2014.02.25 23:57|音楽鑑賞(主にオペラ)|
昨年五月以来、ほぼ九ヶ月ぶりの舞台上演オペラ鑑賞でした(十二月の演奏会上演「青ひげ公の城」に行ってはいたのですが、年末の忙しさで感想が書けずじまいで)。その間でまた視力が落ちたらしく、文化会館のてっぺんからだと字幕がまったく見えなくなっていることに気がついてしまいました
それでも今回のマクヴィカー演出のプロダクションは全体に落ち着いた色合いの装置・照明で、このオペラにありがちな(視覚的に)どす黒かったりぎらぎらしたりといったシーンもなかったので、その点目の悪い人間には見やすいのがなにより。
セットは一貫して石造りの寺院のような大きな建物の内部を思わせるもので、左右には棺台を思わせる石の台座が並んでいます。これが広場になったり王宮の一室になったりして最後まで場面転換なしで通すのですが、ちょっとした道具や光の加減で変化をつけるといった工夫があるので単調さはなく、全体にとてもすっきりとして洗練されたビジュアルです。
ただ、このように余計な要素を排して登場人物間のドラマに重点を置いて鑑賞できる正統派の舞台であるいっぽうで、全体に薄味というのかあと一押しのインパクトがあっても良かったような。
身分や立場の中で身動きのとれない登場人物たちの重圧、また異端審問に象徴されるような、現代人にはおどろおどろしくさえある宗教の血なまぐささといった要素がふしぎと希薄だったのがそう感じた最大の要因で(この日の宗教裁判長氏が声質的にあまり不気味でなかったのもそれを助長してしまっていました)、そのあたりはむしろ悪趣味に走るくらいのどぎつい見せ方をしてくれたほうが納得できたかもしれません。
アウト・ダ・フェの場面もこの演出家にしては意外なほどおとなしめで、全体に舞台の色調と同じくクールで寒色系な「ドン・カルロ」だったという印象が残ったのでした。まあ、このあたりは近頃生でも映像でもアクの強い演出ばっかり見ている私の感覚にも問題ありそうですが…。
それでも歌唱面は視覚面よりずっと熱を帯びていて(この日はBキャスト)、中でも題名役を凛とした声と姿で王子にふさわしく演じたテノールの山本さんが最大の収穫でした。ここでのカルロは特に神経症的な面を強調されたりしてはおらず、悲劇のヒーローなのも良く似合っていたと思います。
ちょっと特徴的な鋭い声なのがかえって常に気を張り詰めて生きる王妃のキャラクターを反映しているようなエリザベッタと、他者の前では冷厳さを崩すことのできないフィリッポ(モノローグのアリアはそれを崩したぶん、ちょっと素の若い感じが声と表現に覗いてましたが)の国王夫妻も良かったし、エボリ公女とロドリーゴもそれぞれキャラクターが立っていました。あとテバルドの舞台姿にすごく華があって、宝塚ファンの気持ちがちょっと分かったかも(笑)
フェッロ指揮する都響の演奏は前半は細やかで好印象だったのですが、個人的には後半のエボリの告白あたりからドラマが一気に大詰めまで突き進んでいく収束感が出し切れてなくやや失速気味に感じてしまいました。それでも最後は、息子が息絶えて初めて愛情を見せられる父親(この演出でとりわけ心に残った場面)で締めくくる幕切れも効いてやっぱり心に響いたのでした。

それでも今回のマクヴィカー演出のプロダクションは全体に落ち着いた色合いの装置・照明で、このオペラにありがちな(視覚的に)どす黒かったりぎらぎらしたりといったシーンもなかったので、その点目の悪い人間には見やすいのがなにより。
セットは一貫して石造りの寺院のような大きな建物の内部を思わせるもので、左右には棺台を思わせる石の台座が並んでいます。これが広場になったり王宮の一室になったりして最後まで場面転換なしで通すのですが、ちょっとした道具や光の加減で変化をつけるといった工夫があるので単調さはなく、全体にとてもすっきりとして洗練されたビジュアルです。
ただ、このように余計な要素を排して登場人物間のドラマに重点を置いて鑑賞できる正統派の舞台であるいっぽうで、全体に薄味というのかあと一押しのインパクトがあっても良かったような。
身分や立場の中で身動きのとれない登場人物たちの重圧、また異端審問に象徴されるような、現代人にはおどろおどろしくさえある宗教の血なまぐささといった要素がふしぎと希薄だったのがそう感じた最大の要因で(この日の宗教裁判長氏が声質的にあまり不気味でなかったのもそれを助長してしまっていました)、そのあたりはむしろ悪趣味に走るくらいのどぎつい見せ方をしてくれたほうが納得できたかもしれません。
アウト・ダ・フェの場面もこの演出家にしては意外なほどおとなしめで、全体に舞台の色調と同じくクールで寒色系な「ドン・カルロ」だったという印象が残ったのでした。まあ、このあたりは近頃生でも映像でもアクの強い演出ばっかり見ている私の感覚にも問題ありそうですが…。
それでも歌唱面は視覚面よりずっと熱を帯びていて(この日はBキャスト)、中でも題名役を凛とした声と姿で王子にふさわしく演じたテノールの山本さんが最大の収穫でした。ここでのカルロは特に神経症的な面を強調されたりしてはおらず、悲劇のヒーローなのも良く似合っていたと思います。
ちょっと特徴的な鋭い声なのがかえって常に気を張り詰めて生きる王妃のキャラクターを反映しているようなエリザベッタと、他者の前では冷厳さを崩すことのできないフィリッポ(モノローグのアリアはそれを崩したぶん、ちょっと素の若い感じが声と表現に覗いてましたが)の国王夫妻も良かったし、エボリ公女とロドリーゴもそれぞれキャラクターが立っていました。あとテバルドの舞台姿にすごく華があって、宝塚ファンの気持ちがちょっと分かったかも(笑)
フェッロ指揮する都響の演奏は前半は細やかで好印象だったのですが、個人的には後半のエボリの告白あたりからドラマが一気に大詰めまで突き進んでいく収束感が出し切れてなくやや失速気味に感じてしまいました。それでも最後は、息子が息絶えて初めて愛情を見せられる父親(この演出でとりわけ心に残った場面)で締めくくる幕切れも効いてやっぱり心に響いたのでした。