2012.06.26 14:13|ホジスン|
第十七章 "How We Came to Our Own Country"
難破船の修理も終わり、ついに故国をさして船出する日。みんな心も軽く準備に取りかかって、船は錨を上げ島を離れます。この海域で七年間を過ごした難破船の乗組員たちはしばらく無言で、遠ざかっていく島を感慨深げに見つめているのでした。
やがてボースンが一同船尾に集まるよう招集をかけ、まずめいめいに景気付けのラムが配られたあと(ぽっちゃりおばさんが貯蔵庫から木のバケツで運んできたのを、マディスン嬢が手ずから注いでくれました)、甲板上の片付けと整備にかかるよう指示がおります。
主人公も当然のこととして他の船員たちと一緒に働き始めましたが、それを見たボースンからは、もう本来の船客の身分に戻って差し支えないのだから仕事に加わることはないと丁寧にたしなめられてしまいます。
しかし主人公は、自分はグレン・キャリッグ号の乗客として船賃を払ってはいても、今いる「海鳥号」にはただ乗りしているようなものだからその分働かなければと答えると、ボースンも主人公の心意気を汲んだのか、それ以上とやかく言おうとはしませんでした。
(もう「難破船」ではないということで、ここで初めて「海鳥号」Seabird という船名が分かるのですが、考えてみるとなんだか皮肉な名前ですね。)
もっとも主人公はマディスン嬢の近くにいられるよう、船尾に部屋をとるということにだけは旅客の特権を行使させてもらったのでしたが。
昼食後、乗組員全員はそれぞれ二等航海士とボースンが監督する二つの当直班に分けられ、嬉しいことに主人公はボースンの班に所属することになります。
間に合わせの帆柱、船底の藻やフジツボなどハンディを抱えた船の帆走は決して順調とはいきません。あたりの海域には小島くらいの大きさの海藻のかたまりが無数に散らばっており、一行はそれらを避けながらなるべく船を風上に寄せて、風下側の藻がある海域とは十分な距離をおくよう細心の注意を払います。
夕刻、船は時速四ノットほどで(正常な状態なら倍以上は出せたはずなのですが)進んでいました。しかし藻がこちらに吹き寄せられてくる兆候が見えたので、ボースンと二等航海士は藻の海とより離れるように方向転換するか相談しますが、結局今のままでも約半マイルの間隔はとれると見積もり、このままの針路をとることで決定したのです。
(↑訂正:アップ時、「相談の結果針路を変更」と誤訳してしまいましたが、正しくは上記のように「相談したものの、諸事情を考慮して結局変更はしなかった」です。失礼しました。)
夜の八時から真夜中まではボースンの班が当直で、主人公はもうひとりの船員と一緒に四点鐘(十時)までの見張りにつきました。
その晩は月のない闇夜。まだ藻の海の近くにいると思うと気が気でなく、懸命に暗がりに目を凝らしていると、ふいに見張りの相方が主人公の注意を引きます。見ると、一面の藻がすぐそばまで迫っているのです!どうやら船は、二等航海士とボースンの予想よりずいぶん風下に流されていたに違いありませんでした。
主人公の発した警告に、ボースンは直ちに風上に向けて舵を切るよう操舵手に指示。右舷側の船体を海藻にこすりながらも、なんとかぎりぎりのところで回避することができました。
しかしその瞬間、主人公の目は藻の茂みのあいだを泳ぐあの白い姿をとらえます。急いで甲板に降り、船尾のボースンに知らせに行こうと駆け出したとき、そこには右舷の手すりを乗り越えてきたウィードメンの一体が!
侵入者へ注意をひこうと大声を出しながら、とっさに手近にあったキャプスタンのバー(機械に差し込み、押して回すための長い棒)をつかんで一撃を加えた主人公。それが効いたのか、騒ぎに気づいたボースンたち数人が駆けつけてきたとき、化け物はもう姿を消していました。
が、すぐさまマストのてっぺん近くまで登ったボースンは、数え切れないほどのウィードメンが船をめがけて押し寄せてくると叫びます。
ただちに下に降りて急を知らせた主人公が自分の剣とボースンのカトラス、それにランタンを携え甲板に戻ると、起こされた船員たちは寝起きの格好のままで走り回り、ある者は調理室から火種を持ち出し、また他の者は干した海藻のたいまつに火をつけていました。そして右舷側の手すりのところでは、ボースンたちが先刻の主人公と同じくキャプスタンのバーを武器に、すでにウィードメンと激しい戦いを繰り広げている最中。
手渡されたカトラスに歓喜の雄叫びをあげたボースンは、そのまま主人公の手にあったランタンを引ったくり、反対の左舷側へと駆けつけます。気づかれないうちに、そちらからもウィードメンがよじ登ってきていたのです。
ボースンは一瞬で三匹を切り裂きますが、すぐまた手すりの上には一ダース近い新手の敵が。今度は主人公もそれらに立ち向かい、ボースンと並んでひたすら剣をふるいました。
闘いは船のいたるところでしばらく続きますが、じき甲板にはいっぱいに明かりがともされ、キャプスタンのバーを振るっていた船員たちもカトラス(たぶん海鳥号に装備してあったもの)に持ち替えることができたので、次第に戦況は好転へ。
そんな中、主人公がふと船尾楼甲板からの叫び声に振り返ると、そこでは肉切り用の斧を握って戦闘に参加していたぽっちゃりおばさんが、スカートにまとわりついた一体の触手にその武器を振り下ろそうとするところ。すぐ応援に駆けつけますが、彼女は助けを待つまでもなくそのウィードマンを片付けました。
さらに驚いたことに、そこではあの船長夫人までが短剣を手に、凄まじい形相でウィードメンに立ち向かっていたのです。狂気の中にも、彼女は夫の復讐という一念に突き動かされているようでした。
しばらく戦闘に戻ったあと、なんとか余裕のできた主人公は再びぽっちゃりおばさんに駆け寄り、マディスン嬢はどうしているか尋ねます。すると彼女は息を切らしながらも、マディスン嬢なら自分の部屋から出てこられないよう、外から鍵をかけて閉じ込めてしまったから大丈夫だというので、今度は主人公が安堵と感謝から彼女に抱きつく番でした。
そしてようやく戦いは終わりを告げます。さいわいその間じゅう船は藻の広がりとは反対の方向に流され、今は開けた海の上に出ていました。
主人公がマディスン嬢の船室に飛んでいって戸を開けると、彼女は飛び出してくるなり主人公にしがみついて泣き崩れます。大事なときに閉じ込められたとひどく怒り、少しの間ぽっちゃりおばさんと口をきこうともしなかったマディスン嬢でしたが、そんな場合ではないと主人公に言われるとすぐにふだんの元気を取り戻し、かいがいしく負傷者たちの手当てにあたりました。
しかし船長夫人の行方だけが知れず、ボースンと二等航海士が探してもついに発見されませんでした。おそらく、彼女はウィードメンの群れに深みへと引きずり込まれてしまったのでしょう。マディスン嬢もおばの死をたいそう悲しみ、三日ほどはふさぎ込んだきりでした。
そのあいだに船は藻のただよう一帯を抜けきり、七十九日間の航海のすえ、ついに自力でロンドンの港にたどり着きます。別れに際し、主人公は(今まで全く言及がなかったのですが、家はかなりの資産家のようです)苦楽を共にしてきた仲間たち一人一人に記念の贈り物をすることも忘れませんでした。
むろんぽっちゃりおばさんもそれなりの心付けを受け取り、夫の船大工と教会で念願の式を挙げたあと、エセックスにある主人公の地所の境界近くにある家に落ち着くことができました。そして同時に、マディスン嬢も晴れて主人公の婚約者として屋敷に迎えられたのです。
・・・そして年月は流れ、今ではボースンも主人公の地所のうちに居を構えており、いくぶん背格好に年を感じるようになってはきたものの未だに元気で、折にふれては主人公とかつての冒険の思い出話をし合う仲だということです。もっとも主人公の子どもたちがそばにやって来ると、二人はまだ小さい彼らを怖がらせないよう、決まって他のことに話題を移すのでしたが。(了)
* * * * * *
半年以上続けたこのあらすじ紹介もやっと終わらせることができました。まったく取るに足らないような稚拙な訳とまとめではありますが、それでもこのホジスンの未邦訳作品の一端を知っていただく契機にでもなれば幸いです。
ここまで読み続けて下さった方々には心からのお礼を申し上げたく思います。m( __ __ )m
作品全体の感想はまた日を改めて別記事でまとめる予定ですが、終わり方としてはこれ以上ないくらいの大団円で締めくくってくれましたね。船長夫人の悲劇が一抹の影を落としているとはいうものの。とりあえずマディスン嬢が「ナイトランド」のナーニ化しなかったのにはほっとしました。
それにしても、船室が内側から開けられないというのはありなのか?と些細なことが気になってしかたなかった最終回なのでした。いずれこんなこともあろうかと、ぽっちゃりおばさんが旦那の船大工に言って改造でもさせてたんでしょうか。
難破船の修理も終わり、ついに故国をさして船出する日。みんな心も軽く準備に取りかかって、船は錨を上げ島を離れます。この海域で七年間を過ごした難破船の乗組員たちはしばらく無言で、遠ざかっていく島を感慨深げに見つめているのでした。
やがてボースンが一同船尾に集まるよう招集をかけ、まずめいめいに景気付けのラムが配られたあと(ぽっちゃりおばさんが貯蔵庫から木のバケツで運んできたのを、マディスン嬢が手ずから注いでくれました)、甲板上の片付けと整備にかかるよう指示がおります。
主人公も当然のこととして他の船員たちと一緒に働き始めましたが、それを見たボースンからは、もう本来の船客の身分に戻って差し支えないのだから仕事に加わることはないと丁寧にたしなめられてしまいます。
しかし主人公は、自分はグレン・キャリッグ号の乗客として船賃を払ってはいても、今いる「海鳥号」にはただ乗りしているようなものだからその分働かなければと答えると、ボースンも主人公の心意気を汲んだのか、それ以上とやかく言おうとはしませんでした。
(もう「難破船」ではないということで、ここで初めて「海鳥号」Seabird という船名が分かるのですが、考えてみるとなんだか皮肉な名前ですね。)
もっとも主人公はマディスン嬢の近くにいられるよう、船尾に部屋をとるということにだけは旅客の特権を行使させてもらったのでしたが。
昼食後、乗組員全員はそれぞれ二等航海士とボースンが監督する二つの当直班に分けられ、嬉しいことに主人公はボースンの班に所属することになります。
間に合わせの帆柱、船底の藻やフジツボなどハンディを抱えた船の帆走は決して順調とはいきません。あたりの海域には小島くらいの大きさの海藻のかたまりが無数に散らばっており、一行はそれらを避けながらなるべく船を風上に寄せて、風下側の藻がある海域とは十分な距離をおくよう細心の注意を払います。
夕刻、船は時速四ノットほどで(正常な状態なら倍以上は出せたはずなのですが)進んでいました。しかし藻がこちらに吹き寄せられてくる兆候が見えたので、ボースンと二等航海士は藻の海とより離れるように方向転換するか相談しますが、結局今のままでも約半マイルの間隔はとれると見積もり、このままの針路をとることで決定したのです。
(↑訂正:アップ時、「相談の結果針路を変更」と誤訳してしまいましたが、正しくは上記のように「相談したものの、諸事情を考慮して結局変更はしなかった」です。失礼しました。)
夜の八時から真夜中まではボースンの班が当直で、主人公はもうひとりの船員と一緒に四点鐘(十時)までの見張りにつきました。
その晩は月のない闇夜。まだ藻の海の近くにいると思うと気が気でなく、懸命に暗がりに目を凝らしていると、ふいに見張りの相方が主人公の注意を引きます。見ると、一面の藻がすぐそばまで迫っているのです!どうやら船は、二等航海士とボースンの予想よりずいぶん風下に流されていたに違いありませんでした。
主人公の発した警告に、ボースンは直ちに風上に向けて舵を切るよう操舵手に指示。右舷側の船体を海藻にこすりながらも、なんとかぎりぎりのところで回避することができました。
しかしその瞬間、主人公の目は藻の茂みのあいだを泳ぐあの白い姿をとらえます。急いで甲板に降り、船尾のボースンに知らせに行こうと駆け出したとき、そこには右舷の手すりを乗り越えてきたウィードメンの一体が!
侵入者へ注意をひこうと大声を出しながら、とっさに手近にあったキャプスタンのバー(機械に差し込み、押して回すための長い棒)をつかんで一撃を加えた主人公。それが効いたのか、騒ぎに気づいたボースンたち数人が駆けつけてきたとき、化け物はもう姿を消していました。
が、すぐさまマストのてっぺん近くまで登ったボースンは、数え切れないほどのウィードメンが船をめがけて押し寄せてくると叫びます。
ただちに下に降りて急を知らせた主人公が自分の剣とボースンのカトラス、それにランタンを携え甲板に戻ると、起こされた船員たちは寝起きの格好のままで走り回り、ある者は調理室から火種を持ち出し、また他の者は干した海藻のたいまつに火をつけていました。そして右舷側の手すりのところでは、ボースンたちが先刻の主人公と同じくキャプスタンのバーを武器に、すでにウィードメンと激しい戦いを繰り広げている最中。
手渡されたカトラスに歓喜の雄叫びをあげたボースンは、そのまま主人公の手にあったランタンを引ったくり、反対の左舷側へと駆けつけます。気づかれないうちに、そちらからもウィードメンがよじ登ってきていたのです。
ボースンは一瞬で三匹を切り裂きますが、すぐまた手すりの上には一ダース近い新手の敵が。今度は主人公もそれらに立ち向かい、ボースンと並んでひたすら剣をふるいました。
闘いは船のいたるところでしばらく続きますが、じき甲板にはいっぱいに明かりがともされ、キャプスタンのバーを振るっていた船員たちもカトラス(たぶん海鳥号に装備してあったもの)に持ち替えることができたので、次第に戦況は好転へ。
そんな中、主人公がふと船尾楼甲板からの叫び声に振り返ると、そこでは肉切り用の斧を握って戦闘に参加していたぽっちゃりおばさんが、スカートにまとわりついた一体の触手にその武器を振り下ろそうとするところ。すぐ応援に駆けつけますが、彼女は助けを待つまでもなくそのウィードマンを片付けました。
さらに驚いたことに、そこではあの船長夫人までが短剣を手に、凄まじい形相でウィードメンに立ち向かっていたのです。狂気の中にも、彼女は夫の復讐という一念に突き動かされているようでした。
しばらく戦闘に戻ったあと、なんとか余裕のできた主人公は再びぽっちゃりおばさんに駆け寄り、マディスン嬢はどうしているか尋ねます。すると彼女は息を切らしながらも、マディスン嬢なら自分の部屋から出てこられないよう、外から鍵をかけて閉じ込めてしまったから大丈夫だというので、今度は主人公が安堵と感謝から彼女に抱きつく番でした。
そしてようやく戦いは終わりを告げます。さいわいその間じゅう船は藻の広がりとは反対の方向に流され、今は開けた海の上に出ていました。
主人公がマディスン嬢の船室に飛んでいって戸を開けると、彼女は飛び出してくるなり主人公にしがみついて泣き崩れます。大事なときに閉じ込められたとひどく怒り、少しの間ぽっちゃりおばさんと口をきこうともしなかったマディスン嬢でしたが、そんな場合ではないと主人公に言われるとすぐにふだんの元気を取り戻し、かいがいしく負傷者たちの手当てにあたりました。
しかし船長夫人の行方だけが知れず、ボースンと二等航海士が探してもついに発見されませんでした。おそらく、彼女はウィードメンの群れに深みへと引きずり込まれてしまったのでしょう。マディスン嬢もおばの死をたいそう悲しみ、三日ほどはふさぎ込んだきりでした。
そのあいだに船は藻のただよう一帯を抜けきり、七十九日間の航海のすえ、ついに自力でロンドンの港にたどり着きます。別れに際し、主人公は(今まで全く言及がなかったのですが、家はかなりの資産家のようです)苦楽を共にしてきた仲間たち一人一人に記念の贈り物をすることも忘れませんでした。
むろんぽっちゃりおばさんもそれなりの心付けを受け取り、夫の船大工と教会で念願の式を挙げたあと、エセックスにある主人公の地所の境界近くにある家に落ち着くことができました。そして同時に、マディスン嬢も晴れて主人公の婚約者として屋敷に迎えられたのです。
・・・そして年月は流れ、今ではボースンも主人公の地所のうちに居を構えており、いくぶん背格好に年を感じるようになってはきたものの未だに元気で、折にふれては主人公とかつての冒険の思い出話をし合う仲だということです。もっとも主人公の子どもたちがそばにやって来ると、二人はまだ小さい彼らを怖がらせないよう、決まって他のことに話題を移すのでしたが。(了)
* * * * * *
半年以上続けたこのあらすじ紹介もやっと終わらせることができました。まったく取るに足らないような稚拙な訳とまとめではありますが、それでもこのホジスンの未邦訳作品の一端を知っていただく契機にでもなれば幸いです。
ここまで読み続けて下さった方々には心からのお礼を申し上げたく思います。m( __ __ )m
作品全体の感想はまた日を改めて別記事でまとめる予定ですが、終わり方としてはこれ以上ないくらいの大団円で締めくくってくれましたね。船長夫人の悲劇が一抹の影を落としているとはいうものの。とりあえずマディスン嬢が「ナイトランド」のナーニ化しなかったのにはほっとしました。
それにしても、船室が内側から開けられないというのはありなのか?と些細なことが気になってしかたなかった最終回なのでした。いずれこんなこともあろうかと、ぽっちゃりおばさんが旦那の船大工に言って改造でもさせてたんでしょうか。