2011.10.01 05:39|音楽鑑賞(主にオペラ)|
木曜のバイエルン国立歌劇場ローエングリンに行ってきました。シュトルックマンが結局降りてしまったけれど、初めて聴くマイヤーのオルトルートとボータの歌を堪能できたので個人的には十分満足。記憶に新しいうちさっさと感想を残しておきたいところなんですが、まずはその前に見たDVDのほうを先に書いておきます。
ここ数年オペラの舞台でのマイヤーを見ていなかったので、生で見る前に最近の芸風をチェックしておこうかと思って買ったのが去年のザルツブルク音楽祭「エレクトラ」の映像です。共演も最近人気のドラマティックソプラノのテオリンとウェストブロック、それにあまり出番のない男声陣にもパーペにギャンビル、そして指揮はガッティと、この音楽祭にふさわしい豪華キャスト。
実は音だけなら去年ネットラジオで放送された初日の録音を先に聴いていて、そちらはちょっと微妙という感想だったんですが、このソフトではそこで感じた音楽面での不満もほぼ改善されており、なかなか見ごたえ聴きごたえのある上演記録になっていました。
舞台はコンクリートの高い壁と床に囲まれ、そのあちこちに四角い穴が開いた空間。ぱっと見有名なゲッツ・フリードリヒの映画版を舞台上演用にアレンジした感じで(エレクトラのメイクと衣装含め)、どうも既視感ありありな印象がぬぐえませんが、演出そのものとしてはキャラクターとドラマの構成はしっかりされていますし、何より今年の影のない女のように変に凝りすぎたアレンジでなくてほっとしました。
仕様ですが、作品の雰囲気を考えての演出なのかライブ録音とあるのに客席やピットの様子は一切写らず、ラストで暗転するとすぐスタッフロールが流れ出してカーテンコールなしというちょっとそっけないものです。せめてガッティの顔くらい拝ませてほしかったかも。
輸入版でも日本語字幕(このメーカーのはネイティブでない人が作っているのか、時々妙な日本語が混ざるのはご愛嬌)はついてます。
題名役テオリンはロール・デビューのせいか、初日の録音ではところどころ一本調子になったり、最後のモノローグでは疲れてオケの音量に負け気味という感がなくもなかったです。ですがこちらの映像では(別の日の収録だと思うんですが、もしかしたら音量のバランスを調節したのかも)全体通してしっかり声が出ていて、癖のある声質もドロドロした負の感情を表現するにはぴったりという感じでした。般若面みたいな白塗りというメイクにも関わらず(もっともテオリンて素の化粧も相当濃い・・・)、目の表情はじめ集中力途切れることない演技もみごとで、初役にしては十分合格点のできでしょう。
次に登場してくるエレクトラの妹、クリソテミス役のウェストブロックは上手いとは思うけど、姉との対比としてもっと繊細な感じがほしかったかも…。あと舞台を出入りするとき、時々ギャグみたいな走り方になるのはなんとかならないんでしょうか。声や見た目にテオリンと姉妹らしい雰囲気があるのは良かったですが。
(ついでに英Opera誌によるとこの人はバイロイトの次の新演出トリスタンで主演予定らしいので、実現したらマイヤー、テオリンに加えバイロイトのイゾルデ三人揃い踏みということになりますね)
でも何といってもいちばん役を自分のものにし、説得力をもって歌っていたのはマイヤーです。二十年近く前のスタジオ録音はありますが、彼女もこの役を舞台で歌うのは初めてとのこと。マイヤーの歌うクリテムネストラってすごく計算高く、対話シーンでもエレクトラを軽く翻弄しそうなクールな悪女(それこそ見たばかりのオルトルートのような)になるのではないかと勝手に想像していたのとはうらはらに、この演出での役作りは悪夢におびえてひたすら安眠と救いを求める、「パルジファル」のクンドリーに通じるようなキャラクターでした。
オレストが死んだという知らせ(※本当は嘘)を受け取って退場するところもト書きにあるように勝ち誇って笑うのでなく、緊張の糸が切れたように呆然としつつ退場。
火花の散るような母娘の対決シーンを期待すると肩透かしをくらいますが、普通ならおどろおどろしいはずのクリテムネストラの音楽が、マイヤーが歌うとフレージングの見事さもあり、どこか無常観漂う美しささえ感じさせます。それに加えて顔の細かい表情の動きが実に豊かで、映像が加わることでずっと説得力がアップしていたので、ファンなら見ておいて損はないでしょう。
パーペのオレストはなかなかのはまり役で、この中で唯一まっとうな精神の持ち主、かつ頼りがいがありそうなので、女同士のヒステリックな応酬が続いたあと出てきたときにはほっとしました。その分最後にサイコキラーに豹変してしまう怖さが際立つわけですが。
あのラストにぞろぞろ這い出してくる異形のものたちは、ある意味元の神話に忠実なんでしょうが、復讐の女神という存在を観念的でなく、あそこまで強烈なビジュアルの怪物として視覚化したのはむしろ新鮮。最初の侍女たちの衣装、よく見ると袖やすそあたりが怪物と同じっぽいのが意味深長です。
あと久しぶりのギャンビルはちょっと浮き気味なところが相変わらずギャンビルで何より(最後に変な感想ですみませんね)
※追記:検索してみたら、今月後半にクラシカ・ジャパンで放送されるそうなので見られる方はぜひ。もちろんうちでは入っていません。
ここ数年オペラの舞台でのマイヤーを見ていなかったので、生で見る前に最近の芸風をチェックしておこうかと思って買ったのが去年のザルツブルク音楽祭「エレクトラ」の映像です。共演も最近人気のドラマティックソプラノのテオリンとウェストブロック、それにあまり出番のない男声陣にもパーペにギャンビル、そして指揮はガッティと、この音楽祭にふさわしい豪華キャスト。
実は音だけなら去年ネットラジオで放送された初日の録音を先に聴いていて、そちらはちょっと微妙という感想だったんですが、このソフトではそこで感じた音楽面での不満もほぼ改善されており、なかなか見ごたえ聴きごたえのある上演記録になっていました。
舞台はコンクリートの高い壁と床に囲まれ、そのあちこちに四角い穴が開いた空間。ぱっと見有名なゲッツ・フリードリヒの映画版を舞台上演用にアレンジした感じで(エレクトラのメイクと衣装含め)、どうも既視感ありありな印象がぬぐえませんが、演出そのものとしてはキャラクターとドラマの構成はしっかりされていますし、何より今年の影のない女のように変に凝りすぎたアレンジでなくてほっとしました。
仕様ですが、作品の雰囲気を考えての演出なのかライブ録音とあるのに客席やピットの様子は一切写らず、ラストで暗転するとすぐスタッフロールが流れ出してカーテンコールなしというちょっとそっけないものです。せめてガッティの顔くらい拝ませてほしかったかも。
輸入版でも日本語字幕(このメーカーのはネイティブでない人が作っているのか、時々妙な日本語が混ざるのはご愛嬌)はついてます。
題名役テオリンはロール・デビューのせいか、初日の録音ではところどころ一本調子になったり、最後のモノローグでは疲れてオケの音量に負け気味という感がなくもなかったです。ですがこちらの映像では(別の日の収録だと思うんですが、もしかしたら音量のバランスを調節したのかも)全体通してしっかり声が出ていて、癖のある声質もドロドロした負の感情を表現するにはぴったりという感じでした。般若面みたいな白塗りというメイクにも関わらず(もっともテオリンて素の化粧も相当濃い・・・)、目の表情はじめ集中力途切れることない演技もみごとで、初役にしては十分合格点のできでしょう。
次に登場してくるエレクトラの妹、クリソテミス役のウェストブロックは上手いとは思うけど、姉との対比としてもっと繊細な感じがほしかったかも…。あと舞台を出入りするとき、時々ギャグみたいな走り方になるのはなんとかならないんでしょうか。声や見た目にテオリンと姉妹らしい雰囲気があるのは良かったですが。
(ついでに英Opera誌によるとこの人はバイロイトの次の新演出トリスタンで主演予定らしいので、実現したらマイヤー、テオリンに加えバイロイトのイゾルデ三人揃い踏みということになりますね)
でも何といってもいちばん役を自分のものにし、説得力をもって歌っていたのはマイヤーです。二十年近く前のスタジオ録音はありますが、彼女もこの役を舞台で歌うのは初めてとのこと。マイヤーの歌うクリテムネストラってすごく計算高く、対話シーンでもエレクトラを軽く翻弄しそうなクールな悪女(それこそ見たばかりのオルトルートのような)になるのではないかと勝手に想像していたのとはうらはらに、この演出での役作りは悪夢におびえてひたすら安眠と救いを求める、「パルジファル」のクンドリーに通じるようなキャラクターでした。
オレストが死んだという知らせ(※本当は嘘)を受け取って退場するところもト書きにあるように勝ち誇って笑うのでなく、緊張の糸が切れたように呆然としつつ退場。
火花の散るような母娘の対決シーンを期待すると肩透かしをくらいますが、普通ならおどろおどろしいはずのクリテムネストラの音楽が、マイヤーが歌うとフレージングの見事さもあり、どこか無常観漂う美しささえ感じさせます。それに加えて顔の細かい表情の動きが実に豊かで、映像が加わることでずっと説得力がアップしていたので、ファンなら見ておいて損はないでしょう。
パーペのオレストはなかなかのはまり役で、この中で唯一まっとうな精神の持ち主、かつ頼りがいがありそうなので、女同士のヒステリックな応酬が続いたあと出てきたときにはほっとしました。その分最後にサイコキラーに豹変してしまう怖さが際立つわけですが。
あのラストにぞろぞろ這い出してくる異形のものたちは、ある意味元の神話に忠実なんでしょうが、復讐の女神という存在を観念的でなく、あそこまで強烈なビジュアルの怪物として視覚化したのはむしろ新鮮。最初の侍女たちの衣装、よく見ると袖やすそあたりが怪物と同じっぽいのが意味深長です。
あと久しぶりのギャンビルはちょっと浮き気味なところが相変わらずギャンビルで何より(最後に変な感想ですみませんね)
※追記:検索してみたら、今月後半にクラシカ・ジャパンで放送されるそうなので見られる方はぜひ。もちろんうちでは入っていません。
タグ:オペラ感想・DVD