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2012.06.26 14:13|ホジスン
第十七章 "How We Came to Our Own Country"

 難破船の修理も終わり、ついに故国をさして船出する日。みんな心も軽く準備に取りかかって、船は錨を上げ島を離れます。この海域で七年間を過ごした難破船の乗組員たちはしばらく無言で、遠ざかっていく島を感慨深げに見つめているのでした。
 
 やがてボースンが一同船尾に集まるよう招集をかけ、まずめいめいに景気付けのラムが配られたあと(ぽっちゃりおばさんが貯蔵庫から木のバケツで運んできたのを、マディスン嬢が手ずから注いでくれました)、甲板上の片付けと整備にかかるよう指示がおります。
 
 主人公も当然のこととして他の船員たちと一緒に働き始めましたが、それを見たボースンからは、もう本来の船客の身分に戻って差し支えないのだから仕事に加わることはないと丁寧にたしなめられてしまいます。
 しかし主人公は、自分はグレン・キャリッグ号の乗客として船賃を払ってはいても、今いる「海鳥号」にはただ乗りしているようなものだからその分働かなければと答えると、ボースンも主人公の心意気を汲んだのか、それ以上とやかく言おうとはしませんでした。
(もう「難破船」ではないということで、ここで初めて「海鳥号」Seabird という船名が分かるのですが、考えてみるとなんだか皮肉な名前ですね。)

 もっとも主人公はマディスン嬢の近くにいられるよう、船尾に部屋をとるということにだけは旅客の特権を行使させてもらったのでしたが。
 昼食後、乗組員全員はそれぞれ二等航海士とボースンが監督する二つの当直班に分けられ、嬉しいことに主人公はボースンの班に所属することになります。
 
 間に合わせの帆柱、船底の藻やフジツボなどハンディを抱えた船の帆走は決して順調とはいきません。あたりの海域には小島くらいの大きさの海藻のかたまりが無数に散らばっており、一行はそれらを避けながらなるべく船を風上に寄せて、風下側の藻がある海域とは十分な距離をおくよう細心の注意を払います。
 夕刻、船は時速四ノットほどで(正常な状態なら倍以上は出せたはずなのですが)進んでいました。しかし藻がこちらに吹き寄せられてくる兆候が見えたので、ボースンと二等航海士は藻の海とより離れるように方向転換するか相談しますが、結局今のままでも約半マイルの間隔はとれると見積もり、このままの針路をとることで決定したのです。
(↑訂正:アップ時、「相談の結果針路を変更」と誤訳してしまいましたが、正しくは上記のように「相談したものの、諸事情を考慮して結局変更はしなかった」です。失礼しました。)
 
 夜の八時から真夜中まではボースンの班が当直で、主人公はもうひとりの船員と一緒に四点鐘(十時)までの見張りにつきました。
 その晩は月のない闇夜。まだ藻の海の近くにいると思うと気が気でなく、懸命に暗がりに目を凝らしていると、ふいに見張りの相方が主人公の注意を引きます。見ると、一面の藻がすぐそばまで迫っているのです!どうやら船は、二等航海士とボースンの予想よりずいぶん風下に流されていたに違いありませんでした。

 主人公の発した警告に、ボースンは直ちに風上に向けて舵を切るよう操舵手に指示。右舷側の船体を海藻にこすりながらも、なんとかぎりぎりのところで回避することができました。
 しかしその瞬間、主人公の目は藻の茂みのあいだを泳ぐあの白い姿をとらえます。急いで甲板に降り、船尾のボースンに知らせに行こうと駆け出したとき、そこには右舷の手すりを乗り越えてきたウィードメンの一体が!

 侵入者へ注意をひこうと大声を出しながら、とっさに手近にあったキャプスタンのバー(機械に差し込み、押して回すための長い棒)をつかんで一撃を加えた主人公。それが効いたのか、騒ぎに気づいたボースンたち数人が駆けつけてきたとき、化け物はもう姿を消していました。
 が、すぐさまマストのてっぺん近くまで登ったボースンは、数え切れないほどのウィードメンが船をめがけて押し寄せてくると叫びます。

 ただちに下に降りて急を知らせた主人公が自分の剣とボースンのカトラス、それにランタンを携え甲板に戻ると、起こされた船員たちは寝起きの格好のままで走り回り、ある者は調理室から火種を持ち出し、また他の者は干した海藻のたいまつに火をつけていました。そして右舷側の手すりのところでは、ボースンたちが先刻の主人公と同じくキャプスタンのバーを武器に、すでにウィードメンと激しい戦いを繰り広げている最中。
 
 手渡されたカトラスに歓喜の雄叫びをあげたボースンは、そのまま主人公の手にあったランタンを引ったくり、反対の左舷側へと駆けつけます。気づかれないうちに、そちらからもウィードメンがよじ登ってきていたのです。
 ボースンは一瞬で三匹を切り裂きますが、すぐまた手すりの上には一ダース近い新手の敵が。今度は主人公もそれらに立ち向かい、ボースンと並んでひたすら剣をふるいました。

 闘いは船のいたるところでしばらく続きますが、じき甲板にはいっぱいに明かりがともされ、キャプスタンのバーを振るっていた船員たちもカトラス(たぶん海鳥号に装備してあったもの)に持ち替えることができたので、次第に戦況は好転へ。
 
 そんな中、主人公がふと船尾楼甲板からの叫び声に振り返ると、そこでは肉切り用の斧を握って戦闘に参加していたぽっちゃりおばさんが、スカートにまとわりついた一体の触手にその武器を振り下ろそうとするところ。すぐ応援に駆けつけますが、彼女は助けを待つまでもなくそのウィードマンを片付けました。
 さらに驚いたことに、そこではあの船長夫人までが短剣を手に、凄まじい形相でウィードメンに立ち向かっていたのです。狂気の中にも、彼女は夫の復讐という一念に突き動かされているようでした。

 しばらく戦闘に戻ったあと、なんとか余裕のできた主人公は再びぽっちゃりおばさんに駆け寄り、マディスン嬢はどうしているか尋ねます。すると彼女は息を切らしながらも、マディスン嬢なら自分の部屋から出てこられないよう、外から鍵をかけて閉じ込めてしまったから大丈夫だというので、今度は主人公が安堵と感謝から彼女に抱きつく番でした。
 
 そしてようやく戦いは終わりを告げます。さいわいその間じゅう船は藻の広がりとは反対の方向に流され、今は開けた海の上に出ていました。
 主人公がマディスン嬢の船室に飛んでいって戸を開けると、彼女は飛び出してくるなり主人公にしがみついて泣き崩れます。大事なときに閉じ込められたとひどく怒り、少しの間ぽっちゃりおばさんと口をきこうともしなかったマディスン嬢でしたが、そんな場合ではないと主人公に言われるとすぐにふだんの元気を取り戻し、かいがいしく負傷者たちの手当てにあたりました。

 しかし船長夫人の行方だけが知れず、ボースンと二等航海士が探してもついに発見されませんでした。おそらく、彼女はウィードメンの群れに深みへと引きずり込まれてしまったのでしょう。マディスン嬢もおばの死をたいそう悲しみ、三日ほどはふさぎ込んだきりでした。

 そのあいだに船は藻のただよう一帯を抜けきり、七十九日間の航海のすえ、ついに自力でロンドンの港にたどり着きます。別れに際し、主人公は(今まで全く言及がなかったのですが、家はかなりの資産家のようです)苦楽を共にしてきた仲間たち一人一人に記念の贈り物をすることも忘れませんでした。

 むろんぽっちゃりおばさんもそれなりの心付けを受け取り、夫の船大工と教会で念願の式を挙げたあと、エセックスにある主人公の地所の境界近くにある家に落ち着くことができました。そして同時に、マディスン嬢も晴れて主人公の婚約者として屋敷に迎えられたのです。

 ・・・そして年月は流れ、今ではボースンも主人公の地所のうちに居を構えており、いくぶん背格好に年を感じるようになってはきたものの未だに元気で、折にふれては主人公とかつての冒険の思い出話をし合う仲だということです。もっとも主人公の子どもたちがそばにやって来ると、二人はまだ小さい彼らを怖がらせないよう、決まって他のことに話題を移すのでしたが。(了)

*         *         *         *         *         *

 半年以上続けたこのあらすじ紹介もやっと終わらせることができました。まったく取るに足らないような稚拙な訳とまとめではありますが、それでもこのホジスンの未邦訳作品の一端を知っていただく契機にでもなれば幸いです。
 ここまで読み続けて下さった方々には心からのお礼を申し上げたく思います。m( __ __ )m

 作品全体の感想はまた日を改めて別記事でまとめる予定ですが、終わり方としてはこれ以上ないくらいの大団円で締めくくってくれましたね。船長夫人の悲劇が一抹の影を落としているとはいうものの。とりあえずマディスン嬢が「ナイトランド」のナーニ化しなかったのにはほっとしました。
 
 それにしても、船室が内側から開けられないというのはありなのか?と些細なことが気になってしかたなかった最終回なのでした。いずれこんなこともあろうかと、ぽっちゃりおばさんが旦那の船大工に言って改造でもさせてたんでしょうか。

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2012.06.26 03:50|ホジスン
 第十六章 "Freed"(後半)

 翌朝、主人公は外からお寝坊さんと呼びかけるマディスン嬢の声で目を覚ましました。あわてて服を着て外に出ると、彼女はもう主船室に朝食の用意をしてくれていたのですが、食事の前にまたもや主人公を見張り台へ引っぱっていきます。
 先に立って駆けのぼり、喜びいっぱいに歌ったりしているマディスン嬢。続いててっぺんに立った主人公も、海面を見下ろして彼女がそんなに嬉しげな理由がわかります。船は夜のあいだに二百尋近くも進んで、あと三十尋ほどで藻から抜け出せるというところまで来ていたのです。

 ふと気づくと、となりのマディスン嬢はダンスのステップを踏むようにしながら、ずっと昔に流行った歌の一節を口ずさんでいました。それを見た主人公は、あらためて世界から隔絶されたこの生活が、彼女の人生にとりどれほど長かったかに思い至って胸をつかれます。
 何か声をかけようとした矢先、はるか高くから響いてくる大声。キャンプのある崖の上から、仲間の一人が手を振って呼びかけてきたのです(←どっちかというとヒューヒュー冷やかされてるんじゃないのかと)。

 朝食を終えたあと、船が脱出を果たす瞬間に立ち合おうと二人はまた甲板にあがり、船員たちに加わってキャプスタンを回します。万感の思いにとらわれている様子のマディスン嬢でしたが、主人公が自分にもその心情のいくばくかは理解できるということをぎごちなく伝えようとすると、悲しみと歓喜が入り混じった微笑を返してきます。その不思議な表情に、主人公は今まで味わったことのなかったものを感じるのでした。

 その時船が大きく動いて、二等航海士が突然叫び声を上げたかと思うと、他の船員たちもいっせいに持ち場を離れて見張り台へ。とうとう船は藻の海を抜けきったのです!
 
 狂ったように歓声を上げて喜び合う一同。むろん主人公たちもその輪に加わりますが、ふとマディスン嬢が袖を引いたのでその指差す先を見ると、そこには修理を終えたグレン・キャリッグ号のボートが、島の先端を回ってこちらに漕いでくるところでした。船尾ではボースンが舵をとっています。
 ボートの面々は興味津々といった様子で船を観察していましたが、ボースンは近くまでくると丁重に帽子をとって挨拶を送ります。(後でマディスン嬢は、自分もボースンの人となりにはたいそう感銘を受けたと主人公に話したとのこと)
 
 ボースンが二等航海士に、自分たちのボートで船を島の反対側まで曳行してゆこうと申し出ると、航海士もこれ以上藻の海のそばにはいたくない心境なのか、すぐに同意しました。役目を果たした大綱も外され、ボートに曳かれた船はこれまでキャンプがあった岩山の裾をまわり、島をはさんだ向こうの沿岸に落ち着きます。
 そこまで済むとグレン・キャリッグ号のメンバーもみな船に上がり、その日は一日食べたりしゃべったり(これまで乏しい食糧で我慢してきたグレン・キャリッグ号の皆さんは、たいそう旺盛な食欲を示したとか・・・)で楽しく時を過ごしました。
 
 翌朝、二等航海士とボースンは話し合って船体に取り付けられていた囲いをはずすことに決定。五日かけてその処理が完了すると、今度は難破船がまた元通り帆走できるよう、破損した各部に処置をほどこす作業の始まりです。
 
 マストは三本とも低い位置で折れてしまっていたので、備え付けてあったスペアや折れたマストの破損をまぬがれたパーツなどで、何とかやりくりして立て直すことにします。
 
 折れたマストの根元に船大工(ぽっちゃりおばさんの内縁の夫です)が作った木枠を取り付けて、そこに仮のマストを固定し、さらになんとか航行を可能にするだけの帆桁や帆綱も装着し・・・と、不完全ではありますが徐々に往時の姿を取り戻してゆく船。最後まで欠けていたバウスプリット(船の最前面に突き出している円材)も、これまで囲いに使われていた木材で代用し、強度に不安がある分は索具を移動させて調整しました。
 ただ船体の下部は、海藻やフジツボがこびりついてかなり悲惨なありさまになっていたのですが、こればっかりは海中の危険を考えるとどうすることもできません。

 ほぼ七週間かけ、船はようやく海に出られる状態まで復旧します。その間、近くをウィードメンらしき影が泳いでいるのが何度か目撃されました。
 しかし、船では島から拾ってきた平らな岩の上で毎夜かがり火を焚き、舷側でもアシの茎に取り付けたたいまつを燃やして防衛していたので、ひとまずは襲撃もなく平穏な日々が続いたのです。

 その七週間で主人公とマディスン嬢の仲はぐっと進展し、お互いをファーストネームかそれ以上で呼び合うほどの関係に。むろん恋人同士なのを大っぴらにはしなかったものの、ボースンはいち早く気づいてしまったらしく、ある日いかにも思わせぶりな一言で主人公をからかってきたのでした。

*         *         *         *         *         *

 アップが滞ってばかりですが、あらすじ紹介もこれで最終章を残すばかりになりました。じつは今回の箇所、船のマストを修復するにあたり、残っていた各パーツを本来の場所とは違う部位にどう工夫して転用したかが詳細に記されているんですが、相変わらず具体的なイメージがつかめないのでかなり大雑把な要約になってしまったことをおわびしておきます。
 
 ほんと海洋小説を読むには、帆や索具など一とおりの部位の名称と位置を頭に入れておくぐらいは必須だなあ・・・とつくづく思い、「帆船図解」みたいな本でもないかと探していたら、こんなものが目にとまったのでつい衝動買い。
 
輪切り図鑑 大帆船―トラファルガーの海戦をたたかったイギリスの軍艦の内部を見る輪切り図鑑 大帆船―トラファルガーの海戦をたたかったイギリスの軍艦の内部を見る
(1994/04/26)
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 ヴィクトリー号(トラファルガー海戦でのネルソンの旗艦。そういえば最近デアゴからこの船の模型を作るというシリーズが・・・)の内部解説だそうです。私が読む本に出てくるような普通の商船や捕鯨船はずっとしょぼいでしょうけど。でもレビューの評判もいいし、届くの楽しみ。

 さて次回はいよいよラストです。果たして魔の海からの脱出は叶うのか・・・!?

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2012.06.26 03:47|ホジスン
 第十六章 "Freed"(前半)

 結局当分はキャンプに戻れないとわかって、また下に降りておしゃべりを再開する主人公とマディスン嬢。しばらくして二等航海士が主船室にやってくると、二人に先ほど島から届いた手紙を見せます。
 そこには(ボースンはあまり書くのが達者とはいえないのですが)、島に生えているアシ状の植物の茎を大量に送れば、それを竹竿がわりにして進路から海藻をどけるのに使えないかとあったので、喜んでその提案に従いたいという二等航海士の返事をマディスン嬢が代筆しました。
 
 また少しして今度はぽっちゃりおばさんがテーブルを整えに現れ、外の様子はどうなっているのかとあれこれ尋ねてきます。二人に対する彼女の口調はとても率直でぶっきらぼうなものでしたが、それがかえってマディスン嬢との気のおけない間柄を物語っているようだったので、主人公は内心でもとがめだてする気にはなりませんでした。

 三人で話しているうち島からアシ束が届いたらしく上の甲板が騒がしくなったので、主人公たちもその様子を見にゆくと、船尾部分の囲いを取り外し、藻をかき分ける作業が始まっています。(書き忘れましたが、船は船尾を島のほうに向け、後ろ向きになる形で進んでいるようです。)化け物ガニやタコを警戒して、横ではマスケット銃を構えた二等航海士たちが見張っていました。
 ボースンの予想通りアシの竿は大変役に立ち、進行方向をふさぐ藻がうすくなったので、引き綱にかかる力も目に見えて軽減した様子。忙しく立ち働く船員たちに混じり、主人公とマディスン嬢もキャプスタンのところに行ってその調整に手を貸しました。

 やがて日も暮れ、ぽっちゃりおばさんが夕食の用意ができたとやってきます。ちょっと待ってというマディスン嬢と主人公を、彼女は笑いながら船内に追い込もうとしますが、そのとき船尾から銃撃と叫び声が。
 見るとはずした囲いの開口部から巨大なタコが足を伸ばし、そのうち二本は甲板の上を探りまわっているのです!しかしぽっちゃりおばさんは動揺もせず、主人公がわれに返るより早く、近くの船員の一人をつかまえると安全な場所に押し込み、自分もマディスン嬢を連れてさっさと避難
 
 主人公も慌てて一同に混じって退却したところに、二等航海士が全員分の武器を持って戻り、主人公にも余分のマスケットを持たせてくれました。一斉射撃を浴びせてなんとか大タコを撃退し、みなで急いで外してあった囲いの板を戻します。
 完全に隙間がふさがれる前に外を覗いてみると、暗い海面が一面に波立ったと思うと藻が飛び散り、そのあと無数の触手のようなものが海から突き出してうごめく光景がちらりと見えたのでした・・・。

 甲板でそのまま少し待機しますが、攻撃が続く気配はありません。それでも不安がる主人公に、船員たちは見張り台から静まった海を見せ、こちらが近づき過ぎるか動かなければ、めったに向こうから手出しはしてこないと説明するのですが、どうやら彼らはこんな事にも馴れっこになってしまっているようです。

 そこに中からマディスン嬢の呼ぶ声がしたので、主人公もやっと食事をとりに入りました。夜の照明は粗末なランプで、船の周囲でたくさんとれる魚から作った油を燃料にしているそう。
 夕食後も相変わらず楽しそうにはしゃぐマディスン嬢は、二人で見張り台に行こうと提案します。そこから島を望むと、丘の上のキャンプを囲む焚き火の明かりがこうこうと夜空を照らし、昼とはまったく違う実に美しい眺めで、見張り番らしい仲間がちょうど崖のへりに出てきたのもわかりました。主人公が感嘆するのを見てマディスン嬢はとても喜び、これまでにもよく夜景を見にきていたと話すのでした。

 やがて下に降りると、彼女は主人公を寝室に案内しておやすみを言い、叔母の船長夫人の世話をしに立ち去ります。作業の続く甲板に残っておしゃべりしたりしていた主人公も、真夜中を過ぎるとさすがに疲れをおぼえ、船室に行って久しぶりのちゃんとした寝床で眠りにつきました。(続く)
 
*         *         *         *          *         *

 ストーリー的に特に動きはないのですが、難破船での日常生活がうかがえるという点でなかなか興味深い回でした。しかしぽっちゃりおばさん最強ですね。船では大タコに二等航海士に負けないくらい恐れられているのではないでしょうか。
 ネトラジ聴きながらずるずる徹夜していた私も主人公と同じく眠くなってきたので、今回は短めの感想で失礼します。早ければあと二回くらいで完結できそう。

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2012.06.26 03:45|ホジスン
 第十五章 "Aboard the Hulk"(後半) 
 
 いよいよ単身難破船に渡ることになった主人公。まずボースンが運搬装置の吊り台に体を固定してくれ、続いて合図を受けた向こうの船員たちが装置の綱を引きはじめます。 一番海面に近い位置にさしかかると、予想よりロープがたわんでちょっと怖い思いをしますが、手っ取り早く引き寄せてもらえたおかげで無事難破船にたどり着けました。
 難破船を囲む枠組み上にある、プラットフォームのような場所に降り立った主人公を乗組員たちが歓呼して出迎えると、体を吊り台にくくりつけていた縄を切って下の甲板に案内してくれます。

 すると凄く肉付きのよい女性が飛び出してくるなり、思わずたじろぐほどの熱烈さで主人公を抱きしめキスしますが、そこにもう一人の女性が現れ、こんな場所には不似合いな、異様に丁重な歓迎のお辞儀をしたのです。それまで笑っていた船員たちも急に黙り込み、別の意味で引いてしまった主人公は相手と目が合った瞬間、彼女が正気ではない事を悟ります・・・。
 あとで分かったことでは、船長夫人は夫が大ダコに殺される様子を目の当たりにし、ショックで精神を病んでしまっていたのでした。

 やがて狂気の婦人は船内に入ろうとしますが、その時中から若く美しい三人目の女性が姿を見せて優しく彼女を連れてゆき、すぐ主人公のところに戻ってきました。そしてその手をとると、悪戯っぽく浮き浮きした様子で話しかけます(少し落ち着くとあわてて手を離すのですが。ホジスンのこの手の描写は大体長いので、要約するとこんなムード ) 彼女はメアリー・マディスンといい、船長の未亡人の姪でした。
 
 他の船員たちも空気を読み、主人公たちを二人きりにしてキャプスタンの所で作業にかかっていたので、マディスン嬢は船を案内すると申し出ます。船を囲んで作られた外枠の規模と設計の見事さに感嘆した主人公が、あれほどの木材をどうやって調達したのか尋ねると、彼女は荷敷き材(積み荷がずれるのを防ぐため、間に差し込んでおく板など)に加え、中甲板と可能な限りの仕切り板を取り外したのだと教えてくれました。

 最後に調理室に入ると、そこにいたのは炊事担当らしいさっきのぽっちゃり女性と二人の幼児。片方は五才くらいの男の子、下の女の子はまだよちよち歩きができるくらいです。主人公が一瞬面食らうと、ぽっちゃりおばさんが恥ずかしそうに実は自分の子だと打ち明けます。彼女は船長夫人の召使としてこの船に乗っていたのですが、難破のあと船大工と仲良くなり、今では彼と事実婚(?)状態で暮らしているのでした。
 それでも彼女は自分たちが正式な夫婦でないのをひどく気にしているようなので、主人公がこの状況では仕方ないことだし、自分はむしろ応援したいと思うと言うと、彼女は感激してまた抱きつこうとしますが、今度はさすがに逃げられてしまいます。

 船を一巡りしたあと、マディスン嬢はおばの船長夫人の世話をしに立ち去ります。船はいまも進路を切り開いている最中で、主人公もその作業に加わりますが、合間には乗組員たちからここ七年の出来事について質問攻めに。ひとしきり答えると今度は主人公が聞く側にまわり、マディスン嬢に聞けなかった疑問をいろいろ浴びせました。

 そのうちお昼抜きで出てきた主人公は空腹でたまらなくなったので、船員たちを通じてコックのぽっちゃりおばさんに頼み、食事を用意してもらいます。メインキャビンでそれを食べていると、こっそりその様子をうかがっているマディスン嬢。二人はまたお喋りをはじめ、今度はお互いの年(主人公は二十三歳で彼女は十九歳)や、これまでやり取りした手紙を書いたのが自分たちだったことも教え合いました。

 楽しいひと時を過ごしたあと、主人公はもう島に戻らなければと辞去の意を伝えます。ですがいよいよ出発というときになって、島にロープを引っ張るよう信号を送っても、何かトラブルが起きたらしく応答がありません。やがて届いた伝言によると、(運搬装置を使わず何か他の方法でだと思いますが)大綱が崖のへりにこすれてよれてしまったため、これ以上傷めないようにいったん綱をゆるめ、巻き取り作業を中止しないとまずいとのこと。
 しばらくしてやっと合図があったので運搬装置を空のまま送ると、ボースンからの手紙をつけて戻ってきます。それには応急処置を施したのでひとまずは大丈夫だが、ロープに極端な負担をかけるのは避けなければならず、また装置の安全性を考えると、主人公も船がすっかり藻から抜け出すまでそちらにとどまったほうがいいとありました。
 
 綱のことが心配ではあったものの、内心決して残念ではない主人公なのでした。

*         *         *         *         *         *

 意外と家庭的な難破船内の雰囲気。子供二人の人数はきっと先の手紙にあった十二人とは別ですね。それにしても「ぽっちゃりおばさん」てひどいあだ名と思われそうだけど、原語でもずっと"the (very) buxom woman" (buxom=豊満な、肉付きのいい)なんだから仕方ありません。very付きだとぽっちゃりを通り越してるかもしれませんが。
 
 しかしどことなく「ナイトランド」の不人気(たぶん)ヒロイン、ナーニと同じ気配をただよわせるマディスン嬢・・・(七年ぶりに外の世界の人と会ってはしゃいでいるんだろうという作中状況は別として)とはいえもう残り二章なので、おそらくあそこまでグダグダな恋愛描写は入りようがないと思われます。ひたすら島から船の見物してるだけじゃ話が続かないですしね。

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2012.06.26 03:44|ホジスン
 第十五章 "Aboard the Hulk"(前半)

 その夜主人公が見張りに起きてみると、まだ月は上っておらず辺りは真っ暗。当直のペアを組む大柄な船員と、いくつもの焚き火の番に追われます。
 しばらくして、海に面した側にいた相方の大男が、手紙や物品のやり取りに使う細いほうの縄(こちらも岩に結んであります)に動きがあるとやってきました。しかし、船からはそういった場合に前もって送ると決めてある信号はないまま。こちらから合図をしてみても返答はありません。

 いぶかしく思って縄を調べてみると、まるで大物の魚でも釣り上げたときのような手ごたえが。海中にひそむ何かが綱を切るか、あるいはそれ伝いにキャンプまで這ってくるのではないかと不安にかられた主人公は、急いでボースンを呼びに走ります。ボースンはすぐ皆を起こすようにいい、そのまま全員で警戒に当たりました。

 少し離れた位置の大綱も危険ではないかと思い当たり、ボースンはあわてて確認しますが、何しろロープが太くて重いので、触っただけでは異常の有無は分かりません。ですが一時間ほど経過し、ふと大綱に手をやった主人公は、張り具合が前よりも格段にゆるくなっているのに気づきます。ボースンもひどく驚き、もしや切られてしまったのではないかと一同を呼び集めて縄を引っ張ってみますが、ちゃんと無事につながっていました。
 そのうちようやく月が出たので、見渡せる限り難破船との間の海や周囲を調べてみましたが、闇の中でわかる範囲では何の動きもないのでひとまず警戒を解き、見張り番の当直以外はテントに戻って就寝。

 翌朝早く見張りが駆け込んでくると、船が夜の間に大綱の巻き取りを続けたらしく、いくぶん船尾が島のほうに向いていると報告します。縄のたるみは、単に船がいくらか島に近づいて距離が狭まったのが理由だったのです。
 一同が様子を見に行くと、船の囲いのてっぺんに作られた見張り台に男が一人現れて手を振りました。皆も挨拶し返し、ボースンはすぐに向こうの作業のはかどり具合を問い合わせる手紙を送ろうとします。

 ところが、主人公が書き上げた手紙の袋をつけた綱をあちら側の船員たちが引き寄せはじめた時。やにわに藻の中で大きな水しぶきがあがったと思うと、見張り台の男が姿の見えない何かに向けて発砲します。射撃は功を奏したらしく、彼らは無事引き揚げ作業を続行し、やがて返事を送るという合図をよこしました。 
 そして返信が送り返されてまもなく、難破船の男はまた発砲したので、主人公たちも必死にたぐり寄せると・・・海面から綱をハサミでしっかり挟んだ大きなカニが現れたのです

 ボースンはそれでも慌てず、みんなには綱をなるべく静かに引くよう命じると、自分は槍の一本を持って崖ふちで待機。そしてカニが十分近くまで引き揚げられたとき、いったん止めるように合図し、前に大カニに襲われた二人を助けたときと同じように、穂先で敵の両目を強打します。カニは海に落ちてゆき、縄も少し傷をつけられただけで手紙を無事回収することができました。

 返事にはまた同じ女性の字で、船は今巨大な海藻の塊を通り抜けようとしており、現在の船の責任者である二等航海士(船長や他の高級船員は全員死んでしまったので)はうまくいきそうだが、とにかく慎重に進まなくてはならない、そうでないと船体が巨大な熊手のように進路にある藻をかき集めて逆効果になってしまうからと考えているとありました。
 続いて細やかな気配りの言葉がいろいろと述べてあったので、主人公はこれを書いたのはおそらく故船長の妻だろうと推察します。
 
 そんなことを考えているうちにも難破船では巻き取り作業が再開されたようでしたが、そこに今度はなんと二十匹近い大ガニの大群が出現。すると見張り台に数人が登って一斉射撃を浴びせ撃退したあと、カニに煩わされないよう綱をさらに巻き上げ、水面から離します。
 
 船はゆっくりとではありますが、着実に進んできています。その上難破船側で、強く張った二本のロープに滑車と吊り台を取り付けて運搬装置をこしらえてくれたので、いちいち海面すれすれに綱引きをしないでも安全に物を受け渡しできるようになりました。
 
 そして翌朝、難破船はさらに百メートル以上近づき、見張り台にいる男の顔もはっきり見えてきます。ずっと様子を見ていた主人公は、これなら運搬装置の吊り台に乗れば、こちらから船へ行き来することもできるのではないかとボースンに提案してみました。はじめ難色を示したボースンも、装置をよく調べて一行中もっとも体重の軽い主人公なら大丈夫そうだと同意してくれたので、ついに主人公は単身難破船を訪問することになったのです。(続く)
 
*         *         *         *         *         *

 ウィードメンのインパクトで海には巨大カニがいたってのをすっかり忘れてました(タコだかイカだかの触手攻撃も危険大)。真夜中の警戒態勢は確かに騒ぎ損だったけれど、ボースンが神経過敏気味になるのも無理ないってものです。一方難破船の人たちのほうはもう戦闘馴れしちゃってる感じで、カニなんて今晩のおかず程度にしか思ってなさそうですが。
 
 そういえば海外で新しく出るホジスンの海洋短編集(ちょうど今日の日付で発売だったはず)、カバーのイラストが一面どーんとみたいな感じ(はみ出す勢い)でちょっと笑えます。まだ訳されてない作品もいくつか入っているようだし、届いたらまず収録タイトルだけでも紹介予定。

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