fc2ブログ
2013.11.23 23:53|音楽鑑賞(主にオペラ)
最終日になんとかすべり込み鑑賞。

 楽しみだったのは、やっぱりスカラ座の「魔笛」で興味をひかれたウィリアム・ケントリッジの演出です。(現代アートに疎い私はケントリッジのプロフィールについてほとんど知らなくて、今度のインタビューではじめて南アフリカ出身とわかったのですが、あの魔笛が植民地主義の問題を強調していたのはその影響もあったのかと今さらながら納得でした。)

 帝政ロシア時代のペテルブルクが舞台のゴーゴリの短編に、ほぼ百年後ショスタコーヴィチが作曲したオペラ版「鼻」は、舞台に乗せる尺の関係上か多少原作にない部分は付け足されているものの、おおむね小説の筋どおりのストーリーです。
 
 簡単なあらすじ。
 
 八等官の役人コワリョフが起きてみると、どういうわけか顔から鼻だけがきれいに消えうせてしまっていたのです!!!
 行きつけの床屋の朝食のパンから出てきたその鼻は、こともあろうに"主人"より上の五等官の制服を着込んで町中歩き回ったあげく(コワリョフに出くわしても文字どおり鼻であしらう)、とうとう馬車で逃亡しようとしたところを張り込んでいた警官たちによって身柄確保。
 警官から鼻を返してもらって喜ぶも、今度はくっつける方法がわからず途方にくれるコワリョフですが、しばらく経った朝、鼻は何事もなかったように元の場所に戻って一件落着…となるのでした。

 街じゅうを逃げ回る鼻はケントリッジ得意の手法である影絵アニメーションで背景を駆けめぐるうえ、張りぼてをかぶった姿で舞台にも登場。なお、この張りぼて鼻にモデルを提供したのはケントリッジ自身とか。
 さらにこの鼻、喋る!というか歌うので、コワリョフと鉢合わせしてしまう場面ではちゃんとそれ役のテノール歌手も出てきて、鼻のくせに(…)変幻自在のやりたい放題っぷりが笑えます。

 鼻の逃走劇と持ち主のコワリョフはじめ、それに関わる羽目になった人たちがあちこちで繰り広げるドタバタをユーモラスながら分かりやすくステージ上で見せる手腕はみごとでした。背景スクリーンに影絵アニメとあわせて字幕や実写の映像がたびたび流されるのも、時にはちょっとくどく感じましたが状況説明も兼ねていて助かるし、都会の(あるいはむしろ、作曲当時のスターリン体制下ソ連のというべきでしょうか)息苦しさをよく出しています。
 
 ビジュアルイメージのベースになっているのは、ケントリッジがペテルブルクまで取材に行ったとき入手したという古い百科事典や新聞が素材のコラージュ。
 コラージュというのは聖歌にジャズ調、ロマンチックな母娘の重唱あり前衛音楽風ありと、雑多な様式がごた混ぜになったこのオペラ自体のスタイルとも重なるようでうまいなーと思いました。このプロダクションは先にケントリッジの起用のほうが決まっていて、その後演出したいオペラとして選んだのが「鼻」だったとも言ってましたが、確かに作品と演出家めいめいの個性がぴったりはまった好例でしょう。

 ただ「魔笛」もそうなんですが、ケントリッジの舞台は映像だと魅力が伝わりづらいというか、実際の劇場ならもっとずっと楽しいだろうな…と思う部分もなきにしもあらず。特に映像で多くを語るような場面は、それをまた映像越しに見るのがどうしても味気なく感じてしまうというのか。日本にもファンは多いようですし、どこかの団体で上演企画でもしてくれないでしょうか。

 ↓同じ演出のリヨン歌劇場での上演映像がダイジェスト版であがってました。主役のコワリョフはメトのパウロ・ショットとだいぶ違ったタイプですが(笑)、NYでも揃って好演した警部や床屋夫婦やお医者さんは同じキャスト陣です。あと大野和士さんの指揮が聴けるのも貴重かもしれません。

http://www.youtube.com/watch?v=PVdIrhVmCYI

 ショットのコワリョフ、ぜんぜんコメディ風味でない大真面目な演唱だったのがかえって効果的でした。なかなかの風采で紳士風なのも、かっこつけたがりな原作のイメージどおりで良かったですし。
 
 しかし今回は演出が売りのプロダクションとあってか、休憩なし上演で時間が取れないとはいえ、歌手と指揮のスメルコフ以下演奏家のインタビューなしだったのは寂しかったです。プログラムに載っていた役名もコワリョフと「鼻」と警部の三人(いや実質二人?)だけでしたしねー。

忘れないようにキャスト一覧(OperaNews誌サイトからの転載です)

THE CAST
Kovalyov  baritone, PAULO SZOT
Yakovlevich/Khosrev-Mirza bass, VLADIMIR OGNOVENKO
Praskovya Osipovna/Pretzel Vendor soprano, CLAUDIA WAITE
Police Inspector tenor, ANDREY POPOV
Ivan, Kovalyov's Servant tenor, SERGEI SKOROKHODOV
The Nose tenor, ALEXANDER LEWIS
Newspaper Clerk bass-baritone, JAMES COURTNEY
Traveler actor, STASS KLASSEN
Escorting Lady actor, TATYANA ZBIROVSKAYA
Escorting Gentleman actor, VADIM KROL
Mother soprano, MARIA GAVRILOVA
Matron mezzo,THEODORA HANSLOWE
Doctor/Cabby bass, GENNADY BEZZUBENKOV
Yaryzhkin tenor, ADAM KLEIN
Mme. Podtochina mezzo, BARBARA DEVER
Mme. Podtochina's Daughter soprano, YING FANG
Respectable Lady mezzo, KATHRYN DAY
Female Voice soprano, ANNE NONNEMACHER
Ensemble basses BRIAN KONTES,
KEVIN BURDETTE, MATT BOEHLER,
JOSEPH BARRON, GRIGORY
SOLOVIOV, PHILIP COKORINOS,
KEVIN GLAVIN, CHRISTOPHER JOB,
RICARDO LUGO; tenors SERGEI
SKOROKHODOV, MICHAEL MYERS,
BRIAN FRUTIGER, TONY STEVENSON,
JEFFREY BEHRENS, MICHAEL FOREST,
TODD WILANDER

Conducted by PAVEL SMELKOV
Production: William Kentridge
Stage directors: William Kentridge,Luc De Wit
Set designers: William Kentridge,
Sabine Theunissen
Costume designer: Greta Goiris
Lighting designer: Urs Schönebaum
Chorus master: Donald Palumbo

テーマ:オペラ
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

2013.11.17 23:56|
 久しぶりによく晴れた先週の木曜、猫たちは仲良く日向ぼっこしておりました(この椅子と座布団、親がわざわざそれ用に並べて出してやったらしいです)
131114_1052~01

しかしだんだん雲行きが怪しくなってきて…
131114_1100~01

ついにケンカ勃発!!! 
131114_1101~02
131114_1104~03
131114_1104~04
↑ベーっ!とやってるのは興奮したときのクセ

黒白「飽きたからまた寝るか」 いっぽう最初の体勢からろくに動いてない茶白がなんか笑えます…。
131114_1107~04

 写真だけ見ると茶白が防戦一方のようですが、実際にはなかなか的確なパンチを繰り出しており五分五分といったところです。
 朝から晩までだいたいこの調子で、一緒に何かしてる→どっちかがちょっかい出して小競り合い→面倒くさくなって寝る…の繰り返し。でもどれだけ派手にやっても血が出るような怪我は一度もないので、お互いそれなりの手加減してはいるみたいですけどね。

131115_2110~01
基本は仲いいんですよ

 

テーマ:猫のいる生活
ジャンル:ペット

2013.11.11 22:19|怪奇幻想文学いろいろ
 気づけば半月も更新をさぼっている内、三月に出た短篇小説日和の姉妹編、その名も「怪奇小説日和」が発売になっていました。

怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)
(2013/11/06)
西崎 憲

商品詳細を見る


 「短篇小説日和」同様、国書刊行会から出ていた三巻のアンソロジーからの抜粋に新しく数本を追加した構成です。「短篇小説日和」もそれなりに怪奇幻想めいた内容ではありましたが(実際にエイクマン、マージョリー・ボウエン等、今回のとかぶっている顔ぶれが五人もいます)こちらは完全に怪談に絞った選び方。
 元になったアンソロ「怪奇小説の世紀」は既読ですが、新録の作品目当てで買ってしまいました。まあ、もともと中途半端に第二巻しか持ってなくて他二冊はその都度図書館から借りてたことですし。

出版社サイトから転載の収録作一覧 

「墓を愛した少年」 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン※
「岩のひきだし」 ヨナス・リー
「フローレンス・フラナリー」 マージョリー・ボウエン
「陽気なる魂」 エリザベス・ボウエン
「マーマレードの酒」 ジョーン・エイケン※
「茶色い手」 アーサー・コナン・ドイル
「七短剣の聖女」 ヴァーノン・リー※
「がらんどうの男」 トマス・バーク
「妖精にさらわれた子供」 J・S・レ・ファニュ
「ボルドー行の乗合馬車」 ハリファックス卿
「遭難」 アン・ブリッジ
「花嫁」 M・P・シール
「喉切り農場」 J・D・ベリズフォード※
「真ん中のひきだし」 H・R・ウェイクフィールド※
「列車」 ロバート・エイクマン
「旅行時計」 W・F・ハーヴィー
「ターンヘルム」 ヒュー・ウォルポール
「失われた船」 W・W・ジェイコブズ
 怪奇小説考  西崎憲
   怪奇小説の黄金時代
   境界の書架
   The Study of Twilight
 あとがき

(↑「怪奇小説の世紀」全三巻に含まれていなかった作品にはこちらで※印をつけてみました。) 

 私としては以前こちらで作品集も紹介させていただいた、ヨナス・リーロバート・エイクマンがしっかり入ってくれたのが嬉しいところです。

 「列車」はこれぞまさしくエイクマンと言いたくなるような、読むたび訳が分からなくなる(でも時々ひらめくこともある?)一篇。 徒歩旅行中の若い女性二人が豪雨を避けて泊まる羽目になったのは、かたわらの線路の他には人の行き来もない土地に建つ一軒家。しかしそこは列車が通るたび、窓から運転手に手を振る老女がいるという曰くつきの館で、その家と住人と列車の関係の謎とは…という物語です。もっとも、読者と視線を共有するキャラであるマーガレットと友人のミミとの関係だけに的を絞ってもなかなか面白く読めますが。
…ちなみに私はこれを読んで以来、同性の友人と二人だけで泊りがけ旅行には絶対行きたくないと思うようになりました。

 ヨナス・リー(よく見るとまぎらわしいことにリーさんが二人、ボウエンさんが二人います。どっちの姓も片方はペンネームのようですが)の海はホジスン作品の遠洋より日常に近いだけに、それが繋がる異界への危険な引力はある意味もっと強烈です。
 本書に収録の「岩のひきだし」でも海が死へと引きずり込む魔力と同時に無限の豊かさをもたたえているのは、舞台となるノルウェーの人々にとってはそこが生活の糧を得る場に他ならなかったからなのでしょう。「ひきだし」の中身がいかにもな金銀財宝でなく、豪華ではあっても衣類や日用品のたぐいが主というのがそれを象徴しているような。

 海、とりわけ幽霊船の話が好きな人間としてはラストのW・W・ジェイコブズ「失われた船」も外せません。ずっと以前に消息を絶った船の乗組員が一人だけ戻ってくるも…という筋には、以前書いたゼラズニイのAnd I Only Am Escaped to Tell Theeとも似通ったものを感じたのですが、こちらは不気味さよりも物悲しい余韻が尾を引く、まったく違った読後感です。

 あと「フローレンス・フラナリー」は今読み直すと完全にラヴクラフト一派を意識したように思えてしまったり。 あるいは女流作家によるクトゥルフとして見たほうが面白いかも?

 結局以前から親しんだ作品の紹介ばかりになってしまいましたが、今回追加された五篇(正確には別のアンソロで訳出済みのものもあり)もそれぞれ個性的で粒揃いの作品でした。
 
 「墓を愛した少年」の詩的な繊細さもいいし、アルハンブラ宮殿を舞台にドン・ファン伝説と眠れる森の美女とアラビアンナイトをいっしょくたに詰め合わせたような「七短剣の聖女」のド派手さも好きです。ヴァーノン・リーという作家は「短篇小説日和」の「聖エウダイモンとオレンジの木」もそうですが、古くから知られた物語を素材にして料理し直すのがうまいですね。
 これが初めての邦訳らしいウェイクフィールドの作品は、怪奇自体はちょっと定番にすぎて拍子抜けながら解説にあるように舞台的なつくりというのか、代表作「ゴースト・ハント」のラジオ中継とも似たせりふの応酬(効果音つき)がメインというのが注目のしどころでしょうか。

おしまいに「マーマレードの酒」。オレンジ系のリキュール大好きな私ですが、これはさすがに…(笑)。

テーマ:本の紹介
ジャンル:学問・文化・芸術

10 | 2013/11 | 12
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

eHolly

Author:eHolly
筆不精にも関わらずメモ帳代わりとして始めてしまったブログ。
小説や音楽の感想・紹介、時には猫や植物のことも。
ツイッター@SnowyHolly16

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

FC2カウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
1256位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
183位
アクセスランキングを見る>>

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR