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2015.07.13 05:43|レシピ
 古めの翻訳小説を読んでいて、特に飲食物関係で実物をイメージしにくい、もしくはなんでこれが外国に?という謎の訳語に出くわした経験のある方は多いと思います。有名どころだと「ドリトル先生航海記」の"あんパン"とか、「ナルニア国物語」の"プリン"とか。
 個人的に最大の謎なのは創元「怪奇小説傑作集」5巻収録の「カリオストロ」という短編に出てくる"ソーメン"でして(なお作者のアレクセイ・ニコラエヴィッチ・トルストイは絵本の「おおきなかぶ」で有名な人だったり)、いまだにロシアに麺類を食べる食文化があるのかすらわからないままでいます(笑)

 同じくずっと不思議だったのがアーサー・ランサムの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズ(岩波書店、神宮輝夫・岩田欣三両氏の共訳)に登場する"種入り菓子"なるもの。時代背景は1930年頃のイギリスで、休暇ごとに自然の中で冒険に明け暮れる子どもたちを主人公にした児童文学の古典ですが、彼らはこの"種入り菓子"をパンや缶詰めなど他の食料品類と一緒にキャンプにまで持参してはしょっちゅう食べてるのです。

 作中の描写をみるに薄切りにされて出てきたりするので、クッキーのような形状ではない様子。確かはじめはカボチャかヒマワリの種あたりが入った菓子パン風のものかと思い、そのあとイースト等の酵母を「パン種」と呼ぶのを知ってからは、きっとふんわり発酵させた生地を焼いて作るやつなんだろうと勝手に結論付けてたような記憶があります。
 …しかし、つい最近になってふと調べてみたところ原語ではSeed Cakeで、キャラウェイやポピーなどハーブ類の種を混ぜたパウンドケーキのことだと分かりました。当たらずとも最初に想像したもののほうに近い、というか文字通り種が入ったお菓子だったわけです。キャラウェイ入りシードケーキは、イギリスでは中世にさかのぼれるほど昔からあった由緒正しい食物なんだとか。

 引用符つきにして"種入り菓子"で検索すると、瀬田貞二氏も「ホビットの冒険」でシードケーキをこう訳しておられるようですが、生憎こちらはもうずっと読んでないうえに持っていたはずの本も行方不明で確かめられず。まあ、だいたいどの場面なのかは思い出せますけどね。
 それにしても瀬田氏、神宮氏という当時を代表する翻訳の大家お二人が、同じ"種入り菓子"という訳語を使っておられるのは、はたして偶然の一致なのか興味をそそられるところです。

 
 そんなわけで、うちにもなかなか減らない瓶入りのキャラウェイ・シードがあったのでシードケーキを作ってみました。特に本場のレシピを参考にしたわけでもなく、基本の分量は私がふだん作っているパウンドケーキのままですけど。
 下の写真のケーキにはポピーとキャラウェイの種を両方使ってます。キャラウェイシードは固いし癖がある風味なので、最初そのまま入れたところ試食した家族からは食べにくいと不評でしたが、少し水に浸して柔らかくしておくとそこまで気にならなくなるようです。もちろんシードはどちらか片方だけで十分ですし(その方がむしろ正統派)、レモンの代わりにキャラウェイ独特の香りとよく合うオレンジでも構いません。

材料(7号/直径21㎝の丸ケーキ型1個ぶん):

バター(有塩) 180g(※室温に戻しておく)
砂糖(上白糖) 180g/計量カップ1・5杯
はちみつ 大さじ1
卵 2個 (※卵白と卵黄に分けておく)
薄力粉 240g/カップ2.4杯
ベーキングパウダー 小さじ2
レモン果汁 大さじ1
すりおろしたレモンの皮 半個分
ポピーシード(黒) 大さじ1.5
キャラウェイシード 大さじ1.5(※半日ほど水に浸しておく)
シナモンパウダー(なくても) 1振り

作り方:
1:柔らかい状態のバターをボールでクリーム状になるまで練り、卵黄、砂糖、はちみつ、レモンの皮と絞り汁を足してさらによく混ぜる。
2:別のボールで卵の白身を角が立つまで泡立てる。1のボールにメレンゲと、あわせて振るった小麦粉とベーキングパウダー、シード2種類を交互に加えさっくり切るように混ぜこんでいく。
3:全体がむらなく混ざりあったら、バター(分量外)を塗り薄く粉を振った型に生地を流し込み、180℃に熱したオーブンで45~50分焼く。竹串などを刺してみて、なにも付いてこなければ焼き上がり。


seedcake.jpg
seed-cake.jpg

 確かに、これなら日持ちするので頑丈な入れ物に入れればキャンプにも持っていけそう。ランサム作品の子どもたち、野外といえどもたいてい午後のお茶は欠かさなかった気がしますが、動き回ったあとのお茶菓子にはぴったりでしょう。
(私にはヘビーすぎるので朝食に食べてます…。)

 アーサー・ランサム全集全十二巻、この数年で新訳の文庫版化が進んでいたのもこれを書いていて初めて知りました。今度の版も同じ神宮氏が担当されるとのことで旧訳好きにも安心して読めそうですが、すでに故人の岩田氏が受け持たれた巻や"種入り菓子"等々の用語がどう変わっているのかはちょっと気になります。 今度書店で見かけたら確認してみなくては。
 
 11巻目「スカラブ号の夏休み」(←Amazonリンク)がこの七月に発売ですから、そろそろ完結も間近ですね。なぜか私はあまり派手な事件の起きないこの巻がシリーズを通して一番気に入っていたものです。

(FCブログのAmazon商品検索、なにか不具合で使えないんでしょうか?何度やっても自分のところの管理画面しか表示されないんですけど)

テーマ:手作りお菓子
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