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2011.10.05 00:48|音楽鑑賞(主にオペラ)
 ワーグナーは長いからできれば休日に観たいんですが、チケットを買ったのが公演まであと一月と迫ってからだったので日曜に入っていた予定を動かすことができず、結局平日の鑑賞になってしまいました。翌日のことを考えると早く終わってくれるのはいいとして、五十分で着替えてNHKホールにたどり着くのは(渋谷までは一駅だけど、先にそれ以上の距離を歩かなきゃならない)かなりきつかったです。その上席がよりによってブロックのど真ん中で、最後に着席する羽目になりました。(値段を考えれば視覚的にも聴覚的にもいい席だったんですけど)通してくださった方々すみません。

 そんなわけでちょっと疲れていたせいか、第一幕の中盤あたりはどうもぼんやり気味で、舞台を観ていた記憶はあるのに音楽が耳を素通りして過ぎていく感じでした。特に「エルザの夢」のあたりがやばかったような・・・マギーのせいにするのもなんですが、盛りを過ぎてしまったのか声にあたりに拡がっていく艶がなくて、あれだと聖杯のところまで祈りも届かなさそう。それでも最後のほうでちょっと持ち直したように感じたのはやはりこの役のベテランだからでしょうか。序盤に聞かせどころがある国王(シグムンドソン)と伝令(ガントナー)は安定感があってそれぞれ好演していたと思います。どちらも演出の雰囲気にもはまっていて、特にあのいかにも真面目そうな公務員ぽい伝令には二キーチンよりガントナーのほうがお似合いです。

そのニキーチンのテルラムント伯爵、CDのアンフォルタスに続いてかなりいい線いってました。ただオルトルートに八つ当たりしつつ怒りまくるシーンのような聴かせ所では、指揮のせいもある気がしますが凄みが足りず、もっとドロドロした怨念をさらけ出してほしかったです。一見地味なキャリアウーマンぽいのに、話が進むにつれて声も演技もどす黒いオーラを帯びてくるマイヤーのオルトルートの方がやはり悪役としては一枚上手な感じ(もっとも台本からしてそうなんでしょうが)。

 マイヤーがすばらしかったのは思っていた通りでしたが、一方で予想以上だったのが題名役のボータです。最初の一声聞いてそれまでの疲労感が雲散霧消するくらいには驚きでした。というのも、スカラ座のレクイエム(場所は同じNHKホール)で一度だけ実演を聴いた時は何だかすわりが悪くて抜けてこない声という印象で、録音で良くても生声でがっかりなタイプかと思ってたのですが、そのときの事が嘘のように響き渡る声でびっくり。よく響くだけでなく、輝きと品格のある役にぴったりのトーンで、あれなら見た目が・・・でも棒立ち演技でも許せてしまいました。私は「ローエングリン」は今回が実演初鑑賞なので、最初がこれだと今後の要求ハードルが上がってしまいそうです。(次に新国で歌ってくれるはずのフォークトももちろん最高水準だと思いますけれど。)
 
 よく言われているようにケント・ナガノのワーグナーはどの作品でも薄めでクールなアプローチなので、私の好みとはちょっと異なり、テルラムントやオルトルートの聞かせどころや国王の演説シーンあたりはオケがもうちょっと盛り上げてくれればというところもありました。一幕はなんだかだれ気味でしたが、二幕後半あたりから引き締まってきた感じで、ソリスト一人一人と民衆(合唱)それぞれの思惑の絡み合いのアンサンブルは秀逸にまとめられていたと思います。三幕もそれなりに緊張を維持できていたけれど、ちょっと合唱のばらつきが気になりました。それでも今回は来日拒否したメンバーの入れ替わりもあったことだし、オケやコーラスも100パーセントの本領発揮とは行かなかったのかもしれません。

 演出に関してですが、失礼ながらボータの見た目のせいでおかしさ五割増しくらいなせいもあって、どうも今度の舞台はブラックな不条理コメディに見えて仕方なかったです。公女のエルザは弟が行方不明、その上国民は戦争に駆り出されそうになってるのに、マイホーム(しかもしょぼい)幻想に浸りっぱなしだし、ローエングリンはどう見ても聖杯の騎士に見えない普通の人なのに、手をかざしただけでテルラムントが軽く吹っ飛んでついには死ぬし。しかし最後にローエングリンの素性が判明したとき、背後の壁が上がると野戦病院のように折りたたみベッドがずらっと並んでいるのは、エルザに国民の暗い未来という現実を突きつけるようで(そして幕切れに・・・)背筋が寒くなるものがありました。
 ただエルザがただの痛い人にしか見えないこのテーマでは、、ドラマ全体を引っ張るにはどうにも弱い気がして
なりません。なんと表現したらよいのかよく分からないんですが、舞台で起こるアクションそれ自体にあまりパワーがないというのか・・・(装置や歌手の演技とは別の問題です。)リチャード・ジョーンズの演出は、ブレゲンツ湖上ステージのボエームもヘンゼルとグレーテルも目が離せなくなるくらい面白かったのに、このローエングリンはアイディア倒れな感があってちょっと期待はずれで残念でした。結婚証書にサインする二人の手元がアップで写る、休憩中も舞台で作業が続くといった小ネタは楽しめたけれども。

 しかし悪役夫婦は復讐復讐といいつつ、なんですぐ後ろでごろ寝しているローエングリンを無視するんでしょう。次の夜まで待ったりせずにその場で襲えばよかったのに。

テーマ:音楽
ジャンル:学問・文化・芸術

タグ:オペラ感想

2011.10.01 05:39|音楽鑑賞(主にオペラ)
 木曜のバイエルン国立歌劇場ローエングリンに行ってきました。シュトルックマンが結局降りてしまったけれど、初めて聴くマイヤーのオルトルートとボータの歌を堪能できたので個人的には十分満足。記憶に新しいうちさっさと感想を残しておきたいところなんですが、まずはその前に見たDVDのほうを先に書いておきます。

 ここ数年オペラの舞台でのマイヤーを見ていなかったので、生で見る前に最近の芸風をチェックしておこうかと思って買ったのが去年のザルツブルク音楽祭「エレクトラ」の映像です。共演も最近人気のドラマティックソプラノのテオリンとウェストブロック、それにあまり出番のない男声陣にもパーペにギャンビル、そして指揮はガッティと、この音楽祭にふさわしい豪華キャスト。
 実は音だけなら去年ネットラジオで放送された初日の録音を先に聴いていて、そちらはちょっと微妙という感想だったんですが、このソフトではそこで感じた音楽面での不満もほぼ改善されており、なかなか見ごたえ聴きごたえのある上演記録になっていました。
 
 舞台はコンクリートの高い壁と床に囲まれ、そのあちこちに四角い穴が開いた空間。ぱっと見有名なゲッツ・フリードリヒの映画版を舞台上演用にアレンジした感じで(エレクトラのメイクと衣装含め)、どうも既視感ありありな印象がぬぐえませんが、演出そのものとしてはキャラクターとドラマの構成はしっかりされていますし、何より今年の影のない女のように変に凝りすぎたアレンジでなくてほっとしました。
 
 仕様ですが、作品の雰囲気を考えての演出なのかライブ録音とあるのに客席やピットの様子は一切写らず、ラストで暗転するとすぐスタッフロールが流れ出してカーテンコールなしというちょっとそっけないものです。せめてガッティの顔くらい拝ませてほしかったかも。
 輸入版でも日本語字幕(このメーカーのはネイティブでない人が作っているのか、時々妙な日本語が混ざるのはご愛嬌)はついてます。
 
 題名役テオリンはロール・デビューのせいか、初日の録音ではところどころ一本調子になったり、最後のモノローグでは疲れてオケの音量に負け気味という感がなくもなかったです。ですがこちらの映像では(別の日の収録だと思うんですが、もしかしたら音量のバランスを調節したのかも)全体通してしっかり声が出ていて、癖のある声質もドロドロした負の感情を表現するにはぴったりという感じでした。般若面みたいな白塗りというメイクにも関わらず(もっともテオリンて素の化粧も相当濃い・・・)、目の表情はじめ集中力途切れることない演技もみごとで、初役にしては十分合格点のできでしょう。

 次に登場してくるエレクトラの妹、クリソテミス役のウェストブロックは上手いとは思うけど、姉との対比としてもっと繊細な感じがほしかったかも…。あと舞台を出入りするとき、時々ギャグみたいな走り方になるのはなんとかならないんでしょうか。声や見た目にテオリンと姉妹らしい雰囲気があるのは良かったですが。
 (ついでに英Opera誌によるとこの人はバイロイトの次の新演出トリスタンで主演予定らしいので、実現したらマイヤー、テオリンに加えバイロイトのイゾルデ三人揃い踏みということになりますね)

 でも何といってもいちばん役を自分のものにし、説得力をもって歌っていたのはマイヤーです。二十年近く前のスタジオ録音はありますが、彼女もこの役を舞台で歌うのは初めてとのこと。マイヤーの歌うクリテムネストラってすごく計算高く、対話シーンでもエレクトラを軽く翻弄しそうなクールな悪女(それこそ見たばかりのオルトルートのような)になるのではないかと勝手に想像していたのとはうらはらに、この演出での役作りは悪夢におびえてひたすら安眠と救いを求める、「パルジファル」のクンドリーに通じるようなキャラクターでした。
 
 オレストが死んだという知らせ(※本当は嘘)を受け取って退場するところもト書きにあるように勝ち誇って笑うのでなく、緊張の糸が切れたように呆然としつつ退場。
 火花の散るような母娘の対決シーンを期待すると肩透かしをくらいますが、普通ならおどろおどろしいはずのクリテムネストラの音楽が、マイヤーが歌うとフレージングの見事さもあり、どこか無常観漂う美しささえ感じさせます。それに加えて顔の細かい表情の動きが実に豊かで、映像が加わることでずっと説得力がアップしていたので、ファンなら見ておいて損はないでしょう。

 パーペのオレストはなかなかのはまり役で、この中で唯一まっとうな精神の持ち主、かつ頼りがいがありそうなので、女同士のヒステリックな応酬が続いたあと出てきたときにはほっとしました。その分最後にサイコキラーに豹変してしまう怖さが際立つわけですが。
 あのラストにぞろぞろ這い出してくる異形のものたちは、ある意味元の神話に忠実なんでしょうが、復讐の女神という存在を観念的でなく、あそこまで強烈なビジュアルの怪物として視覚化したのはむしろ新鮮。最初の侍女たちの衣装、よく見ると袖やすそあたりが怪物と同じっぽいのが意味深長です。
 
 あと久しぶりのギャンビルはちょっと浮き気味なところが相変わらずギャンビルで何より(最後に変な感想ですみませんね)


※追記:検索してみたら、今月後半にクラシカ・ジャパンで放送されるそうなので見られる方はぜひ。もちろんうちでは入っていません。
 

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想・DVD

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