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2014.02.25 23:57|音楽鑑賞(主にオペラ)
 昨年五月以来、ほぼ九ヶ月ぶりの舞台上演オペラ鑑賞でした(十二月の演奏会上演「青ひげ公の城」に行ってはいたのですが、年末の忙しさで感想が書けずじまいで)。その間でまた視力が落ちたらしく、文化会館のてっぺんからだと字幕がまったく見えなくなっていることに気がついてしまいました

 それでも今回のマクヴィカー演出のプロダクションは全体に落ち着いた色合いの装置・照明で、このオペラにありがちな(視覚的に)どす黒かったりぎらぎらしたりといったシーンもなかったので、その点目の悪い人間には見やすいのがなにより。
 
 セットは一貫して石造りの寺院のような大きな建物の内部を思わせるもので、左右には棺台を思わせる石の台座が並んでいます。これが広場になったり王宮の一室になったりして最後まで場面転換なしで通すのですが、ちょっとした道具や光の加減で変化をつけるといった工夫があるので単調さはなく、全体にとてもすっきりとして洗練されたビジュアルです。
 
 ただ、このように余計な要素を排して登場人物間のドラマに重点を置いて鑑賞できる正統派の舞台であるいっぽうで、全体に薄味というのかあと一押しのインパクトがあっても良かったような。
 身分や立場の中で身動きのとれない登場人物たちの重圧、また異端審問に象徴されるような、現代人にはおどろおどろしくさえある宗教の血なまぐささといった要素がふしぎと希薄だったのがそう感じた最大の要因で(この日の宗教裁判長氏が声質的にあまり不気味でなかったのもそれを助長してしまっていました)、そのあたりはむしろ悪趣味に走るくらいのどぎつい見せ方をしてくれたほうが納得できたかもしれません。
 
 アウト・ダ・フェの場面もこの演出家にしては意外なほどおとなしめで、全体に舞台の色調と同じくクールで寒色系な「ドン・カルロ」だったという印象が残ったのでした。まあ、このあたりは近頃生でも映像でもアクの強い演出ばっかり見ている私の感覚にも問題ありそうですが…。 

 それでも歌唱面は視覚面よりずっと熱を帯びていて(この日はBキャスト)、中でも題名役を凛とした声と姿で王子にふさわしく演じたテノールの山本さんが最大の収穫でした。ここでのカルロは特に神経症的な面を強調されたりしてはおらず、悲劇のヒーローなのも良く似合っていたと思います。
 
 ちょっと特徴的な鋭い声なのがかえって常に気を張り詰めて生きる王妃のキャラクターを反映しているようなエリザベッタと、他者の前では冷厳さを崩すことのできないフィリッポ(モノローグのアリアはそれを崩したぶん、ちょっと素の若い感じが声と表現に覗いてましたが)の国王夫妻も良かったし、エボリ公女とロドリーゴもそれぞれキャラクターが立っていました。あとテバルドの舞台姿にすごく華があって、宝塚ファンの気持ちがちょっと分かったかも(笑)

 フェッロ指揮する都響の演奏は前半は細やかで好印象だったのですが、個人的には後半のエボリの告白あたりからドラマが一気に大詰めまで突き進んでいく収束感が出し切れてなくやや失速気味に感じてしまいました。それでも最後は、息子が息絶えて初めて愛情を見せられる父親(この演出でとりわけ心に残った場面)で締めくくる幕切れも効いてやっぱり心に響いたのでした。

テーマ:オペラ
ジャンル:音楽

2014.01.02 22:03|音楽鑑賞(主にオペラ)
 新年おめでとうございます。
 これは本当は昨年末に投稿するつもりだったのに、ほぼ書き上げたところでPCのアクシデントで未保存のまま消えてしまい、大晦日から書き直す羽目になった記事です(泣) 最近は更新もグダグダではありますが、今年もよろしくお願いいたします。
 

 以前こちらの記事でとりあげたフランス人作曲家ピエール=ルイ・ディーチュのオペラ「幽霊船」(Le Vaisseau Fantome)ですが、マルク・ミンコフスキとレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの、ワーグナーの「オランダ人」初稿版との二本立て演奏会形式上演(実際にはウィーンだけでなく、本拠地グルノーブルはじめ何か所かでほぼ同じキャストによる公演があったようです)の録音が先月リリースされました。
(現地で聴いてこられてCD発売についてもご教示いただいたgalahadさん、この場を借りてお礼申し上げます。)

ワーグナー : さまよえるオランダ人 | ディーチュ : 幽霊船 (Wagner : Der Fliegende Hollander | Dietsch : Le Vaisseau Fantome / Marc Minkowski , Les Musiciens Du Louvre Grenoble) (4CD) [輸入盤]ワーグナー : さまよえるオランダ人 | ディーチュ : 幽霊船 (Wagner : Der Fliegende Hollander | Dietsch : Le Vaisseau Fantome / Marc Minkowski , Les Musiciens Du Louvre Grenoble) (4CD) [輸入盤]
(2013/11/20)
マルク・ミンコフスキ、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル - グルノーブル 他

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 届いたCDをようやく対訳と照らし合わせつつじっくり聴くことができたので、これまでずっと謎のままだったディーチュの作品のストーリーについて記しておこうと思います。

 よく知られているように、ワーグナーが自作、つまりのちの「さまよえるオランダ人」用に書き上げたプロットをパリ・オペラ座が買い取り、それをフシェとレヴォワルという二人組が新しく仕立て直した台本にオペラ座と関係の深い音楽家ディーチュが作曲したというのが「幽霊船」の成立経緯です。ですから大筋は「オランダ人」とほぼ同じとはいえ、実際リブレットを読んでみると内容自体はかなり異なった印象のものでした。

登場人物一覧:  ※( )内はワーグナー「オランダ人」における対応する役柄です。

バーロウ:シェトランドの商船主。お金に目がない。(ダーラント)
ミンナ:バーロウの娘。(ゼンタ)
マグナス:ミンナの幼なじみ。トロイルにその舵手を務めていた父が殺されたと知り、復讐を誓う。(エリック)
エリック:近所のおじさん。父親が航海で留守がちなミンナの面倒を見ている。(乳母マリー+舵取り?)
トロイル/ヴァルデマール:スウェーデンの船長。ある岬(喜望峰)を回ろうとして神を冒涜したため、海をさまよい続ける呪いをかけられる。(オランダ人)
シュリフテン:トロイルの船の乗組員。(該当なし)

 唯一当てはまるキャラクターのないシュリフテンですが、この名前は同じ題材を扱った英国のフレデリック・マリヤットによる小説「幽霊船」(←大筋はリンクした以前の記事で)からの借用です(CDのライナーノートによれば、マリヤットの「幽霊船」は本国で出版されてすぐの1839年には仏訳されていたとのこと)。
 
 ただ、原作のシュリフテンは無理やり岬を回ろうとする船長に歯向かって殺されてしまう舵取り(オペラだとマグナスの父にあたる人物)なので、ここではその名前が別人に与えられているというややこしいことになってます。以前ネット上で見つけたミュージカル・タイムズ誌掲載の論文でマグナスが「シュリフテンの息子」とされていたのも、おそらくマリヤットの小説との混同によるものでしょう。
 いっぽうそのマグナス父のほうは物語の展開上かなり重要な役割を担っているものの、こちらは言及されるだけで出てくることはありません。(もっとも幽霊が登場するオペラだって少なくないし、マグナスが父の亡霊から過去の出来事を知るくだりは説明台詞で済まさず実際に舞台で演じさせたらもっと効果的だったんじゃないかと思ってしまいましたが。)

それではあらすじ。ちなみに全曲の上演時間はだいたい一時間四十分程度です。

第一幕
 
 第一場:

 夕暮れ時、富裕な商人バーロウの家。彼が航海に出ているあいだ残された娘のミンナが寂しくないようにと、エリックたち近所の人々が集まって歌を楽しんでいます。あと一曲でお開きということになり、エリックからのリクエストでミンナは"De Satan mobile royaume"(それはサタンの漂う王国)というバラードを歌いだします。そのバラードとは、神に守られ不純な者は近づけないという岬を悪魔の助けによって過ぎようとしたため、永遠に海をさすらう呪いを受けた船長トロイルの物語でした。
 
 ミンナが「トロイルを救えるのは、死に至るまで彼への誠を誓う女性のみ」という第二節を終えたとき、しばらく姿を見せなかった彼女の幼なじみマグナスがとつぜん部屋に入ってきます。
 驚く一同に、彼はその歌にはまだ続きがあると「船長は彼の恐ろしい所業に反乱を起こそうとした舵取りを海に投げ入れたが、そのとき受けた手の傷は決してふさがらずに血を流し続けている」という内容の三節目を付け加え、さらにその舵取りこそが自分の父だといいます。どうしてそれを知ったのかミンナが尋ねても、マグナスは「天から告げられた」と答えるのみ。

 他の客たちが帰ると、一人居残ったマグナスは思い詰めたようにミンナに結婚を申し込みます。もともと彼には恋愛というより兄弟のような感情を抱いていたミンナですが、断って彼を苦しませたくないからと(どうにも消極的な感じではありますが)父親が認めてくれればという条件で承諾してしまいました。
 
 喜び勇んでマグナスが去ったあとの夜更け、嵐の訪れにミンナは海にいる父の身を案じ、さらにトロイルの運命に思いを馳せて彼にも救いをと祈りを捧げます。翌朝になって家に駆けつけてきたエリックから、バーロウは難破するも異国の船に救助されて無事上陸したと知らされた彼女は父の生還を神に感謝するのでした。

 第二場:

 バーロウの家に続く街路。娘と待望の再会を果たしたバーロウは、自分を助けてくれたのはヴァルデマールというスウェーデン人船長だと話します。ぜひ彼にお礼をしたいというミンナですが、なんと父親はすでにヴァルデマールに彼女の肖像を見せて結婚の約束までとりつけてしまったとのこと。バーロウは部下のいうヴァルデマールの不気味な雰囲気など気にする様子もなく、金持ちならたとえ悪魔でも喜んで婿にするさと歌って家に入っていきます。
 
 親娘が立ち去った通りでは、エリックら町の人々がスウェーデンの船乗り一同を飲みに誘いますが、中の一人シュリフテンはそんな酒飲めるかとすげなく断り、逆に持参したワインをエリックに勧めます。その味の異様さに驚愕したエリックは今度は歌比べを持ちかけるも、相手のぞっとするような歌に圧倒されたシェトランドの人々はだんだん逃げ腰に。

 その時ヴァルデマールが姿を現し、部下たちを一喝して船に追い返します。そして続けて家から出てきたミンナに、彼は海をさすらう自分の希望の灯になって欲しいと切々と訴えるのでした。マグナスとの約束を気にしつつも、次第に心を揺さぶられたミンナはついに承諾の言葉を口にしてしまいます…。

第二幕

 島の先端にある岩だらけの海岸。ミンナへの思いを振り切って修道院に入ることを決意したマグナスが門の前にひざまずいており、やがて修道院長に導かれて中に消えていきます。
 そして結婚式を控えたミンナが一人祈りを捧げようとやってきたとき、修道士姿で彼女を出迎えたマグナスは自分が司祭として二人を祝福すると告げるのでした。 

 しかしヴァルデマール、つまりトロイルはいまだにミンナに自分と運命を共にさせる決心がつきません。とうとう式の直前、花嫁を呼び出した彼は自分の正体を明かして別れを切り出しますが、ミンナはそれを知った上でなおも彼に従いたいと言い切ります。
 
 集まった人々に見守られ、司祭マグナスの前へと進み出る二人。しかし互いの指輪を交換しようとヴァルデマールが手袋を取ると、そこには血を流し続ける傷が口を開けていたのです。それがかつて父が負わせた傷と悟ったマグナスは一転、この男は呪われた船長、殺人犯トロイルだと激しく糾弾します。

 周囲の驚愕と怒号のなか海へ去ろうとするトロイルに向かい、ミンナは私があなたを救うと呼びかけるとそのまま海へ身を投じます。するとトロイルの船は轟音を立てて沈み、やがて晴れゆく雲の合間にはトロイルを神の御許へと導いてゆくミンナの姿が照らし出されるのでした。


******

 ワーグナー版と比べて面白かったのは、やっぱり各登場人物のキャラクターの違い。ヒロインのミンナには「オランダ人」のゼンタのように周囲から浮いた変人チックなところはないかわり、なんというか流されやすくて主体性がないのは現代人の価値観からするといらいらするほどです(笑)
 
 マグナスもはじめは身を引くのが潔すぎて逆に怖いくらいに思えましたが、これはよく読んでみるとそうでもなくて、彼は冒頭で登場した時点ですでにミンナに振られたら修道院入りする覚悟だったようです。
 上に補足すると、マグナスは父の亡霊からトロイルの殺人と目印の傷について告げられたとき、さらに「ある務め」(むろんマグナス本人は知りませんが、トロイルの罪を暴くこと)を果たすため神に仕えよと命じられ、それに従うかミンナとの幸せをとるかの二択を迫られて彼女の気持ちを確かめにきたというわけでした。
 まあ、物語の上に限っていえばマグナスはそうした背景があるぶん、「オランダ人」のエリックより共感しやすい役ではあります。音楽的にはトロイルやミンナと変わらないほど出番があるのに、アリアひとつもないのが不憫もいいところなんですが。

 しかしミンナとマグナスの年齢から考えて、トロイルの船が「幽霊船」になったのはどれだけ長くてもせいぜい二十数年前くらいの出来事ということになるので(ただマリヤットの小説にしてもそうなんですが、これは幽霊船の伝説が広まって歌までできてしまう期間としてはちょっと短すぎないでしょうか?)、トロイル以下船員たちにもまだそれなりに人間らしさが残ってたのかもしれませんね。彼らにつけられた音楽に決定的に不気味さが欠けているのは、そのためなんだろうと勝手に脳内補完しました(笑)。
 
歌手陣の顔ぶれは↓の通り。リヒター、カトラー、カレスは同梱のオランダ人初稿版にも出ていて聞き比べも楽しめます。

ミンナ:サリー・マシューズ(英)
トロイル:ラッセル・ブラウン(カナダ)
マグナス:ベルナルト・リヒター(スイス)
バーロウ:ウーゴ・ラベク(仏)
エリック:エリック・カトラー(米)
シュリフテン:ミカ・カレス(フィンランド)

 ディーチュの音楽は、幽霊船という超自然的存在の魔力を感じさせないのが物足りなくはありますが、フランス風なエレガンスのうちにも北の海の陰鬱さが漂うそれなりに聴きごたえあるものです。とりわけミンナ、トロイル、マグナスの緊迫したやり取りが続く二幕は歌手の皆さんとオケの熱演もあってなかなかの迫力でした。
 
 何はともあれ、幽霊船ものマニア(そんな人私以外にいるのか知りませんけど…)としては、このレア作品が復活上演されて録音まで発売されたことに感謝したいです。

テーマ:オペラ
ジャンル:音楽

2013.11.23 23:53|音楽鑑賞(主にオペラ)
最終日になんとかすべり込み鑑賞。

 楽しみだったのは、やっぱりスカラ座の「魔笛」で興味をひかれたウィリアム・ケントリッジの演出です。(現代アートに疎い私はケントリッジのプロフィールについてほとんど知らなくて、今度のインタビューではじめて南アフリカ出身とわかったのですが、あの魔笛が植民地主義の問題を強調していたのはその影響もあったのかと今さらながら納得でした。)

 帝政ロシア時代のペテルブルクが舞台のゴーゴリの短編に、ほぼ百年後ショスタコーヴィチが作曲したオペラ版「鼻」は、舞台に乗せる尺の関係上か多少原作にない部分は付け足されているものの、おおむね小説の筋どおりのストーリーです。
 
 簡単なあらすじ。
 
 八等官の役人コワリョフが起きてみると、どういうわけか顔から鼻だけがきれいに消えうせてしまっていたのです!!!
 行きつけの床屋の朝食のパンから出てきたその鼻は、こともあろうに"主人"より上の五等官の制服を着込んで町中歩き回ったあげく(コワリョフに出くわしても文字どおり鼻であしらう)、とうとう馬車で逃亡しようとしたところを張り込んでいた警官たちによって身柄確保。
 警官から鼻を返してもらって喜ぶも、今度はくっつける方法がわからず途方にくれるコワリョフですが、しばらく経った朝、鼻は何事もなかったように元の場所に戻って一件落着…となるのでした。

 街じゅうを逃げ回る鼻はケントリッジ得意の手法である影絵アニメーションで背景を駆けめぐるうえ、張りぼてをかぶった姿で舞台にも登場。なお、この張りぼて鼻にモデルを提供したのはケントリッジ自身とか。
 さらにこの鼻、喋る!というか歌うので、コワリョフと鉢合わせしてしまう場面ではちゃんとそれ役のテノール歌手も出てきて、鼻のくせに(…)変幻自在のやりたい放題っぷりが笑えます。

 鼻の逃走劇と持ち主のコワリョフはじめ、それに関わる羽目になった人たちがあちこちで繰り広げるドタバタをユーモラスながら分かりやすくステージ上で見せる手腕はみごとでした。背景スクリーンに影絵アニメとあわせて字幕や実写の映像がたびたび流されるのも、時にはちょっとくどく感じましたが状況説明も兼ねていて助かるし、都会の(あるいはむしろ、作曲当時のスターリン体制下ソ連のというべきでしょうか)息苦しさをよく出しています。
 
 ビジュアルイメージのベースになっているのは、ケントリッジがペテルブルクまで取材に行ったとき入手したという古い百科事典や新聞が素材のコラージュ。
 コラージュというのは聖歌にジャズ調、ロマンチックな母娘の重唱あり前衛音楽風ありと、雑多な様式がごた混ぜになったこのオペラ自体のスタイルとも重なるようでうまいなーと思いました。このプロダクションは先にケントリッジの起用のほうが決まっていて、その後演出したいオペラとして選んだのが「鼻」だったとも言ってましたが、確かに作品と演出家めいめいの個性がぴったりはまった好例でしょう。

 ただ「魔笛」もそうなんですが、ケントリッジの舞台は映像だと魅力が伝わりづらいというか、実際の劇場ならもっとずっと楽しいだろうな…と思う部分もなきにしもあらず。特に映像で多くを語るような場面は、それをまた映像越しに見るのがどうしても味気なく感じてしまうというのか。日本にもファンは多いようですし、どこかの団体で上演企画でもしてくれないでしょうか。

 ↓同じ演出のリヨン歌劇場での上演映像がダイジェスト版であがってました。主役のコワリョフはメトのパウロ・ショットとだいぶ違ったタイプですが(笑)、NYでも揃って好演した警部や床屋夫婦やお医者さんは同じキャスト陣です。あと大野和士さんの指揮が聴けるのも貴重かもしれません。

http://www.youtube.com/watch?v=PVdIrhVmCYI

 ショットのコワリョフ、ぜんぜんコメディ風味でない大真面目な演唱だったのがかえって効果的でした。なかなかの風采で紳士風なのも、かっこつけたがりな原作のイメージどおりで良かったですし。
 
 しかし今回は演出が売りのプロダクションとあってか、休憩なし上演で時間が取れないとはいえ、歌手と指揮のスメルコフ以下演奏家のインタビューなしだったのは寂しかったです。プログラムに載っていた役名もコワリョフと「鼻」と警部の三人(いや実質二人?)だけでしたしねー。

忘れないようにキャスト一覧(OperaNews誌サイトからの転載です)

THE CAST
Kovalyov  baritone, PAULO SZOT
Yakovlevich/Khosrev-Mirza bass, VLADIMIR OGNOVENKO
Praskovya Osipovna/Pretzel Vendor soprano, CLAUDIA WAITE
Police Inspector tenor, ANDREY POPOV
Ivan, Kovalyov's Servant tenor, SERGEI SKOROKHODOV
The Nose tenor, ALEXANDER LEWIS
Newspaper Clerk bass-baritone, JAMES COURTNEY
Traveler actor, STASS KLASSEN
Escorting Lady actor, TATYANA ZBIROVSKAYA
Escorting Gentleman actor, VADIM KROL
Mother soprano, MARIA GAVRILOVA
Matron mezzo,THEODORA HANSLOWE
Doctor/Cabby bass, GENNADY BEZZUBENKOV
Yaryzhkin tenor, ADAM KLEIN
Mme. Podtochina mezzo, BARBARA DEVER
Mme. Podtochina's Daughter soprano, YING FANG
Respectable Lady mezzo, KATHRYN DAY
Female Voice soprano, ANNE NONNEMACHER
Ensemble basses BRIAN KONTES,
KEVIN BURDETTE, MATT BOEHLER,
JOSEPH BARRON, GRIGORY
SOLOVIOV, PHILIP COKORINOS,
KEVIN GLAVIN, CHRISTOPHER JOB,
RICARDO LUGO; tenors SERGEI
SKOROKHODOV, MICHAEL MYERS,
BRIAN FRUTIGER, TONY STEVENSON,
JEFFREY BEHRENS, MICHAEL FOREST,
TODD WILANDER

Conducted by PAVEL SMELKOV
Production: William Kentridge
Stage directors: William Kentridge,Luc De Wit
Set designers: William Kentridge,
Sabine Theunissen
Costume designer: Greta Goiris
Lighting designer: Urs Schönebaum
Chorus master: Donald Palumbo

テーマ:オペラ
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

2013.08.29 05:32|音楽鑑賞(主にオペラ)
全幕見終えたら正直オブジェより幽霊船員よりゼンタが怖かった((( )))

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魔像オランダ人のオブジェを抱えるゼンタ。 
 
 上のグロテスクなオブジェ=台本に出てくるオランダ人の絵。本来肖像画に思いを寄せる設定のゼンタは、ここでは工作用のナイフを手にその仕上げに余念がありません。
 しかしこのリカルダ・メルベト演じるゼンタ、だんだんそのナイフで魔像に生贄を捧げんとする邪教の巫女か何かに見えてきてしまった(汗) この演出でのキャラ付けが怖いのかメルベトが怖いのか、こんな狂気じみて不気味なゼンタは初めてだと思ったぐらいです。

 もちろんこのオペラ自体は気味悪くていいんですよ。ただ肝心のオランダ人がそこらの商店街にいそうな普通の人っぽい雰囲気なのに、ゼンタの異様さだけが一人歩きしているのはちょっと…ネタ的には面白いけど。
 
 演出全体のコンセプトはオリジナルとそうかけ離れていない印象で、世界中を渡り歩くビジネスマンのオランダ人が工場の社長ダーラント(フランツ・ヨーゼフ・ゼーリッヒ、ぴったり)家に婿入りして腰を落ち着けたいという話になっているようですが、軸をゼンタの方に移すような読み替えがあるわけでもないからなおさらちぐはぐに感じてしまいました。
 そもそもこの筋書きで皆が怖がるオランダ人の物語に相当するのって何なんでしょう。仕事人間すぎると顔中アザだらけになるとかいう都市伝説かな(違)
 
 そういった方面には目をつぶるにしても、ヤン・フィリップ・グローガーの演出はオランダ人のモノローグ時のような場違いな動きの悪目立ちが多くて全体にどうもぱっとしません。
 ただ以前書いたとおり、二年目の今年はゼンタのビジュアルイメージが去年とおそろしく違っているわけで(リンク先の記事参照)、一体なんであんなあさっての方向に変わったのかは興味をひかれるところです(笑)

  ティーレマンの音楽作りは一貫してパワフルで、いい意味での荒々しさが効いていたと思います。ただオランダ人とゼンタの二重唱の前半などはもう少し静かななかに凝縮した叙情性を引き出してほしかったですが…。もっともあの場面はオランダ人役のサミュエル・ユンよりメルベトの声のほうが前に出すぎて、アンバランスに感じたのがそう感じた一因かも。
 
 それ以外のところではメルベトは歌でも演技に負けない強烈っぷりだったし(さっきから怖いの不気味だのと失礼ですが、前見たタンホイザーのエリーザベトは大変聖女らしく素晴らしかったので、別にあれが素ではないと思います!)、ユンも声だけ聞いている分にはそれなりに凄みと貫禄のある幽霊船長で、どちらも良かったと思うんですけどね。

 ゼンタの乳母マリー(クリスタ・マイヤー)など他の登場人物たちは、みんなダーラントが経営する扇風機メーカーの社員という設定。冴えない雑用係らしきエリックはこの役を新国立劇場でも歌っていたトミスラフ・ムツェクで、これは今回のほうが存在感ありました。ベンジャミン・ブルーンスの舵取り(社長と車代わりのボートで外回り…)がオランダ人とは対極の、ノリの軽いビジネスマンキャラでやたら目立っていたのが面白かったです。

 ところで先日、テーマに惹かれてこんな本を注文してみました。

The Ghost Ship: Stories of the Phantom "Flying Dutchman"(←Amazonリンク)

 ワーグナーが直接のソースにしたハイネ「フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想」抜粋版、やはりオペラに影響を与えたとされるハウフ「幽霊船」等の古典から現代作家のものまで、「さまよえるオランダ人」をはじめ幽霊船伝説にまつわる作品を並べたアンソロジー。

 いつもこのブログで取り上げているホジスンの作品が含まれているのが縁で見つけたのですが、ほとんど聞いたことのない作家が大半です。知っている名前は上記以外だとジョゼフ・コンラッド、あと意外なことにSF系で有名なロジャー・ゼラズニイぐらいでした。
↓収録作一覧は下記リンクで見られます。 

http://www.isfdb.org/cgi-bin/pl.cgi?310036

(この手のアンソロってたいていは玉石混合ですけど、一つか二つ好みに合った作品があれば満足することにしてます。でもホジスンの収録作が「幽霊狩人カーナッキ」シリーズのThe Haunted Jarvee(日本版タイトル「魔海の恐怖」)というのはちょっと微妙なチョイスに思える…。)

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

2013.08.08 00:52|音楽鑑賞(主にオペラ)
 「指環」新演出のせいで影が薄れてしまった感が否めませんが、今年のバイロイト音楽祭では上演二年目の「さまよえるオランダ人」が映像収録・中継されました。日本でも一月遅れで、今月末にNHKプレミアムシアターで放送予定です。

 しかし偶然第二幕だけがネットに上がっているのに行き当たり、(あえてリンクは貼りませんけど)これくらいならいいかと一足先に見てしまいました。
 それで気がついたことなのですが、どうも舞台の色調が去年写真で見たのとかなり違っているのです。初演のは血を思わせる赤がすごく強調されていた記憶があるのに、今年は全体に黒っぽいトーンでしたから。
気になって去年の舞台の画像を探してみました。

上:去年のゼンタ(A・ピエチョンカ)とオランダ人(S・ユン) 下:今年(ゼンタはR・メルベートに変更)

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 まず目を引くのはヒロインのゼンタが着ているワンピースで、真っ赤から紺かネイビーブルーという正反対の色に。背中のチョウチョの羽根みたいなのも、可愛い(?)タイプだったのがどことなく禍々しい雰囲気へとイメージチェンジしています。

 もっと凄いのはゼンタが段ボールを素材に作っているらしきオブジェです。最初の年は少なくとも、はっきりオランダ人の人形と船に見える形だったのが…

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↓もはや名状しがたい物体に 映像のアップでも何なんだかよくわかりません。

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 プレミエでゼンタ役だったアドリアンヌ・ピエチョンカは今年はリハーサル期間が重なるエクサンプロヴァンスの「エレクトラ」に出演しているので、最初の一年でリカルダ・メルベートと交替することが早くから決まっていたはずです。
 なので演じる歌手の個性に合わせて変えたのか、演出コンセプトそのものに微妙な手を加えたのかはわかりませんが、確かにやたら血まみれにするよりは変更後のほうが不気味かなー まあ実際に見比べてみないことにはなんともいえませんけどね。
 
 このプロダクション今後も続くようなら、美術担当の方々にはぜひ張り切って頂いて観客のSAN値を下げるような舞台を期待したいです (←なんかもうこのオペラに求めるものが間違っている)

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2013.07.30 22:51|音楽鑑賞(主にオペラ)
 幽霊船が出てくる歌劇なんてせいぜい「さまよえるオランダ人」とその台本転用のこれ位かと思っていましたが、わりと最近意外な作品がオペラ化されていたのでした。

BallataBallata
(2011/08/09)
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 英国ロマン派の詩人サミュエル・テイラー・コールリッジ(1772~1834)の代表作である「老水夫行」(なぜかうちのPCではいつも「漏水不幸」なんて笑えない変換に。ただし入手しやすい訳の邦題は「古老の船乗り」)をもとに、1956年生まれのイタリアの現代作曲家ルカ・フランチェスコーニが書き上げたのがBallata (バッラータ)というオペラ。なお、「バッラータ」とはイタリア中世の詩・楽曲の形式を表す用語とのことですが、どうしてそんなタイトルがつけられたのかはいまいちよくわかりません。
 
初演は2002年秋にベルギーのモネ劇場で行われ、指揮を担当したのは当時音楽監督に就任して間もなかった大野和士さんでした。
 そのときの録音がおととし発売されていた(なぜ九年も経ってから出したのか謎ですが)のを先日オンラインショップで偶然見つけ、曲よりは台本の内容知りたさに注文しちゃいました。現代もの系は普段ほとんど聴かないんですけどね。そろそろ届いてもいいころなので、詳しくは鑑賞し終わったらまた取り上げたいと思います。

 しかし一足先にネットを探したところ、いくつか映像クリップが…。こういうのはビジュアル付きのほうがずっと楽しめそうなのに、ソフト化されたのがCDだけというのは残念。全曲の録画は残ってないんでしょうか。

Part1
http://www.youtube.com/watch?v=00G7d5zudbk


Part2
http://www.youtube.com/watch?v=pAXsg4Bp0zs


Part3
http://www.youtube.com/watch?v=_uK68InkXpE


 演出したアヒム・フライヤーの舞台は決まってサーカス団のようなメイクや巨大お面、一風変わった振り付けが登場することで有名(時々奇抜すぎて物議をかもしたりも)ですが、不思議とこの作品の世界観にはマッチしているように感じます。
 セットはステージを船の甲板前半分に見立てるという趣向なんでしょうか?席によっては観客も残りの船体後方にいる船上の一員のような疑似体験ができて面白そう。

↓原作の詩はこちらで

対訳 コウルリッジ詩集―イギリス詩人選〈7〉 (岩波文庫)対訳 コウルリッジ詩集―イギリス詩人選〈7〉 (岩波文庫)
(2002/01/16)
コウルリッジ

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テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

2013.05.25 06:16|音楽鑑賞(主にオペラ)
 演出プランについては白紙の状態で行ったもので、ドアから中が見えた一瞬どこに来ちゃったのかとびっくりしました。セット、細かいところまでよく作りこんであるな~と始まる前から感心です。
 今回初めてアカデミック○○プラン(←これならまだまだ大丈夫)のチケットで観てみたんですが、なんと舞台から十列目ちょっとの席で臨場感ばつぐん。そのうえ両隣も空いてて最高の環境でした

(※以下演出に関するネタばれ含みます。) しかしそのリアルなセットの舞台で展開するストーリーがどんなものだったかというと…。
 
 


 
 ステージ上のブランドショップの一つ"MAMMON"というのは、確か拝金と強欲を象徴する悪魔のことだったはず。その名が示すように、「神を忘れたヘブライ人」たちはひたすら自分の欲に忠実にショッピングにうつつを抜かす現代人、彼らの神殿は高級ブランド店が集まるデパートに置き換えられているのです。そして、そこに攻め込んでくる異教徒のバビロニア王ナブッコと王女アビガイッレら配下はいかにもヒッピー然としたなりの一団。ブルジョワジ-を嫌う彼らは店内をいたるところ破壊し、客や店員たちを人質に立てこもりテロを起こします。
 しかし人質たちは、しだいにその中の一人の宗教家(コンスタンティン・ゴルニー演じるザッカーリア、最初は見向きもされずプラカード担いで行ったり来たりしてる人)を中心に結束してゆき、犯人側の仲間割れ等もありついに自由を取り戻します。ナブッコも改心し、一同新境地に至って神を讃えめでたく解決となるのでした。
 
… 骨組みだけ抜き出してみると大体こんな感じではないでしょうか。もちろん本来の旧約聖書の舞台は跡形もなし。現代に移し変えるにしてもリアリティ0の設定とはいえ、筋の運びも登場人物の思考回路もはちゃめちゃで理解しがたいのは元の台本も正直そう変わらないように思えますので、宗教的なテーマの扱いとしてはぎりぎり納得できなくもなかったのですが。
 
 ですが終始付きまとって離れなかった疑問は、このコンセプトだと話のもう一つの主軸であるナブッコと娘二人との関係が分からなくなりやしないか?ということでした。
 大体あんな愚連隊のような一団が「王家」(単に「リーダー」ならともかく)や「血統」といった概念を尊重しそうには見えず、よってアビガイッレが実は庶子という出自のコンプレックスから父や異母妹のフェネーナに対抗意識を燃やすのもピンと来ません。何よりフェネーナの立場の位置づけが意味不明ですし。

 なのでそうした骨肉の争いの感情がクローズアップされる度(しかも音楽的にも重要な場面が多いため)にどうしようもなく違和感を感じてしまい、結局ドラマとしても不完全燃焼という残念な結果に終わってしまったというのが正直な感想。セットに凝るならせめてもうちょっとコンセプトも練ってほしかったです。

 ロビーで配布されていた演出の解説プリントによれば、ユダヤ教の「神」なる観念を「自然の力」に置き換えて強調したとのことですが、これもそこまでインパクトのある描写がされておらず中途半端な印象がぬぐえません。
 偶像に落ちる「雷」はなんだか震災を連想させるような…。大団円での奇跡が人々が植樹した苗木というのも、旧約聖書でバビロン捕囚の記述があるエレミヤ書に出てくる「若枝」(イエスのこと)が由来かもしれませんけど、やっぱり見せ方がどうも唐突でした。

 カリニャーニの指揮は歯切れよくリズミカルで好印象でしたし、外人勢三人を筆頭に歌手や合唱も頑張っただけに演出がかみ合ってなかったのが惜しいですが、それでも終幕のナブッコとアビガイッレの歌には設定の違和感を吹き飛ばす情感があったのは本当さすが。ガッロもコルネッティも想像していたよりずっと良かったです。

 新国オリジナルのプロダクションらしいのでカーテンコールに演出チームが出てくるかな?と思って見てましたけど、登場しなかったですね(初日どうだったかは知りません。現れたとしたらこの間のコンヴィチュニーとどっちがブーが多いかなんて余計なこと考えてました)
 グラハム・ヴィックってオペラを見始めたころ映像で知った舞台はどれもインパクトと緊張感があって好きなんですが、実演だと無難なだけだったスカラ座来日公演の「マクベス」もこれもいまいち。作品によってイメージががらっと違うので、何が出てくるか分からないという意味では面白い人だなとは思うけれども。

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

2013.05.06 23:08|音楽鑑賞(主にオペラ)
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 コンヴィチュニー演出を見比べたあと(まさかオチがかぶるとは知りませんでしたが!)は「マクベス」どうしの見比べということで、今週末はこれをネット鑑賞予定です。

 演出はいわゆるレジーテアターと呼ばれるドイツ語圏前衛演出のコンヴィチュニーに続く代表的存在、マルティン・クシェイ。ザルツブルク音楽祭の「ドン・ジョヴァンニ」、同じバイエルンの「ルサルカ」(結局買ってません)というあたりがソフト化もされている有名作でしょう。ミュンヘンと共同制作の「運命の力」でMetデビューも決まっているようです←某所では変更の噂あり。まあどうでもいいけど 
 
 ただ大抵どこでも評判よりはスキャンダルになっている感じで、個人的にはあまり積極的に見る気になれないんですよね…。まあ、ウェブでの配信なら無料だしいつでも止められますし。

 主な出演はジェリコ・ルチッチ、ナディア・ミヒャエル(上の写真)、ウーキュン・キムなど。詳しくはこちらをご参照ください。

開始時刻は今度こそ日本時間の日曜夜中二時から!!! ←間違いないよう四度見か五度見くらいしましたよ(オランダ人のときはほんとに申し訳ありませんでした)

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

2013.05.02 03:31|音楽鑑賞(主にオペラ)
 きょう二日の夕方から旅行に出ますので、取りあえず最初の感想だけ簡単に記しておきます。演出もまだ自分の中で咀嚼し切れてないような気がしますし、帰宅したら練り直して多少書き足すつもりでいますけど。(※5/5追記:戻りましたのでちょっとだけ加筆しました)

 この「マクベス」、カーテンコールの最後にプリマの夫人役に先導されて登場したのは演出家ペーター・コンヴィチュニー。日本で彼のプロダクションが上演されたときには過去にも何度かあったと思いますが、来日して数週間稽古に立ち会っていたようです。
 
 そうした姿勢にはたいへん感謝したいのですが、こちらの記事でコンヴィチュニー演出への「耐性」なんていってることからもお分かりいただけるように、この人の舞台は正直、私にとってどうも入り込みにくいところがありまして…(あまり多くは観てないので偉そうなことは言えないんですけど、以降その点ご容赦ください
 読み替え演出自体に抵抗感があるというより、コンヴィチュニーの場合これは所詮つくりごとのお芝居だという視線が強調されすぎているようで、見ているこっちの方もだんだん醒めていってしまうというのがその理由。作品の分析自体は確かに鋭いところがあるな~とは思いますが、それが心に響くかというとまた別なんですよね。

 何よりいただけないのは、音楽そのもの、とりわけクライマックスだったり聴かせどころだったりする箇所を音声加工してしまう場合が少なくないこと。演劇論的には意味があるにしても、私みたくそんなひねりを入れられるより普通に音楽を楽しみたいオペラファンからしたらちっとも有難くないですし。

 そんなわけで今回のマクベスはどうだろうとプロダクションへの予備知識全くなしで行ってきたのですが、一言で表現すると出演者の皆さんや音楽面の貢献度合いもろもろ含め、実にコンヴィチュニーな舞台でした。これまで実演で接したコンヴィチュニー作品の中でもひときわ。
 私のコンヴィチュニー株が上がりはしなかったにせよ、こういう演出家のカラーが隅々まで行き渡った舞台というのもそれはそれでありじゃないかと感じたしだいです。
 ただラストがこの間の「オランダ人」とかなり似たオチだったのにはあ~あ、またやってくれたかという気分にさせられましたが ああいう手法はろくに間を空けずに見ないほうがいい(というか繰り返すものじゃない)と思いますが、タイミングが悪かったとしか。

 ヴェデルニコフの指揮はイタリア色、ヴェルディ節といったものより、要所要所のおどろおどろしさ(あくまでコンヴィチュニー風の、ですが)や辛辣さを強調するように進んでいきます。それでも音にこの作品に欠かせない重厚で陰鬱な味わいがあったのは指揮者とオーケストラの功績でしょう。
 そして主役陣(本日は主役夫妻の小森さん、板波さんはじめAキャスト)をはじめとする歌手、合唱の皆さんも歌のスケールやテクニックの点で時折物足りなく思うところはあったにせよ、しっかりプロダクションに沿ったキャラクターを作り上げていました。板波さん、特徴的な声で魔女たちよりも魔女っぽい、なかなか印象的なマクベス夫人だったと思います。

 というのもここに出てくる魔女たち、なんだかすごく庶民的な雰囲気でしたから。幕が開くとそこは一般家庭の、狭苦しいけど居心地は悪くなさそうなキッチン。近所の女性たちが大勢集まって気楽なハロウィーンの仮装パーティでも開いているように見えますが、そこに軍服姿のマクベスとバンクォーが突然ずかずか入り込んでくるのです。
 
 これだと彼らのほうが場違いかつ暴力的な闖入者で、気味悪いはずの魔女たちはずっと身近で親しみがもてる存在に見えてしまうのは、おそらく最初からそういう狙いなのでしょう。一方で彼女たち、同時にマクベス夫妻の野心を煽りたてているようでもあり・・・。舞台上の人々と観客両方の価値観を揃って混乱におとしいれる魔女たちこそ、ある意味この演出の顔といえるのかもしれません。
あとついでに言わせてください。魔女たちの肩に乗っかってる黒猫グッズ、あれ欲しい~
 
 舞台で繰り広げられる血なまぐさい惨劇も、大部分がまるでホラーコメディのような軽いノリ。しかしこれは最後、どんな悲劇や暴力でも十分距離をとれば(メディアを通せば)エンターテイメントになり得る、という皮肉めいたメッセージとして観客に突きつけられるのです。確かにあの後帰宅したら、うちの魔女母親もソファに寝転んでオサマ・ビン・ラディンのドキュメンタリー番組見てましたしね。
 とはいえコンヴィチュニー流のメッセージというのは、やっぱり私には回りくどく思えてならないのですけれど…。でもライヴならではの臨場感は十分で、鑑賞中はそんなことは意識せず意外なくらい楽しんでたのも事実 (結局術中にはまってる?)

 だけど今回も「パルジファル」に続いて回り舞台大活躍でしたが、文化会館の装置ってなんであんなにギシギシいうんでしょう? 指揮者や歌手から苦情が出ないのが不思議なくらいです。

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