着物姿のヴァンパイア ― オペラ「吸血鬼」の爆笑映像
2012.06.19 21:21|音楽鑑賞(主にオペラ)|
YouTubeをウロウロしてたらとんでもないものに出くわしてしまいました・・・。いやこんなに笑えるオペラの映像は久しぶりかも。

「ミカド」じゃありません。もちろん「蝶々夫人」でもありません。

このブッ飛んだ演出、元祖ヴァンパイアを主人公にした「吸血鬼」というオペラなんですが・・・にしてもなぜ舞台が日本? とりあえず演出家(たしか女性)と話がしてみたい(笑)
↓映像はこちらからどうぞ。(飲食中は見ないことをお勧めします)
http://www.youtube.com/watch?v=Zr-bAwmWSBM&feature=related
シェリー夫人の「フランケンシュタイン」が執筆されたきっかけは、夫やバイロンとスイスの別荘に滞在中、暇つぶしに怪談の競作でもしようという話になったから(一説には、直前に訪ねてきた当時の有名なゴシック小説家、M・G・ルイスに触発されたとも)というのは有名な逸話ですが、このメンバーの一員だったのがバイロンの友人で医者のジョン・ポリドリ。
ポリドリがその時書いた小説「吸血鬼」は三年後の1819年にイギリスの雑誌に発表され、最初は当代きっての人気詩人バイロンの作と間違って伝えられていた上、登場する吸血鬼のルスヴン卿がバイロンその人を思わせるキャラクターなのもあって大変な人気を博しました。すぐにフランスやドイツでも翻訳が出て、あちこちで舞台化もされたうちの一つが、ハインリヒ・アウグスト・マルシュナーが1828年に作曲した同名のオペラです。
(※上記の内容は創元推理文庫「吸血鬼ドラキュラ」の、訳者平井呈一氏による解説を一部参照させていただきました。)
ポリドリの「吸血鬼」、私はずっと前に何かの全集に入っていたのを図書館で一度読んだきりなので、実はあまりよく覚えていません。「ドラキュラ」やレ・ファニュの「カーミラ」なんかと比べると、ずっと短く描写もあっさりしていた印象でしたが、ただこの二作品と違って完全なバッドエンドなのは結構頭に焼きついているかも。
今ではポリドリの名前はすっかり忘れられてしまった感がありますが、それでも「ヴァンパイアもの」というジャンルを創始した功績は大きいといえるでしょう。マルシュナーもワーグナーに多大な影響を与えたとされる作曲家の一人だけれど、後出の作品のせいで影が薄れた不遇感は小説とオペラの作者同士共通といったところ。
ただしオペラの筋は原作とはまったくの別物というくらい脚色されていて、「魔弾の射手」や「ドン・ジョヴァンニ」から借りてきたような部分もちらほら。以降簡単なあらすじ。
呪いを受けて吸血鬼になってしまったルートフェン(ルスヴンのドイツ語読み)卿はサバトに呼び出され、魔王からあすの真夜中までに三人の乙女を殺して捧げないと地獄行きだと宣告されます。
どうやらルートフェンもそうなることは予期していたらしく、前もって駆け落ちを約束してあった令嬢ヤンテを洞窟に連れ込み、首尾よく殺害に成功―― したまでは良かったのですが、折悪しく彼女を追ってきた捜索隊に断末魔の悲鳴を聞かれ、怒り狂った父親に深手を負わされてしまいました。
それでも吸血鬼化しているので普通の傷では死にませんが、自力では動けずに倒れているところに通りかかったのは旧知の仲のオーブリーという青年。すかさずルートフェンは彼に月光の当たる場所まで連れて行ってほしいと頼み、月の光を浴びてたちまち復活すると、驚くオーブリーに口外しないことを誓わせます。
翌朝オーブリーが恋人マルヴィーナを尋ねると、彼女の父親が突然娘は他の男と結婚させることにしたと宣告!うろたえる二人の前に現れたその相手とはルートフェンに他なりませんでした。
しかしマルヴィーナに狙いを定めてもノルマにはまだ一人足りないので、ルートフェンは村の結婚式に顔を出して花嫁エミーを誘惑。式前なのに「吸血鬼のバラード」という不気味な歌を歌いだしたりと、もともと魔性のものに魅入られていた節のあるエミーはあっさり落ち、二人目の犠牲者に。
いっぽう誓いを破ってルートフェンの正体をバラせば、自分も死後は吸血鬼になる運命だと釘を刺されてしまったオーブリー。仕方なくその日の夜遅く行われるマルヴィーナの結婚式を実力行使で阻止しようと押しかけますが、騒いでいるうちに期限の真夜中になり、結局オーブリーが真相を口に出すまでもなく、ルートフェンは地獄に引き込まれます。父親はマルヴィーナに詫び、オーブリーとの結婚を認めてめでたしめでたし。
こんな調子でいろいろ突っ込みどころ満載の台本。ルートフェン、計算高いようで肝心なところで詰めが甘すぎじゃありませんかね。
で例の映像なんですが、最後のクレジットで流れる歌手の名前から調べると、2008年にフランスのレンヌで上演されたもののようです。
(写真はネットに載ったレビューから借りてきました。上がっていた映像は後半だけで、上の写真でのピンクの着物姿が「吸血鬼のバラード」を歌うエミー、下はラスト近くの場面、中央で刀に手をかけているのがヴァンパイアのルートフェン卿、その左右にマルヴィーナと父親。)
…しかし召使や農民たちまで白塗りのお公家さんメイクにするのは勘弁してください。ほんと出演者の皆さんよく吹かずに歌えますね。演奏自体はところどころテンポがもたつくものの、オケも歌手(特に男性陣)もまあ頑張っている印象。
この作品、マイナーな割に録音は多くて(中にはブレイク前のヨナス・カウフマンがオーブリー役なんてのも)私は80年代のノイホルト盤を愛聴していますが、まとまった形で映像を目にしたのはこれが初めて。
一度、新国で外部団体が上演した実演も観たことがあります。日本人がヴァンパイアの定番コスプレをするのはかなり痛いものがあるというのが当時の感想でしたが、これ見たら和装の吸血鬼に対する違和感はそれの比じゃないと判明しました。日本の怪談には死んだあと鬼や怨霊と化す話は色々あっても、吸血鬼は全くといっていいほど出てこないからでしょうか。

「ミカド」じゃありません。もちろん「蝶々夫人」でもありません。

このブッ飛んだ演出、元祖ヴァンパイアを主人公にした「吸血鬼」というオペラなんですが・・・にしてもなぜ舞台が日本? とりあえず演出家(たしか女性)と話がしてみたい(笑)
↓映像はこちらからどうぞ。(飲食中は見ないことをお勧めします)
http://www.youtube.com/watch?v=Zr-bAwmWSBM&feature=related
シェリー夫人の「フランケンシュタイン」が執筆されたきっかけは、夫やバイロンとスイスの別荘に滞在中、暇つぶしに怪談の競作でもしようという話になったから(一説には、直前に訪ねてきた当時の有名なゴシック小説家、M・G・ルイスに触発されたとも)というのは有名な逸話ですが、このメンバーの一員だったのがバイロンの友人で医者のジョン・ポリドリ。
ポリドリがその時書いた小説「吸血鬼」は三年後の1819年にイギリスの雑誌に発表され、最初は当代きっての人気詩人バイロンの作と間違って伝えられていた上、登場する吸血鬼のルスヴン卿がバイロンその人を思わせるキャラクターなのもあって大変な人気を博しました。すぐにフランスやドイツでも翻訳が出て、あちこちで舞台化もされたうちの一つが、ハインリヒ・アウグスト・マルシュナーが1828年に作曲した同名のオペラです。
(※上記の内容は創元推理文庫「吸血鬼ドラキュラ」の、訳者平井呈一氏による解説を一部参照させていただきました。)
ポリドリの「吸血鬼」、私はずっと前に何かの全集に入っていたのを図書館で一度読んだきりなので、実はあまりよく覚えていません。「ドラキュラ」やレ・ファニュの「カーミラ」なんかと比べると、ずっと短く描写もあっさりしていた印象でしたが、ただこの二作品と違って完全なバッドエンドなのは結構頭に焼きついているかも。
今ではポリドリの名前はすっかり忘れられてしまった感がありますが、それでも「ヴァンパイアもの」というジャンルを創始した功績は大きいといえるでしょう。マルシュナーもワーグナーに多大な影響を与えたとされる作曲家の一人だけれど、後出の作品のせいで影が薄れた不遇感は小説とオペラの作者同士共通といったところ。
ただしオペラの筋は原作とはまったくの別物というくらい脚色されていて、「魔弾の射手」や「ドン・ジョヴァンニ」から借りてきたような部分もちらほら。以降簡単なあらすじ。
呪いを受けて吸血鬼になってしまったルートフェン(ルスヴンのドイツ語読み)卿はサバトに呼び出され、魔王からあすの真夜中までに三人の乙女を殺して捧げないと地獄行きだと宣告されます。
どうやらルートフェンもそうなることは予期していたらしく、前もって駆け落ちを約束してあった令嬢ヤンテを洞窟に連れ込み、首尾よく殺害に成功―― したまでは良かったのですが、折悪しく彼女を追ってきた捜索隊に断末魔の悲鳴を聞かれ、怒り狂った父親に深手を負わされてしまいました。
それでも吸血鬼化しているので普通の傷では死にませんが、自力では動けずに倒れているところに通りかかったのは旧知の仲のオーブリーという青年。すかさずルートフェンは彼に月光の当たる場所まで連れて行ってほしいと頼み、月の光を浴びてたちまち復活すると、驚くオーブリーに口外しないことを誓わせます。
翌朝オーブリーが恋人マルヴィーナを尋ねると、彼女の父親が突然娘は他の男と結婚させることにしたと宣告!うろたえる二人の前に現れたその相手とはルートフェンに他なりませんでした。
しかしマルヴィーナに狙いを定めてもノルマにはまだ一人足りないので、ルートフェンは村の結婚式に顔を出して花嫁エミーを誘惑。式前なのに「吸血鬼のバラード」という不気味な歌を歌いだしたりと、もともと魔性のものに魅入られていた節のあるエミーはあっさり落ち、二人目の犠牲者に。
いっぽう誓いを破ってルートフェンの正体をバラせば、自分も死後は吸血鬼になる運命だと釘を刺されてしまったオーブリー。仕方なくその日の夜遅く行われるマルヴィーナの結婚式を実力行使で阻止しようと押しかけますが、騒いでいるうちに期限の真夜中になり、結局オーブリーが真相を口に出すまでもなく、ルートフェンは地獄に引き込まれます。父親はマルヴィーナに詫び、オーブリーとの結婚を認めてめでたしめでたし。
こんな調子でいろいろ突っ込みどころ満載の台本。ルートフェン、計算高いようで肝心なところで詰めが甘すぎじゃありませんかね。
で例の映像なんですが、最後のクレジットで流れる歌手の名前から調べると、2008年にフランスのレンヌで上演されたもののようです。
(写真はネットに載ったレビューから借りてきました。上がっていた映像は後半だけで、上の写真でのピンクの着物姿が「吸血鬼のバラード」を歌うエミー、下はラスト近くの場面、中央で刀に手をかけているのがヴァンパイアのルートフェン卿、その左右にマルヴィーナと父親。)
…しかし召使や農民たちまで白塗りのお公家さんメイクにするのは勘弁してください。ほんと出演者の皆さんよく吹かずに歌えますね。演奏自体はところどころテンポがもたつくものの、オケも歌手(特に男性陣)もまあ頑張っている印象。
この作品、マイナーな割に録音は多くて(中にはブレイク前のヨナス・カウフマンがオーブリー役なんてのも)私は80年代のノイホルト盤を愛聴していますが、まとまった形で映像を目にしたのはこれが初めて。
一度、新国で外部団体が上演した実演も観たことがあります。日本人がヴァンパイアの定番コスプレをするのはかなり痛いものがあるというのが当時の感想でしたが、これ見たら和装の吸血鬼に対する違和感はそれの比じゃないと判明しました。日本の怪談には死んだあと鬼や怨霊と化す話は色々あっても、吸血鬼は全くといっていいほど出てこないからでしょうか。
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