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2013.07.30 22:51|音楽鑑賞(主にオペラ)
 幽霊船が出てくる歌劇なんてせいぜい「さまよえるオランダ人」とその台本転用のこれ位かと思っていましたが、わりと最近意外な作品がオペラ化されていたのでした。

BallataBallata
(2011/08/09)
L. Francesconi

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 英国ロマン派の詩人サミュエル・テイラー・コールリッジ(1772~1834)の代表作である「老水夫行」(なぜかうちのPCではいつも「漏水不幸」なんて笑えない変換に。ただし入手しやすい訳の邦題は「古老の船乗り」)をもとに、1956年生まれのイタリアの現代作曲家ルカ・フランチェスコーニが書き上げたのがBallata (バッラータ)というオペラ。なお、「バッラータ」とはイタリア中世の詩・楽曲の形式を表す用語とのことですが、どうしてそんなタイトルがつけられたのかはいまいちよくわかりません。
 
初演は2002年秋にベルギーのモネ劇場で行われ、指揮を担当したのは当時音楽監督に就任して間もなかった大野和士さんでした。
 そのときの録音がおととし発売されていた(なぜ九年も経ってから出したのか謎ですが)のを先日オンラインショップで偶然見つけ、曲よりは台本の内容知りたさに注文しちゃいました。現代もの系は普段ほとんど聴かないんですけどね。そろそろ届いてもいいころなので、詳しくは鑑賞し終わったらまた取り上げたいと思います。

 しかし一足先にネットを探したところ、いくつか映像クリップが…。こういうのはビジュアル付きのほうがずっと楽しめそうなのに、ソフト化されたのがCDだけというのは残念。全曲の録画は残ってないんでしょうか。

Part1
http://www.youtube.com/watch?v=00G7d5zudbk


Part2
http://www.youtube.com/watch?v=pAXsg4Bp0zs


Part3
http://www.youtube.com/watch?v=_uK68InkXpE


 演出したアヒム・フライヤーの舞台は決まってサーカス団のようなメイクや巨大お面、一風変わった振り付けが登場することで有名(時々奇抜すぎて物議をかもしたりも)ですが、不思議とこの作品の世界観にはマッチしているように感じます。
 セットはステージを船の甲板前半分に見立てるという趣向なんでしょうか?席によっては観客も残りの船体後方にいる船上の一員のような疑似体験ができて面白そう。

↓原作の詩はこちらで

対訳 コウルリッジ詩集―イギリス詩人選〈7〉 (岩波文庫)対訳 コウルリッジ詩集―イギリス詩人選〈7〉 (岩波文庫)
(2002/01/16)
コウルリッジ

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テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

2013.07.26 02:07|ホジスン
その(1)はこちら(以降順繰りにリンク)

 はるか未来の世界で、前世の恋人ミルダスの生まれ変わりナーニとテレパシーで心を通わせることができた主人公。
 しかし彼女がいる「小ピラミッド」は生命線であるエネルギー源「地流」を失ったことによって滅亡の危機に瀕していることが分かります。主人公はナーニはじめ小ピラミッドの人々を助け出そうと、単身旅立つ決意を固めるのでした…。上巻の後半そっくり、すなわち邦訳版のほぼ四分の一にあたる長さを占めているのが、このまだ見ぬナーニと小ピラミッドを求めての探索行です。
 
 なかなか興味深いのが冒険に向けた主人公の装備なので、ちょっと詳しく紹介しておこうと思います。
 
 まず身なりは「夜の域」の寒さに耐えられる特別素材の服。さらに甲冑(色がどちらも「灰色」とあるので、ピラミッドに使われている金属と同じ素材なのかもしれません)を着け、腰には唯一の武器である自分専用のディスコスを帯びます。ちなみに私は「甲冑」という訳語のせいでずっと中世騎士の鎧的なのをイメージしてたのですが、調べてみるとフランス版の表紙↓などは、まるで洋ゲー風バトルスーツのようなデザインだったり。

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同じ「アーマー」でもずいぶん違いますよね。

 次に携行品ですが、これは身の回りの必需品等をのぞけば大部分が食糧のよう。「夜の域」で水含め食べ物を調達することはほぼ不可能に近い上、どれ位かかるかも分からない行程なので相当な量になりそうですが、このあたりはさすが未来文明、そんなことはまったく問題になりません。(なお、ピラミッドには牛馬など乗用・運搬用になる家畜はいないようです。)
 食事は一食分が数粒で足りるサプリのような錠剤(タブレット)、飲み物は空気中に出すと化学反応して液状の水になる粉末なので、持ち運びは非常に楽に思われます。この粉末飲料のようなものが科学技術で実現可能なのかはさっぱりわかりませんが、作中においてはとりわけ未来世界らしさを感じさせる面白いアイテムではないでしょうか。
 
 他には時計に相当する「計時盤」や「怪物警備官」の長が持たせてくれた小型の羅針盤などの道具類も荷物に含まれていました。とはいえこの時代には過去の天変地異や「地流」の影響のためか、羅針盤は方角を知る道具としては安定しないのであくまで試験的に持ち出してみたようなもの(比較的近くだと針は大ピラミッドの方向を指すため、帰途の道案内には使えるのですが)。
 しかし、そもそも目的の小ピラミッドは所在地すら不明なのです。それでも弱まる一方ながらもナーニのテレパシーを感知できる北の方角へ進むことにした主人公でしたが、実は出発に先立ち見つかったもう一つの手がかりがありました。

 それは図書館の古文書の中から発見された、かつて地球を見舞った大変動の歴史を記した一冊の本でした。地表に巨大な亀裂を生じさせた大地震、その亀裂が歳月を経て豊かな自然を再生させた大峡谷となったこと、太陽が衰えたために温暖なその峡谷の内部へと人類が移住を始めたこと。そして人類は日光が失われた後も、峡谷の底に新たな世界を築き、最後の避難場所大ピラミッドを建てるにいたったのです。

 そう、ここは途方もない深さに口を開けた大峡谷の底に広がる世界だったのです!
 
 かつて人類はその深みへと降りるため、数え切れないほどの世代に渡って底へと通じる「」を拓いていきました。古文書にあるその「道」とは、現在の「夜の域」で、大ピラミッドのある場所を大きくカーブするように北から西に向かって伸びる「無言のやつらの歩む道」のことではないかと考えられるため、「無言のやつらの歩む道」を北に行けば、かつて人類のたどってきた大峡谷沿いに進むことになります。そして目指す小ピラミッドも、その峡谷沿いのどこかにあるのではないかと。あまりに漠然とした推測にせよ、ナーニは北の方角にいるというテレパシー感覚の裏づけにはなりました。
 
 そして人々に見送られ、ついにピラミッドを旅立つ主人公。巨人や怪物たちにたびたび遭遇し、一度ならず命の危険にさらされた「夜の域」の旅は容易なものではありませんでしたが、ついにその最果てへとたどり着いた彼が目にしたのは、見慣れた「夜の域」とはまるで異なる真っ暗闇の大斜面。それでも向こう側にナーニが存在することを信じ、未知の領域に足を踏み入れるのでした…。
 果たして主人公はタイムリミットに間に合うように小ピラミッドを見つけ、ナーニと巡り会うことができるのでしょうか?

 六回にわたって続けた「ナイトランド」記事ですが、これ以上の内容紹介はさすがにネタバレになりすぎるので今回で最後にさせていただきます。もちろん以前取り上げたテーマに関しても、本文にはもっとずっと詳しく書かれていますので、少しでも興味を持たれた方がいらして本編を手に取っていただければホジスン好きとしてはこれ以上嬉しいことはありません。
 (一般書店での入手はちょっと難しいようですが、アマゾン、また新版発売元の原書房さんのサイトにはまだいくらか在庫がありますし、図書館を当たってみてもよさそうです。)

 それにしても一人きりで出発する主人公、大人数での行軍はかえって危険でもせめて数人の同行者は募るべきでは?という気がしないでもないですが、これはやはり「たった一人だけの旅」ということに意味があるのでしょう。
 青年の成長物語という点で共通の「グレン・キャリッグ号のボート」では常に仲間との団結によって道が開かれるのと反対に、こちらの主人公は結局最後に判断し、頼れるのは自分だけというある意味孤独な存在なのです(怪物警備官」の長のように親身に見守ってくれる人物はいても)。
 
 未来の世界で過去生の意識に目覚めた主人公が想像を絶する危険にもかかわらずミルダス≒ナーニを求めるのは、同じピラミッドの誰も理解できない記憶や感覚を共有できる唯一の存在である彼女の探索が(また同時に、現在側の分身である語り手にとっても)失われたアイデンティティの追求であり、ゆえに一人でなければならなかったのではないかと思います。

 そしてよく冗長という批判の戦犯扱いされているこのヒロインとの恋愛主題ですが、確かにホジスンの女性観は現代から見るとなんとも古めかしくてリアリティに欠けるのは事実です。ただ、それなら愛のテーマが不必要というわけではなく(語り手のほうはたぶんいい年の大人なんだから少しは自重しろって感じですが)、この物語がホジスンの作品の中でも飛びぬけた美しさを備えているのは、背後にどれほどの時間を隔てても揺らがない愛の絆というテーマが一貫して流れているからだろうとも感じずにはいられません。
 「夜の域」は現実で失ったミルダスとの再会を叶えるために生み出された幻想の世界…と解釈するのは意地悪に過ぎるとしても、おどろおどろしい光景にも不思議と嫌悪感が沸かないのは、決して挫けず希望に向かって進む主人公の純粋さがどんな負の要素も昇華してしまうからだという印象を今回改めて受けたのでした。

 最後になりましたが「ナイトランド」含めホジスンの作品の多くは原文がネット上で無料公開されており、私も下記のサイトを使わせていただいてます。

http://fiction.eserver.org/novels/nightland/contents.html

 といっても用語や言い回しが原語ではどうなっているか部分的に参照しているだけで、日本版のカット箇所がどこかなんて突き合せて調べることは到底できそうにありませんが…(こんなんじゃディープファン失格でしょうか)

テーマ:本の紹介
ジャンル:学問・文化・芸術

タグ:ウィリアム・ホープ・ホジスン

2013.07.11 01:07|Die Oper kocht
 冷蔵庫から消費期限が近いイーストが出てきたので久しぶりに自家製パンでも焼いてみようかなーと、以前から気になっていたDie Oper kocht中の一品を作ってみることにしました。

 メゾソプラノのエリーナ・ガランチャの紹介メニュー、pīrādziņi(発音は「ピラジニ」…?)なる具入りパンです。(私、惣菜パン系ではベーコンをポテトやオニオンと一緒に乗せてあるようなのが好物なので)。
 ガランチャの出身国ラトビアのオニオンベーコンロールという感じで、心持ちバター多めの生地で炒めたベーコン、タマネギに卵を加えたフィリングを包み、形を作るとき細長い三日月形にして焼き上げるのが特徴。
 
 これが本に記載されている分量(私はだいたいこの半量で作りました)。

 生地:牛乳250ml/バター80~100g/イースト25g/砂糖大さじ2/塩大さじ1/小麦粉(強力粉)500g
 具:ベーコン2~300g/卵3個/タマネギ2個

(あと材料のところには表記がないんですが、これとは別に表面に塗る分の溶き卵と牛乳少量が必要なようです。)

 生地に包める状態まであらかじめ冷ましておけるように、最初に具の用意。
 薄切りタマネギをバター(私はオリーブオイル使いましたが)で色づくまで炒めたところで、切ったベーコンを(薄切りのものだと指定のダイス切りにするのは無理ですが、まあ小さく刻んであればそう違わないかと…)加えてさらに火を通します。
 ここで「卵を加える」って書いてあるんですけれど、生卵を炒めているフライパンにそのまま足すのか、それともゆでたのを刻んで入れるのか説明がないので、結局フライパンが汚れなくてすみそうなゆで卵で行きました

 パン生地のほうは普通に(イースト箱に一緒に付いてくる説明書き通りな感じに)作ればいいかと。ただ困ったことに、発酵のことに関しては本には一言も触れてないので(さすがにぜんぜん休ませず、こねてすぐの生地で具を包んでそのままオーブンへということはないと思うので…)これも大体マニュアル通りの一次発酵と二次発酵をさせました。

 一次発酵させた生地を小分けし、めん棒で楕円形にのばして具を包んでいきます。細長くした餃子を作る感じでしょうか。上記の分量×1/2で、10cmくらいの長さのロールが十二個できました。
 天板に並べて二次発酵させたあと、焼き色を出すため牛乳を少し加えた溶き卵を刷毛で表面に塗り、200度に熱しておいたオーブンで15分焼きます。

130706_2004~01

 完成!!! 焼きたてを食べてみました。

 オニオンとベーコン入りのパンでもこういう風に具材を炒め合わせて中に包んだタイプは日本ではあんまり見ませんが、そのフィリングがとってもいい味。ゆで卵が混ざって、マヨネーズであえたようなコクが出ています。本にはありませんが隠し味に黒胡椒をきかせてみて正解でした。
 生地はこの砂糖と塩の配合だとちょっと塩気がきいている感じで、もう少し甘みがあったほうが日本人好みかも。でもわりとすぐに馴れて、お昼抜きだったのであっというまに数個平らげちゃいました 形も食べやすくて便利。

130706_2352~01
中身はこんなです(ちょっとボケた

 Wikipediaに詳しい説明がありましたが、ラトビアでは夏至の祭りやクリスマスのような特別な日のお祝いに食べるパンなんだそうです。一度に相当の数を作るとありますけど、それだと準備も大変でしょうね。

 実はガランチャってレパートリーに私好みの演目が多くないせいもあって、残念ながらいまだにあまり馴染みがありません。メトのカルメンは(ガランチャ以外も)なんだかピンと来なくて、途中で録画見るのやめちゃいましたし…。
いま見てみたいのは去年ライブビューイングに行き損ねた「皇帝ティートの慈悲」のセストかな。そのうちMetオンデマンドかWOWOWで。

 しかしこの猛暑の中オーブン使うのはきつかったです こっちが焦げそうでした

テーマ:手作りパン
ジャンル:グルメ

2013.07.06 17:02|ホジスン
その(1)はこちら(以降順繰りにリンク)

 主人公たちが暮らす「大ピラミッド」では古くからある伝説が語り継がれてきました。世界に残された人類はこの大ピラミッドの住人たちだけではなく、どこかほかの場所でいまだに生きのびている人々が存在するはずだというのです。

 さて、一種の通過儀礼である全都市めぐりの旅を終えた主人公(すでに前世の記憶にも覚醒しています)は、ピラミッドでは憧れの「怪物警備官(モンストルワカン)」の職につきます。彼には「夜の耳」と呼ばれる、ごくまれな特殊感覚が備わっており、「夜の域」のごく微妙な変動も観測機器以上の鋭さで感知できるその能力を見込まれたからでした。
 (ここで説明しておかなければならないのは、この未来の人類のあいだでは生まれつきの素質や訓練によってだいぶ差はあるようながら、機械を介さず脳そのものの機能による一種のテレパシーが発達して通信手段にも用いられていることです。しかしそうしたテレパシー通信には、時として邪霊たちに気づかれ罠をかけられる危険もつきまとっていました。)

 そんななか観測塔で勤務についていた主人公は、「夜の域」のかなたから伝わってきた一つの気配に強い衝撃を受けます。それはまさしくミルダスの呼びかけに思えましたが、意思疎通に成功した相手が名乗ったのは「ナーニ」という名前。「ミルダス」とは以前読んだ物語のヒロインで、その名で主人公に呼ばれたので彼女のつもりで返事したのだと。
 しかしついにある言葉が鍵となって、ナーニにも過去生の記憶が甦りました。彼女はやはりミルダスの生まれ変わりに他ならなかったのです。

 狂喜したのは主人公だけではなく、伝説どおり他にも生き残りの人類がいると知った大ピラミッドの人々も同様でした。ナーニは主人公を介し自分が住む場所のようすを色々と伝えてきますが、それによれば彼女はそのもう一つのピラミッド(以降「小ピラミッド」と表記)の「怪物警備官」の長の娘で、そこの住人には珍しい強いテレパシーの持ち主でもありました。
 
 ナーニの語るとこるでは、「小ピラミッド」は百万年以上昔、草創期の大ピラミッドを異分子として追われた人物が設計したとのこと。彼は当時まだ放浪を続けていた他の人々を集め、ある海のそばに「地流」のある場所を見つけて、そこに規模は劣るも似たような構造の第二のピラミッドを築いたのです。
 
 しかし小ピラミッドの地流は年月とともに衰え、それは人々にも次第に深刻な影響を及ぼすようになっていきました。人類が生きるのに必要なすべての源は地流であるため(前回の項参照)、その欠乏は住民の生命力をも弱らせ、人口はいまや一万人足らずにまで減ってしまったのです。
 かつて地流で動く機械で行われていた大ピラミッドとの交信(もっとも機械は脳機能のテレパシー通信と併用で、それを増幅するのに使われている感じ)も遠い昔に停止され、大ピラミッドでは彼らのことはおぼろげな言い伝え以外忘れ去られたままでした。通信を再開できたのはここしばらく地流が復活の兆しをみせているからで、修復した装置で呼びかける役目を強いテレパシー持ちのナーニが担ったというわけでした。

 ですが主人公とナーニが「心の再会」を果たしてまもなく、決定的な事態が訪れます。突然彼女が弱々しく告げてきたのは、地流が前触れなしに涸れ果てたという最悪の知らせ。再燃とは結局、最後のほとばしりのようなものにすぎなかったのです。その後しばらくは機械に頼らずナーニの脳機能だけによる呼びかけがときおり響いてきましたが、やがてそれも途絶えてしまいました。
 主人公はもちろん、大ピラミッドの人々のあいだにも動揺が走ります。中でも無鉄砲な若者たちの一隊は助けに行こうと掟を破って「夜の域」に飛び出したのですが、全滅したばかりか救援隊にも多くの犠牲を出すという悲惨な結果に…。

 それでも単身ナーニたち小ピラミッドの住民を助けに向かう決意を固めた主人公。とはいえ小ピラミッドの存在地さえも不明なのですが、ナーニとの交信で得た、彼女のいるのは北の方角に違いないという直感に従うことにしたのです。外の世界に赴くため必要な精神の「備え」をすませ、苛酷な環境に耐えられる装備一式に身を固めた主人公はついに「夜の域」へと踏み出しました――

 やっと背景解説からストーリーが動き出す段階に来たわけですが(でもここまでが面白いんですよ!!)、数々のこまごました設定を取り払ってしまえば、「ナイトランド」の大筋はヒロインを救出に行くヒーローの旅物語という王道そのもの。
 
 ところで、この孤立した環境にあるまだ見ぬヒロインを青年が単身救出に向かうという構図は、以前紹介した「グレン・キャリッグ号のボート」の、マディスン嬢ら難破船の人々のところまで藻の海を越えていく主人公と共通です。
 幻想・超自然的要素に乏しく、「ナイトランド」とはだいぶ印象の異なる「グレン・キャリッグ号」ですが、実際にはホジスンの作品どうしの中でもこれらの二作品はかなり多くの類似点を含んでいるように思えます。揃って人生経験が少ない若者が主人公ポジションで、それを父親代わりとして見守るボースンと「怪物警備官」の長という関係も同じですし、最終的にはどちらの主人公もその庇護の下から離れて単身冒険におもむくという点でもそっくり。それぞれのヒロイン、マディスン嬢とナーニもホジスンの好みのタイプなのかどことなくキャラが被っているような(笑)

 「ナーニ」Naaniってなんだか微妙な語感ですけど、この時代の言葉は当然ながら、少なくとも英語とはまったく違ったものになっているとのこと。もっとも、日本語版でカットされてしまったのでなければナーニ以外に出てくる未来の人名はたった二人、アショフ(全滅した若者たちのリーダー)とアエスワープス(未来の時点から見てはるか古代の詩人)だけですが。
 ほかにも言語の違いに主人公の現在と未来それぞれの人格が面食らうとか、言葉の問題に関してはまったく無視されているわけでもないですが、もう少し踏み込んであっても面白かったかもしれません。

次回(その6)はこちら

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タグ:ウィリアム・ホープ・ホジスン

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Author:eHolly
筆不精にも関わらずメモ帳代わりとして始めてしまったブログ。
小説や音楽の感想・紹介、時には猫や植物のことも。
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