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2013.04.30 07:49|ホジスン
 雑誌の方ではありません (というか誌名の由来ってこれ?)。念のため。

 少し前、例の終末テイスト聖杯伝説(?)を観たおかげですっかり「ナイトランド」熱が再燃し、連休中に久しぶりで読み返してました。
(詳しくはリンク先をご覧ください。もちろん「似てる」と思ったのにそこまで深い意味はなく、ポストアポカリプティックな未来という設定、それにほとんどいつも暗い背景映像はじめビジュアルが個人的「ナイトランド」のイメージとかぶったからなんですが。)

 考えてみれば私、ホジスンの長編の中でこの作品にだけはちゃんと触れたことがなかったかも。唯一思い出すのが「グレン・キャリッグ号のボート」を紹介していたとき、しょっちゅう「(『ナイトランド』は)ヒロインがウザい」的なことを言ってた記憶という(汗)
 しかしそれではさすがにホジスンファンとして失礼な気がしてきたので、この際自分なりの紹介記事を書いてみようかと思い立ちました。結末のネタばれにならない範囲であらすじと登場人物・世界観の説明、それにおりおり私個人の雑感なども含めて、ボリュームが多くなりそうなため数回に分けようと思ってます。
だいたい更新遅いんでいつ終わるかわかりませんけど、気長にお付き合いいただければ幸いです。

 「ナイトランド」は1912年に発表された、ウィリアム・ホープ・ホジスンの長編四作のうちではひときわ長い小説。ウィキペディアにも書かれたのは数年前にさかのぼるとあるように、他作品との執筆時期の前後関係は微妙なようですが、まとめて「ボーダーランド三部作」と呼ばれるほかの長編三つ(グレン・キャリッグ号のボート、異次元を覗く家、幽霊海賊)のそれぞれと共通する要素を含んでおり、内容的にはホジスンの集大成のような作品といえるでしょう。

 しかしほぼ二十万語というあまりの長さのため、初版刊行ののちはあちこち出版社によるカットを施されるという憂き目に会い、さらにアメリカで出版するにあたっては約十分の一に短縮して「X氏の夢」と改題したバージョンを新たに書き直さざるを得ませんでした。
 
 日本語訳版もカットを免れてはいないようで、私が持っている本(新しい方の原書房版ではなく、月刊ペン社の妖精文庫というシリーズで出された上下巻)にも最後、海外で出たペーパーバックの省略箇所を参考に、主に後半部分でカットを断行したという訳者の荒俣宏氏の断り書きがあります。
 しかしまあ、そうしたくなるのも仕方がないかと思えるほど、(カット込みでも)後半があちこちグダグダ気味なのも確かでして…。とにかく長い分、ホジスンという作家の魅力と欠点双方がとことん詰まっているという感があるんですよね。

 さて、前置きはこれぐらいにしてそろそろ本筋の紹介に入るとしましょう。
 たいていのホジスン作品と同じように、「ナイトランド」も主人公が一人称で語るという形式で進行します。しかしこの主人公、実は「二人で一人」とでもいうようなちょっと特殊な設定。
 現在(といっても舞台は十七、八世紀のようですが)に生きる語り手は、はるか後の時代に転生した自身の生まれ変わりと互いに精神がリンクして、その未来の自分の身に起きた出来事を記す…というのが「ナイトランド」の物語なのです。

 最初の章ではプロローグ的に、彼と運命の女性ミルダスとの出会いが語られます。夕暮れどき散歩に出た語り手は、隣家の被後見人で自分と縁続きでもある令嬢ミルダスにめぐり会い、たちまち愛し合う中に。二人はお決まりの行き違いやら何やらを乗り越えてめでたく結ばれたものの、彼女は子供が生まれたのと引き換えに亡くなってしまったのでした。

 妻の死後悲しみにくれていた語り手でしたが、ある日不思議な体験が訪れました。彼は自分が途方もない時を経たあとにふたたび生を享け、その転生した姿である十七歳くらいの若者とお互い意識が通じ合うようになったのを初めて自覚したのです。
 以降主人公は時空をへだてて、その「もう一人の自分」が体験した出来事を語り続けていくことになります(その間に「現在」ではほとんど彼の一生分に相当する時間が流れているようにもとれるのですが)。

 はるか未来の地球ではすでに太陽は光を失い、環境も天変地異や戦争、そしてそのために異次元からの邪悪な存在の侵入を招いたことによって完全に荒廃していました。わずかに生き残った人類は「最後の角面堡(ラスト・リダウト)」と呼ばれる巨大なピラミッド型建造物を作り、その中に閉じこもって社会を営んでいたのです。
 ピラミッドの周囲に広がっているのは巨人や怪獣のような不気味な生き物が跋扈し、さまざまの神秘的な現象に満たされた「夜の域(ナイトランド)」。そこはピラミッド内の人々にとっては、よほどの覚悟と修練なしには出て行くことを許されない禁断の地なのでした。
 
 しかし前世の自分を意識すると同時に失った妻への思いをも呼び覚まされた主人公は、ある時ふと闇のかなたから伝わってくる最愛のミルダスの気配を感じ取ります。彼女もこの世界のどこかにいるのか…。

 大体ここまでが導入部分といったところ。次はピラミッドを取り巻く闇の領域、ナイトランドについて説明してみようと思います。

次回(その2)はこちら

テーマ:本の紹介
ジャンル:学問・文化・芸術

タグ:ウィリアム・ホープ・ホジスン

2013.04.24 06:03|音楽鑑賞(主にオペラ)
 作品のあらましはこちらに記したとおり(鑑賞したあと多少修正しました。フランチェスカの父親とか登場しないだけでちゃんと健在なんですね)。演出自体も紹介されていたあらすじにごく忠実です。

 実はこのところ微妙に忙しく、ちゃんとした感想を書く暇がないまま観に行ってからもう一週間以上経ってしまいました。そんなわけでいささか賞味期限切れだとは思いますが、主に歌手陣についてだけ簡単にまとめておくことにします。

 インタビューでもフランチェスカの役には思い入れがあると語っていたウェストブロック(ヴェストブルック)、出番が多い上に歌に付けられたオーケストレーションも分厚くて大変そうなのですが最後までパワフルに歌いこなしていました。声の響きの美しさの点でもあのこてこてに豪華な音楽に負かされず、むしろよく調和してましたし。一番心配だったジョルダーニも、ネットラジオで聴いたときから破綻がないよう慎重に歌っている印象で、HDでは音響効果もあって声の衰えもそれほど気にならなかったです。慎重なのがパオロにふさわしいかはともかく。

 しかしこの主役カップル、音楽的にも役柄的にもちょっと奥行きに欠けるというのか、出番になるとひたすら甘ーいメロディでとうとうと愛を歌うだけ(一応通り一遍の葛藤はするけど)なのにはだんだん食傷気味になっちゃいます。やはり私にとってこの悲恋伝説の魅力はもとの「神曲」での、現世と明暗の対比をなす地獄の場面あってこそだと再認識したのですが、ザンドナーイのオペラがそこをすっぱり削除したのはどうしても物足りなく思えてしまいました。
 
 ですから、最初の道化と侍女たちの絡みとかスペクタクル満載の攻城戦の場面、それに四幕でのジャンチョットとマラテスティーノのやりとりといったあたりの方が曲調も変化に富んでいるし見ていても楽しめたのです。演技づけがあまりに大時代的というかいちいち大袈裟すぎるとも思ったけれど。

 そもそも伝説の題材になるような悲恋より、マラテスティーノみたいな卑近なコンプレックスのほうが共感しやすいなんていったら身もふたもありませんが、この役のブルベイカーにはただの脇役にとどまらない非常な存在感がありました。この人はプロコフィエフのオペラ版「戦争と平和」でやったピエールが素晴らしく、原作小説のピエールまでブルベイカーのイメージになってしまったくらいの個人的はまり役なのですが、今回のような180度性格の違うキャラクターもいい味を出してます。
 
 ジャンチョット(ジョヴァンニ)のデラヴァンも熱演。しかし私はちょうど鑑賞前日、この公演に続いてデラヴァンがメトで歌った「ワルキューレ」の録音を聞いたばかりでして…。 なのでデラヴァンが頭から湯気を立てそうに暴れるたび、ヴォータンの告別で最後の音を顔が真っ赤になるくらい思いっきり"ni~~~e!"と伸ばしていたのが脳内再生され困ったのでした(あれはやりすぎ)
 
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↑昔どこかで見た地獄のパオロとフランチェスカの絵がずっと記憶に引っかかってたのですが、調べたらアリ・シェフェールというオランダ出身でフランスで活躍した画家の作品でした。よく覚えてなかったくせに、私はフランチェスカ・ダ・リミニというとアングルやロダンよりこの絵が先に浮かんでしまいます。
 
 それはそうと先日はバイエルンの「さまよえるオランダ人」の開演時刻を誤表記してしまい大変失礼しました!
ちなみに似たような見間違いでバスの停留所に二時間早く着き、待ってるのがたるいので目的地まで歩いたことがあります (一日三本しかないバスだったので…)

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

2013.04.16 06:13|音楽鑑賞(主にオペラ)
※4/19 脇に一部キャスティング変更があった旨追記しました
Bayerische Staatoper:Casting News
 
ここで宣伝して効果があるものかわかりませんが、当ブログとは縁の深いオペラですのでお知らせさせていただきます。

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写真は第二幕のゼンタ(カンペ)とエリック(グールド← たぶん。初演時のかな? )

 昨シーズンから始まったバイエルン州立歌劇場のネット映像中継、次回は四月二十日上演のワーグナー「さまよえるオランダ人」。現地での開演が夜の十九時二十時でした! 一番肝心なところ見間違えてすみません(汗) でミュンヘンとは七時間時差がありますので、日本では二十一日日曜の午前二時三時からということになります。
…週末とはいえ微妙な時間ですが夜更かししますかね 

 配信情報のページ(英語版)
↑開始時刻が近づけば歌劇場サイトのトップからもすぐ開けたはず

 しかし出演者はなかなか豪華で、オランダ人をヨハン・ロイター、ゼンタをアニヤ・カンペ、そしてエリックは日本で歌ったばかりのクラウス・フローリアン・フォークト! ラファウ・シウェクRafał Siwekというポーランド人バスのダーラントにこのオペラハウスの名脇役テノール、ケヴィン・コナーズの舵取りといった顔ぶれです。なぜかダーラント、舵取り、マリーの三役が揃って変更で、それぞれピーター・ローズ、ノルベルト・エルンスト、オッカ・フォン・デア・ダメラウが歌う予定とのこと。
指揮はメトのパルジファルでもガッティの後に登板していたアッシャー・フィッシュ。

 カンペのゼンタは新国立劇場での初演で聴いたときには歌も演技も抜群でしたし、ローエングリンとは対照的に人間社会の代表のようなキャラのフォークトというのも楽しみです。タイトルロールのロイターはオペラでは「仮面舞踏会」というデンマークのコミックものしか知らないのでちょっとなんとも言えませんが。

 もうひとつの注目はペーター・コンヴィチュニーの演出でしょう。新演出ではないものの映像化はされてないプロダクションのはずですし、何より二期会の「マクベス」ももうすぐ。私含めコンヴィチュニー演出にあまり馴染んでない人には耐性(…)をつけておくのにちょうどいいかもしれません

 実はこのプロダクション、ネットラジオの中継で聴いたときにラストシーンのところでびっくりというかほとんど呆れた記憶があるんです。あの処理はたぶん今でも変わりないだろうと思うのですが、果たして実際に見たら違和感も感じないほど説得力がある舞台なのかこの目で確かめたいところ。

テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

2013.04.12 01:16|Die Oper kocht
※追記 参考までにうちで作ったときの分量を書き足しました。
 
 母親と私でそれぞれ新ジャガを買ったのがだぶり、家のジャガイモ入れに入りきらなくなってしまったのでこの間のジャガイモだんごに再トライ。
失敗じゃないまでも、パーペが見たら変な顔しそうな微妙にこれじゃない出来だったしね。

 今回はマッティとパーペの作り方を折衷したのにアレンジも加えて、ジャガイモはマッシュと生のままおろしたのを2:1←(3:2くらいの方が近いかな)の割合、卵を入れずにつなぎはパン粉と小麦粉半々という配合で作ってみました。ベーコンもマッティ流に生地の中に入れて(ジャガイモで包むというより全体に練りこむ形になってしまったけど) 薄く切ってあるのではなく、ブロックベーコンをさいの目にしたものを使っています。
 
 春らしくタマネギ(こっちも新タマネギで)のソースはグリーンピース入り。タマネギみじん切りをオリーブオイルで炒めたあと、色がつくかつかないかのあたりでさやを取ってさっと塩ゆでしたグリーンピースを加え、水を足して少し煮てから少量の白ワイン、コンソメ、塩コショウで味を整えます。
130409_1913~01

 これがおいしい!!!(自画自賛)グリーンピースのプチプチ感がもっちりしたジャガイモだんごにすごく合います。
前回すりおろしたジャガイモが変色してしまったのも、今度はおろす順序を最後にしてなるべく早くゆでるようにしたのでほとんど問題なしでした。この間はやっぱりあれこれとモタモタしてたみたいです。土の匂いも新ジャガのほうがずっと気になりませんしね。

Metのパルシファルを堪能した後は、舞台にない春の気分を味わうため春野菜尽くしのこの一品はいかがでしょう(嘘) 

材料(2~3人分)

ジャガイモだんご:新ジャガ(中サイズ)4~5個、ブロックベーコン約80g、小麦粉・生パン粉各4/1カップ、塩、こしょう

ソース:新タマネギ大2/1個、グリーンピース1パック
    水100cc、オリーブオイルもしくはバター15g(約大さじ1)、顆粒コンソメ、調理用白ワイン、塩コショウ各適量

テーマ:おうちごはん
ジャンル:グルメ

2013.04.09 08:12|音楽鑑賞(主にオペラ)
メトHPのフォトギャラリー

↑この「パルシファル」新演出の舞台、スクリーンで見たら私が偏愛している作家、W・H・ホジスンの滅びゆく地球を描いた大作「ナイトランド」みたいだなと思えてきてしまいました。

ナイトランドナイトランド
(2002/05)
ウィリアム・ホープ ホジスン

商品詳細を見る


 まあホジスンの宣伝は最初だけにするとしまして… 以下は演出への個人的な考察含んだ長々しい感想。当然最後までネタバレしています。

 何らかのカタストロフによって荒廃し干からびた大地が舞台というのは台本にあるモンサルヴァートの森とはかけ離れた設定ですが、ケルト起源の聖杯伝説の一部である「漁夫王(フィッシャー・キング、このオペラのアンフォルタス)」にまつわる「荒地」Wasteland のモチーフに基づいていると思われます。
 さらにその不毛を悪化させているのは、男性たちが閉鎖的なコミュニティ(聖杯騎士団)を作って引きこもってしまい男女間の正常な結びつきが失われたのも一因であるとして、舞台中央の水が流れる小川(といってもごく細い溝でしかありませんが)を境界に、聖杯騎士たちと黙役の女性たちの一団が左右に分かれて存在するという構図がそれを象徴的に示しています。
 このように崩れたバランスを正常に近づける存在が三幕で知を獲得して戻ってきたパルジファル。ラスト、彼は取り戻した聖槍(=男性原理)でアンフォルタスの傷を癒すと同時に、それをクンドリーの掲げる聖杯(=女性原理)と再び一つとすることで、両性間の断裂にも終止符を打ち世界再生への希望をつなぐのです。
 
 そのパルシファルが覚醒するところの第二幕の舞台は、簡単にいえば血の池地獄。幕間のインタビューで演出のジラールは「クリングゾルの幻想世界」と説明してましたが、どこかのメディアで「アンフォルタスの傷口の中」と語っていたのも読んだような。なんにせよ現実には存在しない一種の精神世界といった感じです。
 私としてはアンフォルタスの傷というだけでなく、ほぼ全てのキャラが抱えるトラウマ、すなわち心の傷の底といった捉え方ができるのではと思いました。騎士団に拒まれた過去を引きずるクリングゾル始め、ゴルゴタに歩むイエスを笑って呪われた顛末を語るクンドリー、母を捨て心痛で死なせた罪悪感を呼び起こされるパルジファルと、登場人物が揃ってトラウマをほじくり返されるのがこの幕なわけですから。

 全体を通して強調される二つのモチーフは血、そして水。最初真ん中の小川には透き通った水が流れており、グルネマンツがそれを確かめようとしてか手を差し入れるのがクローズアップで示されますが、アンフォルタスが水浴に向かうと水は次第に赤く染まっていきやがて完全な血へと変わります。幕切れでパルジファルが舞台に一人残されると、彼を引き込もうとするかのようにその血の川がぱっくりと口を開いて深淵となるのは二幕への伏線でしょうか。
 さらに荒廃が進んだ三幕では小川はほとんど涸れているのですが、戻ってきたパルジファルがクンドリーに洗礼を施すところで不思議と再び澄んだ水が流れ始め、それに気づいたグルネマンツは歓喜にうたれた様子(これが唯一の「聖金曜日の奇蹟」らしい兆しなのです)。

 アンフォルタスの傷の「血」のほうが強烈でこれまで気づきませんでしたが、考えてみれば「パルジファル」にはアンフォルタスの水浴に始まって一幕と三幕で昏倒したパルジファルにクンドリーが汲む水、聖金曜日の場面で言及される露、それに何より洗礼のシーン等々、そもそものテキスト自体にも繰り返し「水」のモチーフが出てくるのでした。
 
「血と水」というのはキリストの磔刑における重要なシンボルで(私はちっとも神学に詳しいわけではなく、たまたま先日テレビでやってた「ベン・ハー」の最後のあたりを見て聖書のこの一節を思い出したことから今度の舞台を連想したのですが)、「ヨハネによる福音書」十九章には十字架で息絶えたイエスの脇腹をある兵卒が槍、つまりオペラ中の聖槍で突きさすと「血と水」とが流れ出たという記述があります。
 ネットでちょっと調べただけでも簡単にはまとめられないくらいの説明解釈がされていますが、大ざっぱにいえば血はキリストの人間性と人類の罪を贖っての死、水は神性と浄化をもたらす力の象徴…ということでいいのでしょうか。さらにそこから血は聖餐式、水は洗礼というキリスト教にとっての最重要儀式ともそれぞれ結びつくとも。この二つの儀式は「パルジファル」の作中にも出てきますから、その点明らかに意識しているのではと思います。

 今回の演出ではあえてキリスト教色を薄め、仏教というのか東洋的思想を取り込んだというのが強調されていたけれど、結局そういった要素はバランスを重視する陰陽思想らしきものなどわりと一部で、もともとの台本や背景にある伝説を掘り下げてそこから抽出したモチーフを視覚化したように受け取れました。
 …もっとも、私が一番東洋風に感じたのはあの貞子の集団な花の乙女たちでしたけど。本業映画監督のジラールは日本が舞台の作品を撮ったりもしているので絶対に分かってやってそう(笑) 
(ただクリングゾルやパルジファルの立場を考えれば、彼らの目に彼女たちが忌まわしい妖怪のように映るというのはあながち間違ってはいないのかも。日本人にとってはどうしてもパロディチックに見えちゃうのが困りものですが…)
 
 しかしそのヴィヴィッドな舞台装置もさることながら(ついでに今回、スクリーンには休憩中もずっと舞台裏でセットが準備される様子が映っておりなかなかの見ものです)、この舞台を何より心を打つものにしたのはこれが現実と遠い物語だということを感じさせない、生の血肉と感情をそなえた存在として登場人物を造形したこととそれに見事に応えた歌手たちでしょう。

 正直いいまして、私はこのところカウフマンが苦手になる一方だったのです。それは単に声質が好みでないというより、いつも深刻そうな表情に歌い方で見ているとこちらの気まで滅入ってくるからだとわかりかけてきたのですが、役や場面によってはもっと軽かったり能天気だったっていいと思うわけで。だいたい素のインタビューだとあんなにハイテンションなんだし。
 ですがパルジファルという役柄、とりわけ今回の舞台ではその深刻さがむしろ説得力を強め、プラスに働いていたと思います。映画館の音響で声を張るとビリビリ響くのが私的に相性が悪いのは相変わらずながら、二幕で悟った?後の歌にはただ声が強いだけでない意志の力のようなものが伝わってきましたし、聖金曜日の場面では一転して穏やかな表現で、初めてカウフマンに聞き入ってしまいました(ここはさらに抑えた歌だった初日のネット放送のほうがもっと好みでしたが)。

 初役でアンフォルタスを歌ったマッティも実によく練り上げられた演唱で、声のボリューム的にもワーグナー歌手として十分やっていけそう。王の威厳も何もかなぐり捨てて苦しみ悶えるこのアンフォルタス像には最初ちょっと違和感があったけれど、観終わってみればその弱さこそが一番心に響いたところでした。
 ニキーティンは先にアンフォルタスの録音を聞いた後だったし、良くも悪くも(声が)端正すぎてクリングゾルにはどうかと思っていたら、演出にも助けられてか普通に凄味があってはまっていました。時々あるアンフォルタスとクリングゾルの一人二役というのもいけるかもしれません。

 しかしこの作品で音楽の要となるのはやはりグルネマンツだと思いますし、そもそも一番出番の多いこの役が平凡以下だと全体の満足度がガタっと下がるのは確実でしょう。そんなわけでファン目線を抜きにしても、今回の歌手でのMVPはやはりパーペに進呈したいです。メフィストのように豪快にばりばり歌いまくってくれる役もいいですが、私はこの人がモノローグ的な長い語りをするときの細かな表情付けがいちばん好きなので、場面によってさまざまな引き出しを披露できるグルネマンツはこちらにとっても実に聴きがいがありました。
 歌とそれに加えて一幕と三幕でがらりと変わる演技でも、パーペの持ち味の鋭さと柔らかさの双方がこれ以上ないほど生きた舞台ではなかったでしょうか。特にパルジファルに再会したときの万感こもった"O Gnade!"は今でも耳を離れません。

 男声陣がすばらしい中、ダライマンは雰囲気もねっとりした声のトーンもクンドリーのイメージとはちょっと違ううえに、聞かせどころの二幕で最初平板に感じられたのが今ひとつ。でもカウフマンの熱演に引っ張られてか、イエスとの邂逅を語り出すあたりからどんどん迫力を増して良くなってきたと思います。

 バイロイトの時は高速をしょっちゅうスピードを変えつつ走る車に乗っているような落ち着かなさがあってどうもなじめなかったガッティの指揮も、今回はずっと完成度を高めていた印象でした。
 初日の放送(最後の三十分は聴けませんでしたが)では細部を繊細に美しく響かせることにこだわり過ぎてか、推進力が失われて間延びした感がぬぐえなかったのが、HDの日はそういうアンバランスさがほぼ調整されて全体の大きな流れが作り出されており、ゆっくりしたテンポは変わらないながら緊張感に満ちた名演奏を堪能しました。メトの合唱団にも、いつものことながらステージでの演技者としての存在感含め感心です。

 今回は日本の公式に合わせて「パルシファル」表記にするつもりが、気を抜いたら途中からいつも使ってる「パルファル」に戻っちゃってますね~。中途半端ですみません。

テーマ:クラシック
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タグ:オペラ感想

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筆不精にも関わらずメモ帳代わりとして始めてしまったブログ。
小説や音楽の感想・紹介、時には猫や植物のことも。
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