡形もなく崩れ去ってゆきました。
 幸いにも崩落より先に脱走していて無事だった馬たちを拾い、三人はサルドポリスの方角を目指します。しかし翌朝、都を一望できる場所に差しかかった彼らの前にもはや栄華を誇った都は存在せず、粉塵が舞う上におぼろな影のような姿のうごめく廃墟が横たわっているのみでした。パンの神はついに帰還し、かつて支配した土地を取り戻したのです。

 西方の『影の海』という街をさして旅立つことで合意し、めいめいの馬を駆って去る一行の背後から、全身ずたずたの無惨な姿となった男が助けを求めます。しかしその声は届かず、かつて王だったその男、サイアクサレスは苦痛に呻きつつレイノル達のあとを這い進んでいくしかありませんでした。傍らにはあいかわらず優雅で物憂げな様子のネコが薄笑いを浮かべて励ましの声を掛け、頭上では傷口から滴る鮮血に呼び寄せられたハゲワシが羽ばたくのを耳にしながら...


 
 カットナーといえばハイドラやニョグタなどの神格が登場するクトゥルフ作品で有名ですが、旧い荒ぶる神の封印と解放にまつわるこの話も若干そうした要素を含んでおり、全貌が明かされないパンの神とその眷属たちの描写などは神話的恐怖とでも呼びたくなる不安感をかき立てます。ハワードのコナン等と同じく、ヒロイックファンタジーとクトゥルフ神話とは地続きの関係にあることをよく示す一作といえるでしょう。パンの名前が出た時点で大まかな展開の予想はついてしまうとはいえ、そこから加速する緊迫感と歯切れ良い筆致に乗せられて最後まで一気に読みきってしまいました(少なくともこの作品に関していえば、カットナーの文体はかなり読みやすい方だと思います)。

 繰り返しますが、「ネコ」は古代エジプトのファラオにもいたNechoと綴る人名で、断じて猫ではないです(笑) かといって人間とも思えませんが... 上で書き忘れましたが、叡智と権力を追い求めるサイアクサレスがネコを呼び出し、ある取引を交わしたのが両者の出会いであるようです。つまりファウストとメフィストフェレスの関係といえばこれ以上説明するまでもないかと。

 あと上手い訳語が浮かばなかった「奪取者」(原語ではReaver)という呼び名はほぼそのままの意味でして、キアリーとその一党は近隣にある城などを襲い、財宝を分捕ってくるのを生業にしていた様子。封印を見張るだけでは暇を持て余しそうとはいえ、王家の末裔がそんな山賊まがいの事をやっていていいのか心配になりますが、周辺住民のヘイトを集めすぎて使命を果たす前に討伐されたりしては元も子もないので、もしかすると義賊的な面もあったのでしょうか?もちろんデルフィアもその一員として父親に負けない働きぶりを見せていたらしく、続く「暗黒の砦」では攫われヒロインポジになってしまい戦闘能力を発揮する機会のなかった彼女ですが、この作品を読んでだいぶ印象が変わりました。

  レイノルは有名ヒロイックファンタジーの主人公たちのような強烈な個性には欠けるものの、そのぶん比較的等身大の青年として親近感がわきやすくもあり、一方で王子らしい自負と風格もあって個人的にはかなり好きなキャラクターです。エブリクとのコンビも主従というよりは気心の知れた相棒同士に近い印象で、二作にとどまらずもっと彼らの冒険が続くのを読みたかったと思わずにはいられません。「暗黒の砦」での出来事のあと、三人は目指す「影の海」に首尾よくたどり着けたのでしょうか。

 ↓ネットで拾った、古代の中央アジアというよりは中世ヨーロッパ風なレイノルと名場面いくつか。後ろの城はサルドポリス?

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テーマ:海外小説・翻訳本
ジャンル:小説・文学

2018.10.17 21:42|音楽鑑賞(主にオペラ)
 数年前BSのスカラ座特集で放映されて非常に興味深く見たビジュアルアーティスト、ウィリアム・ケントリッジ演出の「魔笛」(←当時の感想)が、とうとう新国立劇場にやってきて念願の実演鑑賞が叶いました。

 南アフリカ出身であるケントリッジの「魔笛」は解釈にひねりを効かしたいわゆる読み替え系ではありませんが、時代設定を作品成立当時かその少し後の18世紀末~19世紀初頭に移し、啓蒙主義やヨーロッパ列強による植民地支配といった当時の時事的テーマを前面に押し出しているのが特徴です。
 (いちおう)ヒーローにあたるタミーノは探検家で、このアフリカの地を訪れて間もなく、モノスタトスら現地人たちを従える白人支配階級のザラストロと夜の女王との対立に巻き込まれてしまったという構図のよう。

 さらに印象的なのが、物語の軸となるこの光=ザラストロと闇=夜の女王との対立・相関関係を、これまた18~9世紀にかけて急速な進歩をとげ、エンターテインメントとしても大流行した光学に置きかえて視覚化していることです。
 眼(脳に景色を映す装置なわけなのでこれも光学器械の一種)、幻灯機かカメラ・オブスクラらしき箱型装置、影絵によるアニメーション、黎明期の白黒映画、また現代でも大盛況のプロジェクション・マッピング等々さまざまな形態の光学モティーフが背景に登場し、物語に一役買います(人の眼マークに関しては、初見時はよくこのオペラとの関係が取り沙汰されるフリーメーソンのシンボルとして出したのかと思ったのですが、実演で観ると光学の象徴としての意味のほうがより強調されているようでした)。

 すなわち太陽神殿をつかさどり理性と学問を信奉するザラストロ一派の「光」を、旧態依然とした支配者である夜の女王を退けようとする「自然の光を自ら用いて超自然的な偏見を取り払い、人間本来の理性の自立を促す」(Wikipediaより)という意味の啓蒙思想になぞらえたうえで、現在に至るまでの光学の進歩と結び付けたわけです。私自身もともとこうした映画登場以前の光学ショーに興味があったことも手伝って、この着眼点は実に鋭くて面白いと感心せずにはいられませんでした。また光学だけでなく測量学や天文学に関する図像・道具のイメージもあちこちに散りばめられており、一瞬ながら天球儀のシルエットなどが出てくるのも探検記や冒険小説好きにはたまらないものがあります。

 ...と、ここまでは上でリンクした記事の内容をほぼ繰り返す形になってしまいましたが新国のHPに掲載されたケントリッジのインタビューを読むに、映像収録版を見ての私の解釈はおおむね演出の意図通りというか、少なくとも間違ってはなかったようです(自画自賛/笑)。

 さて改めて今回の上演の感想ですが、こうした情報量の多い演出は舞台全体を同時に視界に収められる実演鑑賞の方がやはり向いているとみえ、映像では見落としていた発見が少なからずありました。
 明暗を強調したモノトーン調の美術はメルヘンチックな王道タイプの「魔笛」とは異なるものの、CGの変化と迫力にも助けられ、このオペラを魅力的にするのに欠かせない幻想性を十分に保っています。中でも夜の女王の二つのアリアで、音楽の盛り上がりにつれてカール・フリードリヒ・シンケルの有名な舞台デザインを下敷きにした満天の星空が現れ、四方八方に軌道を広げてゆく場面のプロジェクションマッピングは圧巻。ザラストロの登場場面で映しだされる立ち並ぶ柱のイメージとも対照をなしており、両陣営の性格を視覚面でみごとに印象づけていました。

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 ただこの演出の欠点を一つ挙げるなら、タミーノの成長物語としての一面が全体の方向性の中で埋もれがちになってしまい、そのため彼が試練を克服しパミーナを獲得するラストに至っても観る側としてはさほど喜ばしい気分を共有できない点ではないでしょうか。
 もともとの台本からして個性が強いとはいえないこの役ですが、新時代のリーダーとしての性格がザラストロに一点集中しているようなこの演出では、いつにも増して自発的な意思に欠けるでくの棒に見えてしまいます。今回演じたダヴィスリムは癖のない声質でベテランらしくきちんとした歌唱とはいえ、それがかえって覇気と若々しさに欠ける雰囲気を醸し出していたのもまずかったかと(容姿も同じく...)同様に相手役のパミーナにしても、ケントリッジのインタビューでは「タミーノを導く重要な存在」と明言されているにもかかわらず、自己主張が弱く面白みに欠けるお姫様キャラから脱しきれないままの感が拭えなかったです。
 シーズンオープニングの初日にしてはカーテンコールの熱気が今一つだったのも、もしかするとこうした肩入れできる主人公の不在による不完全燃焼感?(ぴったりな表現が思いつかない)が響いたように思えてなりません。最後にケントリッジ本人が登場した時は客席も結構沸いてましたけど。

 その一方で、ザラストロに体現される"啓蒙的"リーダー像にしても百パーセント肯定的には描かれていません。植民地の支配階級として新しい思想の教化にあたろうとするこのザラストロの設定には、正義であるにせよどこか上から目線の押しつけがましさが潜んでいるとはスカラ座の映像を見た時から感じていましたが、それはむしろ演出家があえて強調した点であることが今回よく伝わってきました。
 インタビューでロベスピエールを引き合いに出しているのが分かりやすかったですが、演出の根幹である「光」と「闇」の対立と相関というテーマに近代ヨーロッパの発展とその影に潜む負の面が重ね合わされているなら、こうしたザラストロの二面性が強調されるのは必然というべきでしょう。だからこそラストでザラストロを引き継ぐであろうポジションに就くタミーノとパミーナには、何らかの形でその方針への疑問を呈させてもよかった気がするのですが...

 スカラ座と同じローランド・ベーア指揮の音楽面に関しては演奏も歌唱もいくぶん小ぢんまりとまとまってしまった感はあるものの、演出のイメージ通り若々しいカリスマ感に溢れてよく通る声のザラストロ、変に笑いを取ろうとしないのが好印象のパパゲーノ、コケティッシュな愛嬌を振りまいて舞台を明るくした侍女三人組とパパゲーナ(女性陣は衣装も華やかで可愛い)などを筆頭にみな健闘でした。

 
 ところで、この「魔笛」でフィーチャーされた光学装置による見世物を取り上げた「マジック・ランタン―光と影の映像史―」という展覧会が、ちょうど重なり合う時期に恵比寿の東京都写真美術館で開催されており(こちらは八月に始まっていたのでギリギリの駆け込み鑑賞でしたけど)、観劇の翌週こちらにも行ってきました。
 
 もう終了してしまいましたが美術館HPへのリンク→https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3083.html

 小規模ながら見応えのある内容で、展示物はマジックランタン(幻灯)の映写機とガラス絵のスライド(いくつかは実際の映像も見られます)、またそれが上演される様子を題材にした当時の絵画がほとんど。珍しいところでは一見ボードゲームかと思うような箱に入った影絵芝居のキットとか。
 受付のあるロビーにも幻灯機が設置してあり、そこでは撮影や手を触れたりも可能だったので記念に数枚撮ってきました。オペラに出てきたのもこれとそこそこ似た形状や大きさだったような↓

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 それ以外にも今度の「魔笛」を見たあとだといろいろ思い当たる内容の展示も多く、つくづく新国とコラボしなかったのが勿体ないと考えてしまったくらいでした(過去にその手の企画ってやったことあったっけ?)
 例えばオペラ冒頭でタミーノが追いかけられ気絶する「大蛇」、ケントリッジ演出ではこの蛇の正体は実は三人の侍女たちが例の映写機を使って見せた影絵なのですが、展示されていた絵画(一枚はリンク先のHPにも)中にも手影絵で動物の形を作って遊ぶそっくりの光景が見つかったり。
 なにしろ日本語で読める文献類さえ多いとはいえない前時代の光学アートという分野で、実際の道具類や映像に触れられるだけでもレアなのに、偶然にもそれを重要なモティーフとして組み込んだ舞台作品が近くの劇場で上演されていてほぼ同時期に両者を鑑賞できたのは本当に貴重な体験でした。マジックランタン以外にも多種多様で知れば知るほど興味の湧いてくるこのジャンル、いつかまた少し異なった紹介の仕方で見られる機会があればと思います。

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

2018.09.01 17:26|怪奇幻想文学いろいろ
 前回のダイイング・アースRPGキャラクター作成続き。暫定残り33点のクリエーション・ポイント(cp)を先に決めた主要技能以外の要素に割り振っていこうと思います。

 ―個別技能を選ぶ

 個別技能(Indivisual Ability)はさまざまな専門的知識・技術をどれほど有しているかを示すもので、アルファベット順にAppraisal(鑑定)、Athletics(水泳・登攀・跳躍等運動全般)、Concealment(隠す/隠れる)、Craftsmanship(製作)、Driving(運転)、Engineering(機械操作・修理)等全部で二十二種類。(あまりファンタジー的でない〈運転〉や〈機械操作〉ですが、この世界には「終末期の赤い地球」で登場したようなかつての機械文明の名残りがいまだに存在している設定なので、それらの遺物を動かせる技能も含んでいるのかもしれません)

 取得できる数に制限はなく、また一つも選ばなくても構いません。1ランクにつき1cp、11ランク以上は追加コストが必要になる点は取得必須の五技能と同じ。まあこの辺りはフレーバー感覚で、使用頻度が高くキャラの現時点イメージとも外れないようなものをとりあえずチョイス。10cp残すのを目安とし、合計23cpぶんとなるよう振り分けてみます。

 Athletics〈運動〉:7  Etiquette〈作法〉:4  Perception〈感知〉:7  Wherewithal〈胆力〉:5 (暫定)

 Wherewithalという単語は辞書を引くと「~をするのに必要な(特に金銭面での)手段」とありますが、説明では「苦痛や超自然的恐怖に直面しても決断力を保てること」となっているためあえて〈胆力〉と意訳しました。アメリカンスラングでは「やる気」という意味もあるらしいのでそちらのニュアンスに近い?要はSANチェックに失敗しづらいという、なかなか心強い能力です。

 ―〈抵抗力〉の種類と値を決める

 このダイイング・アースRPGの特徴の一つが、能動的アビリティばかりでなく、自身に不利益をもたらしかねない各種の欲望をどれほど制御できるかを示すResistance(抵抗力)にもランクが設けられていること。いつ地球が滅びるかわからないという諦めと厭世感が支配するなか、人々が刹那的な快楽におぼれやすくなった退廃的世界観を強調するためでしょうが、シナリオの各所に〈抵抗力〉ロールをさし挟むことで緊張感を増せるでしょう(もちろんGMが適切なシチュエーションを考えなくてはなりませんが)。技能チェックと同様に処理し、成功すれば誘惑に打ち勝てたというわけです。

 存在するのは1:Resist Arrogance(傲慢への抵抗力) 2:Resist Avarice(貪欲への抵抗力) 3:Resist Indolence(怠惰への抵抗力) 4:Resist Gourmandism(美食への抵抗力) 5:Resist Pettifoggery(些事への拘りへの抵抗力) 6:Resist Rakishness(放蕩への抵抗力) の六種。
 
 個別技能と同じく、〈抵抗力〉は取得必須ではなく幾つ選ぶかも自由。ただし一種類の〈抵抗力〉に限り、1D6でランダムに選ぶならば、その欲と無縁であることを示す"total immunity"(完全免疫。該当する欲望に対してのみ〈抵抗力〉ロール免除。キャラシにはΩマークで表記)、自分の希望で選べば、1/2ボーナス(3cp)相当のランクを無償(所持cpから差し引く必要なし)で得られるとのこと。また、あえて〈抵抗力〉に一切cpを割り振らないのであれば、他の要素に費やすボーナス一回分(6cp)を新たに獲得できます。

  あとキューゲル・レベルのキャラにはほぼ不可能そうながら、一つでも15ランク以上のアビリティを有する場合〈傲慢への抵抗力〉は0となり、ダイスでその番号の1の目が出た場合振り直しとなります。飛びぬけた才能にはどうしても驕りがつきまとうということなのでしょう。

 ここは追加cpの対象にはならないようですが、やはりランダムチョイスの方が強いので今度もダイスで決めることにします。
 出目は4:Resist Gourmandism〈美食への抵抗力〉、つまり飲食に対する欲やこだわりが皆無に近い人に。しかし少食だと大柄で敏捷という先のロール結果のイメージと結び付けづらいので、空腹さえ満たせれば何でもいい系の味音痴タイプ? 食べること自体に不自由はしなかったけれど美味しいものを味わえないような環境で育ったとか。

 残すところ10cpとだいぶ厳しくなってきましたが、一種しか持たないのはなんとなくアンバランスなので、他に「貪欲」と「些事への拘り」への〈抵抗力〉も取っておきます(作成者個人の価値観を持ちこんで恐縮ですが、細かいことにうるさい人間がひじょーに苦手なもので)。 10の半分使ってそれぞれ2cpと3cpずつ。

 よって〈美食への抵抗力〉:Ω 〈貪欲への抵抗力〉:2 〈些事への拘りへの抵抗力〉:3

 ―所持品を決める

 前述のとおり、このゲームでは技能だけでなく所持品も一つにつき1cpで購入する方式。もっとも裸でうろつくPCがいてもまずいと、無償で2cpは身につけるものに使ってよいと記載されているので、実質服と履き物にはcpを支払わなくてよいと思われます。
 というか「キューゲル・レベル」のキャラはスタート時の所持品を最低限にとどめねばならず、現金、魔術アイテムを含む貴重品、移動・運搬の手段となる動物または乗り物、さらには食糧の携行も禁止というなかなか容赦のない指定がされているのですが...

 最終的にどちらの武器を選ぶかや身なりの詳細は、キャラのパーソナリティが固まってからでないと決めづらいためここでは保留しますが、衣服と靴のほか、武器(習熟している大弓かこん棒のどちらか) 、寝具、便利な道具を何か一つくらいは持っておきたいもの。これで3cpなので、最後の2cpで呪文を一つ買えばぴったり90です。

 ―取得する呪文を選ぶ 

 〈魔術〉が上限7ランクのキューゲル・レベルキャラが操れる魔法はかなり限られており、「単純」と「複雑」とに区分される呪文のうち「単純」カテゴリのものしか使えず、自身の〈魔術〉ランクの数値を超える数の呪文を持つことはできません。またD&Dに影響を与えたとされる、呪文の記憶システム(必要と思われる呪文を前もって脳内にインプットしておき、適切なタイミングで使う)もちゃんとありますが、こちらは呪文1つを覚えるのに〈魔術〉2ランクが必要となります。すなわち〈魔術〉3ランクのキャラであれば、「単純」呪文を開始時3つまで取得できますが、記憶して使いこなせる呪文はそのうち1つのみとなるわけです。
(それもそのはずで、「単純」カテゴリの呪文でも詠唱にはたっぷり20分かかり、それも適切な身ぶりを交えつつ一字一句正確に発音しなくてはならないというとんでもない代物。よって急場にその手順を省くため記憶システムがあると考えられます)

 現在作成中のキャラには〈魔術〉を4ランク確保してありますが、cpは2しか残っていないので呪文は一つしか買えません。まあ切り札的な一本があれば、あとはキャントラップ(簡単な呪詛・祝福)で切り抜けるのも悪くないでしょう。
 クイックスタートで選べる呪文は十種類のみ(ちなみに「終末期の赤い地球」の「魔術師マジリアン」の章で言及されるところによれば、この世界に存在する呪文はおよそ百種類とのこと)。「ベヒモスの大盤振る舞い」(ボリュームたっぷりの食事を出現させる)・「応急湿布」(ダメージ治癒)・「剛毅なる上腕の術」(筋力を一時的に増強)※訳は適当 などがありますが、ここは原作ファンとして「ミール城のトゥーリャン」にも登場する呪文、「ファンダールの透明マント」(Phandaal's Mantle of Stealth)を選んでみました。どんな状況でも姿を消せるのは便利ですし。あ、意味もなく悪いことには使いませんよ。

 ですが、クイックルールの〈魔術〉の項を読み直していてちょっとした問題に気付きます。原作にも描写があるように、この世界の呪文は記録媒体とセットであり(D&Dと同じく記憶したとしても、一度発動すれば頭から抜け落ちて再度覚えなくてはならないため)、従ってプレイ開始時に呪文を購入したキャラクターは同時にそれらが記された魔導書をも所持することになるとあるのです。
 え~、さっき持ち物を考える時本は計算に入れてなかったんですけど、となると道具は一つも持てない? なんか長旅の必需品は一揃い持たせてくれる他のTRPGが親切すぎるくらいに思えてきました(笑)
 
 ―プロフィールを作成し、名前をつける
 
 これで一通りのcp配分は済んだわけですが、まだ一番楽しくかつ難しい最後の段階が残っています。すなわち今までに決めてきた技能の〈型〉をはじめとする特徴から、そのキャラクターの姿形、年齢、性格、背景等を導き出し、人物像に肉付けを施していくわけです。

 もちろんPLにどんなキャラにしたいという明確な青写真があれば、(ボーナスを貰えないかわり)最初からふさわしい選択肢を選んでイメージ通りに仕上げるのもありでしょう。しかし今回のようにすべての選択肢をダイスでランダムに決めると、メインの性格指標となるであろう〈説得〉と〈拒絶〉において、「ひどく曖昧で複雑な話し方」が特徴ながらも、「純粋すぎて邪悪な誘惑を退け」てしまうという、微妙に掴みどころのない不思議くんが誕生するのはある程度避けられません。〈説得/雄弁〉の〈拒絶/鈍感〉みたいに、極端に矛盾した組み合わせでないだけまだましですが。 
 
 一方フィジカル面では、〈攻撃〉が「剛力」、〈防御〉が「眩惑」型という腕力と敏捷力双方に恵まれたタイプとなったので、これは体力的に今がピークの、ハイティーンぐらいの若者という感じです。その年頃なら超がつくピュアでもまだぎりぎり許されそうだし、隔絶された環境で本だけを相手に育ったことにして、回りくどくややこしい話し方はおもに人との会話より古めかしい書物から言語知識を得たからとしよう...と。あと〈魔術〉に関しては権力主義タイプという設定もあったか。
 というわけで上記を踏まえた生い立ち。そこまで詳しくする必要はないということなので、かなり大雑把です。
 
 かつては強大な魔術で近隣を支配していた旧家の末裔として生まれたが、父親は物心つく前に失踪、留守を預かるのに嫌気が差した母もほどなく幼い息子を置いて館を出てしまう。以来先祖たちが張りめぐらせた魔力のおかげでかろうじて荒廃を免れている広大な屋敷で、一族の遠縁にあたる無口な老乳母と二人きりで暮らし、庭で遊んでは古い書物に読みふける日々を送ってきた。
 
 そこには貴重な魔導書も少なからず含まれていたものの、さほど魔術の心得がない乳母には代々の当主たちが受けたような本格的な修練は与えられない。少年が血筋の天分と読書によってほぼ無意識に身につけていた初歩知識のあとは、危険が迫ったときに有用と考えた不可視となる呪文を一つ教え込むのがやっとだった。

 しかしその乳母も少年が十七歳を迎えて間もなく老衰で世を去り、亡骸を庭の一隅に埋葬した彼は、これまで書物でしか知らなかった広い世界を見に旅立とうと決意する。唯一操れる呪文が記された本、そして埃と錆だらけの武器庫でたった一つ使い物になりそうだった弓矢と簡単な寝具だけを携え、あてもなく地平線の彼方をさして歩きだしたのだった...


 実のところ没落した旧家と荒れ果てた屋敷というのはドムバー家の城館(キューゲルに酷い目にあわされたダーウェ・コレムの屋敷)のイメージを拝借した部分が大きいんですが、その点はまあ大目に見てください。
 
 最後に一番肝心な名前。実際にプレイするわけでもないし名無し君でいいかとも思ったんですが、ここは製作者的には世界観のためこだわるべき要素らしく、平々凡々な名前のキャラなんてGMはオープニングで瞬殺すべし的なことがわざわざ書いてあるほどなのです。ヴァンスのファンタジー作品に出てくる固有名詞って独特の語感だから、耳に馴染みのある西洋人名と違った響きの名前を一から考えつくのが難しいんですよね。

 結局全く真面目に考えないまま、名前なんて飾りじゃん!ということでカザリヤンと命名(ひどい) マジリアンの兄弟っぽい。
 
 ともかくこれで一通りのcp配分はすんだので、キャラシートを見直して割り振りcpの微調整をします。なんとなく〈防御〉から〈胆力〉に1ポイント移動させてそれぞれ9→8、5→6ランクに変更。これでちょうど48+24+5+3+10=90ポイントです。
 また良家の生まれならと持たせてみた「作法」ですが、本に埋もれて育ったならPedantry(アカデミックな類いの学識)のほうがふさわしそうかなと、ランク値は同じまま〈作法〉→〈学識〉にしてみました。

 ということでこちらが最終的なデータとなります(各技能・所持品の取得に必要なcpの値に関しては前回記事も合わせてご覧ください)

 能力値 
 共通技能 〈説得/曖昧模糊〉:10 〈拒絶/純真無垢〉:11 〈攻撃/剛力〉:9 〈防御/眩惑〉:8 〈頑健〉:9 (合計48cp)
 
 個別技能 〈運動〉:7  〈学識〉:4  〈感知〉:7  〈胆力〉:6 (合計24cp)
 
 抵抗力値 〈美食への抵抗力〉:Ω 〈貪欲への抵抗力〉:2 〈些事への拘りへの抵抗力〉:3 (合計5cp)

 所持品・服装 古びた絹服/革のブーツ(この二点はノーコスト)/ロングボウと矢/毛布/魔導書 (合計3cp)

 〈魔術〉:4 型:力ずく 開始時所持呪文:「ファンダールの透明マント」 (合計10cp)
 
 
 あとはキャラシに項目のある簡単なプロフィール。

 名前:カザリヤン 性別:男 年齢:17 
 
 髪の色、長さ:色は黒。乳母を亡くしてからは伸び放題のため上着から取った紐で後ろに束ねている

 容貌の特徴:眠そうな茶色い目のおっとりした顔立ちで、表情の変化に乏しい。服装と相まってどことなく浮世離れのした雰囲気(美形かどうかはご想像にお任せします)
 
 目立った癖:ひげが生えかかっている顎をこする
 
 身なり:旅立つまえ屋敷の衣裳部屋から持ち出した昔風の絹服一式。金糸織りの豪奢なものだったが、今となってはひどく古び色褪せてしまっている。足には衣服と不釣り合いな使いこまれた革製ブーツ。背中にはこれまた立派ながらも古びた弓と矢筒、本をくるんだ毛布を背負っている


 性格・態度:
 一見茫洋としているようでいて裏表のない素直な気性。基本的に他者には興味がなく、また感情の機微に聡いわけでもないが、本人に自分の心を偽るという観念が欠如しているせいか、不思議と相対した人間の隠し事を見抜くのに長けている。 
 初めて実際に触れる外の世界の何もかもが目新しく、次から次へと新しい発見を求めて一か所にとどまるのを嫌う。
 口達者ではないものの、一旦会話に入りこむと考えたことを余すところなく語りつくそうとする。それも昔の書物で習い覚えた成句や婉曲法を駆使して長広舌を振るうので、相手はたいてい煙に巻かれ会話の主導権を譲ってしまう。

 
 一言でいうと、世間ずれしていないぶん一般人の感覚からずれた人(そもそもダイイングアースに一般的感覚といえるものが存在するのなら)でしょうかね。 なお彼に食についへの関心がないのは独特の料理センスの持ち主だった乳母さんの手料理で育ったせいで、気の毒にも普通の食べ物が合わない味覚が形成されてしまったためです(笑)
 
 ダイイング・アースRPG、簡易ルールといえども原作へのオマージュが随所に感じられるユニークで興味が尽きないゲーム性なので原作の未訳ぶん共々いつか日本語化してほしいものです。ロールプレイ重視、かつプレイヤーとGM、またはプレイヤー同士の駆け引きを推奨するような性格がなきにしもあらずなので、私のような初心者にはちょっとばかりハードル高いかもしれませんが。

 どうやら私は無自覚のうちに背景などディテールに拘ってしまうほうらしく、最初は簡素にまとめるつもりだったのが予想以上に長くなってしまいました。まあここで書いたのは一応クイックスタート版ルールの手順を踏襲してはいても、あくまで私個人のキャラ作成方法にすぎないので、こんなものかという一例としてごらんください。というわけでここまで長々とお付き合いいただいて本当にありがとうございました。

テーマ:TRPG
ジャンル:ゲーム

2018.08.02 21:43|怪奇幻想文学いろいろ
 「終末期の赤い地球」や去年邦訳が出た「天界の眼」など、はるか未来の地球が舞台のジャック・ヴァンスのファンタジー、「ダイイング・アース」シリーズに基づいたテーブルロールプレイングゲーム(TRPG)があるというのを以前小耳に挟んで面白そうだなと思っていました。ところがThe Dying Earth RPGで検索してみると、簡易ルールのクイックスタート版ならゲームの紹介ホームページで無料入手が可能とのこと(もっと早く気づけばよかった)。さっそく落として読んでみました。
 
 このページからダウンロードできます(再配布は禁止)→https://www.dyingearth.com/downloads.htm

 プレイキャラクターの作成方法に加えて行為判定、戦闘、魔術といった基本ルールが一通り解説されており、限られた範囲ではありますが大まかなゲームシステムの把握には十分。ただし私自身世界観について不明なところが多い(全部で四冊の本からなるシリーズのうち、翻訳済みの先述二冊しか読んでいない)うえ、TRPGの経験もまだまだ浅いので、ところどころ理解が怪しい箇所があるのは否定できませんが。
 
 今のところプレイする予定は全くないものの、ダイイング・アース世界のオリジナルキャラを作ってみたい誘惑に勝てず(笑)ひとまずプリントアウトしたキャラシに手持ちのダイスを振ってキャラメイクだけやってみました。ダイスを振って決めるランダム要素が多いので、これだけでも結構楽しかったです。読みづらくて恐縮ですが、以下にその作成過程を記していこうと思います。

 ―クリエーション・ポイント(cp)とボーナスについて
 
 このゲームにはキャラクターの能力レベルごとに三段階のキャンペーンが存在し、それぞれ当てはまる原作登場人物の名を取って"キューゲル"(ご存知「天界の眼」とそれに続く「キューゲル・サガ」の主人公)、"トゥーリャン"(「終末期の赤い地球」前半に登場する魔術師)、"リアルトー"(未訳の第四作Rhialto the Marvellous で主役を張る大魔術師)レベルと呼ばれます。いわば初級・中級・上級者コースのようなものですが、今回のクイックスタート版で作れるのは、一般人に毛の生えた程度の"キューゲル"レベルのキャラのみ。
 
 "クリエーション・ポイント"(以下cp)と呼ばれる点数があらかじめ定められており、スタート時の能力・技能値、さらには所持品(物品だけでなく呪文も含む)まで、すべてこのcpの割り振りによって決められます。キューゲル・レベルのキャラに与えられるcpは60ポイントですが、これはあくまで初期値であり、次に述べる「ボーナス」によって増やすことが可能です。
 ボーナスを得る条件は「六択の選択肢のうち一つに決めるとき、ダイスに選択権を委ねる」ことで、これ一回につき6cpがもらえます。具体的には、各主要能力値には六つの異なったタイプ(Style/型)があり、キャラがそのうちどのタイプに属するかは自分の好みで決めても構いませんが、六面ダイスを振って出目の番号にあたる「型」を採用すれば、ダイスで選んだアビリティの数×6のボーナスポイントを初期値の60に加算してよいというわけです。

 ―共通技能+〈魔術〉の「型」を決める

 このようにトータルで得られるcp値は、ダイスによるランダムチョイスを最終的に何回行ったかで変動するため、先に選択対象となる各技能の「型」を決定していきます。システム上必須となる共通アビリティは以下の五つ。今回のキャラメイクでは最大限のボーナスを得るため、ダイスを振れるところではすべて振ることにしました(その方が面白いですしね)

Persuade 〈説得〉 このゲームでもとりわけ重要と明言されている技能で、直訳だと「説得(する)」となりますが、要は相手に会話を通して訴えかけ、自分の意に添うように動かそうとする交渉術です。キューゲルがいい例ですが、ダイイング・アースで生死を分けるのは戦闘技能より口先の達者さのようです。
 
 出目ごとの選択肢 (※それぞれ説明がつきますが、当たった目以外のものは長くなり過ぎるため省略します) 
1:Glib(饒舌) 2:Eloquent(雄弁) 3:Obfuscatory(曖昧模糊) 4:Forthright(単刀直入) 5:Charming(魅力的) 6:Intimidating(威圧的)

 最初の1D6は3のObfuscatoryでした。説明:「君のきわめて曖昧でややこしく入り組んだ語り口に、会話相手はその意味を汲みとることも自分の当惑を認めることもできず、君が話す事に一も二もなく同意してしまう」 いきなり一番変わったのが来た(笑)
 
Rebuff 〈拒絶〉 Persuadeと対になる、自身に不利益を招きかねない誘惑を退ける能力。
1:Obtuse(鈍感) 2:Wary(慎重) 3:Penetrating(看破) 4:Lawyerly(法律家) 5:Contrary(天邪鬼) 6:Pure-Hearted(純真無垢)

 次の出目は6のPure-Hearted。解説はこう 「あまりに純粋で愚直な君は、君を陥れようとする者たちの陰険なたくらみすら意図せずして暴いてしまう」
 なんだかよくわかりませんが、ピュアさも度を越すといかなる誘惑にも無敵になるものらしいです(パルジファルかな?) しかし複雑かつ曖昧な話し方をするくせ純粋無垢とはますます謎なキャラに...。

Attack 〈攻撃〉 文字通り、戦闘において相手に武器でダメージを与えようとする技能。
1:Strengh(剛力) 2:Speed(スピード) 3:Finesse (精緻) 4:Cunning(狡猾) 5:Ferocity(獰猛) 6:Caution(用心深さ)

Defense 〈防御〉 自分に向けられた攻撃を防ぐ。
1:Dodge(回避) 2:Parry(受け流し) 3:Sure-Footedness(安定感) 4:Intuition(直観力) 5:Misdirection(眩惑) 6:Vexation(挑発)

 今度は二回まとめてダイスを振ったところ1と5が出たので、〈攻撃〉がStrengh(剛力)、〈防御〉がMisdirection(眩惑)タイプとなりました。大柄で並外れた筋力にめぐまれ、かつ相手の目をくらますほどに素早く動けるということなので、とりあえず身体能力は高そうで一安心。
 
 なおこのゲームでは〈攻撃〉技能のうちどの「型」に属するかで、プレイ開始時に取得している武器技能の種類が決まります(後述するように、それで必ずしも武器そのものを「所持」していることにはならないようですが) 近接用と遠距離用の二種類があり、1の「剛力」タイプであるこのキャラクターなら、「型」別の専用武器であるこん棒と大弓の技能をあらかじめ持っていてよいというわけです。それ以外の武器を使いたいのであれば個別に取得もできますが、追加でcpを支払わなくてはなりません。

Health 〈頑健〉 キャラクターがどれほどダメージに耐えうる体力を有しているかを示す値、つまりHPです。数値だけなので、ここでは「型」分けのためのダイスを振る必要はなし。ここまでが取得必須の技能ですが、現段階でダイスを振った回数は四回(24cp)となります。

Magic 〈魔術〉 最低でも1ランクは取得しなければならない上の主要五技能と異なり、〈魔術〉には必ずしもポイントを割り振る必要はありません。また原作の登場人物たちもあれこれ苦心していたように、特に難しいアビリティである〈魔術〉には、習得に他の技能の二倍分のポイントがかかるうえ(魔術を5ランク取るには10cpが必要ということ)、"キューゲル・レベル"のキャラクターが到達できる上限は7ランクまでという制約が存在します。
 ※ただし〈魔術〉を持たないキャラでも、成功条件がかなり厳しくなりますがCantrapと呼ばれる簡単なまじないは掛けられます。「天界の眼」の「シル」の章で出てくるような特定の相手に向けての呪詛もしくは祝福で、範囲が限られているとはいえ効果は侮れないもののよう。

 コストがかかるとはいえ〈魔術〉は取ってみたいものなので、まず他の技能と同じように属する「型」(この場合は魔術に対するキャラのスタンス)だけダイスで決めることにします。もちろん好ましいものがあればボーナスを得られないかわりそれを選ぶこともできます。

1:Studious(学究の徒) 2:Insightful(洞察者) 3:Forceful(力ずく) 4:Daring(大胆不敵) 5:Devious(いかさま師) 6:Curious(好奇心)

 ダイス目は3:Forceful(力ずく)。「魔法とは世界を君の意思の下にひれ伏させるための技である。君は各種の魔法的存在をその呪文によって従えている」
 何となくピュアな不思議君をイメージしていたのがここに来て権力志向の王様キャラに...魔法が絡んでくると人格が豹変するタイプか、さもなくば代々魔術を使って権力を握ってきた家系の出とかでもいいかも。

 ―技能へのcp割り振り
 
 これで「型」別に分かれている技能はすべて選び終えましたが、合計五回オプションのダイスを振ったので、キャラメイクに使えるのは初期値の60にボーナス分の6×5=30を加えた合計90cpということになります。
 cp割り振りを必要とするのはこれらのアビリティ以外にも、「鑑定」「製作」「感知」といった一般技能と初期所持品・呪文、さらにはこのゲームの特色の一つである、破滅につながるさまざまな欲望にどれほど屈せずにいられるかを示す「抵抗力」値と多岐におよぶのですが、ひとまず目安として上の六つへのcp配分をざっくり決めておこうと思います。

 原語ではrateで表される能力値は、〈魔術〉を除きキューゲル・レベルでは原則1から10ランクの範囲。数値が大きいほど高い能力を示し、1cpを費やすごとに1ランクを取得できます(※rateを「級」であらわすと、日本語ではどうしても小さい数の方が優れているような印象になるので、ここでは勝手ながら「ランク」という表記を使わせていただきます。) それより上のランクを獲得するには、11ランク→+2、12ランク→+4、13ランク以上→+8の追加コストが必要。コストは1ランクごとに加算する仕様のため、一つの技能を13ランクにしようと思ったら10+2+4+8=合計24cpがかかってしまうというわけです。

 〈魔術〉以外の共通技能五つの最低ラインは1ランクですが、解説によればこれら全て8ランク以上あるのが望ましいとのこと。ここでは説明しきれませんが、行為判定の際にダイスロールで思わしい結果が得られなかったり敵対者に負かされたりした時には、使用技能のランクに等しい「アビリティ・プール」と呼ばれる数値を消費することで再ロールが可能になるというルールがあるのです。
 
 まあボーナスでcpも1・5倍に増えたことだしと、〈説得〉〈拒絶〉には強気に10cpずつ、残りの〈攻撃〉〈防御〉〈頑健〉もできれば各9ランクずつは欲しい...すると合計47cpになります。
 でもまだ90の半分ちょいなので、2点ぐらいならいいかなと10ポイント越えの技能を一つは作りたい誘惑にかられます。どちらにするか迷いましたが、なるべくトラブルに巻き込まれないよう(?)〈拒絶〉を11ポイントに上げてみることにしました。キャラ的にはますますバカピュアになる訳で、むしろ危なっかしい気がしないでもないですが(笑) これで暫定49ポイント。

 次に〈魔術〉。力で従えるという「型」のイメージ的にそこそこのランクは欲しいので、一応4ランク(8cp)分を確保しておきます。なおゲーム開始時に身につけている呪文は別コスト(一つにつき2cp)のため、後から選ぶつもりのそちらも念頭に置いておかなくてはなりません(やっぱり一、二種類は持っておきたいですよね)。

現段階での暫定的ランク→ 〈説得〉:10 〈拒絶〉:11 〈攻撃〉:9 〈防御〉:9 〈頑健〉:9 〈魔術〉:4 

 ここまでの消費cpはトータル57ポイント(残り33)。まだ使いどころがいろいろ残っていることを考えるとマイナス修正が必要かも。しかし長くなりすぎてしまったので、一旦切って続きは次回の記事で上げさせていただきます。さてどんなキャラクターが誕生することでしょう。

(9/1追記 続きをアップしました)

テーマ:TRPG
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