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10/3 新国立劇場 「ピーター・グライムズ」

2012.10.05 18:01|音楽鑑賞(主にオペラ)
 夏にダラダラしていたつけが回って更新が滞っておりました。などと言いつつ足を運んでしまった新国のオープニングですが ―― 実はこのピーター・グライムズというオペラ、ずーっと長いこと食わず嫌いしてきた作品の筆頭だったのです。
 
 というのも、私はこういう閉鎖的な村社会で集団ヒステリーの末に制裁・・・というテーマの作品がとにかく苦手でして。有名どころの例で言うとセーラムの魔女狩りを扱ったアーサー・ミラーの「るつぼ」(偶然なのか演劇のほうですぐ後にやりますが)とか。なので、以前どこかの図書館でCDを借りてまず対訳を読んでみたら聞く気が失せてしまい、気がついたらとうとう予習ゼロのまま劇場に向かっていました。

 それでも行く気になったのは、海の音楽がとにかく素晴らしいらしい(海洋文学好きですから)というのと、主役がこの所ワーグナー歌いとしても評判のいいスチュアート・スケルトンなのに釣られてしまったからです。
とはいえ台本読んだのも何年も前のことだし、幕開きすぐには話に付いてけなくなったらどうしようと不安になる始末でしたが、今回の演出は最後までほとんど余計な手を加えない直球勝負ですんなりと頭に入ってくるものでした。

 抽象的ながらイギリスの漁村という舞台設定と陰鬱な曲調によく合ったセットで、荒れ模様の空と海を思わせるホリゾント、それにモノトーンの世界で時おりポイントに使われる赤が効果的。間奏曲はホリゾントと同じような意匠の幕を下ろしたままで奏されて、変に演出過剰でないのも好感が持てます。
 振り付けは個人よりは主人公のグライムズを追い詰める群集の圧迫感に焦点を当てた感じだったけれど、彼が死に追いやられたあとの、ラストシーンでの船長とエレンの立場や心情の違いの細かな描写がなぜか一番心に焼きつくものでした。

 ただ、群集心理の表現なのでしょうが、(同じデッカーの「椿姫」のコーラスなんかもちょっと似た感じだし、この演出家のカラーなのかもしれません)村人たちの動きがあまりに画一的で、「個」が存在しない集団にすぎるような。判事や牧師、医者兼薬屋といった役どころはもう少し服装などで区別できたほうが分かりやすいし、嵐の中人々が酒場に入ってくるところなんてあんなに判で押したような動きにしなくてもいいと思うんですけどね。

 スケルトンはじめグリットン(エレン)、サマーズ(船長)、ウィン=ロジャース(アーンティ)という外人の主要キャスト勢は世界中でこのオペラを歌っているだけあって、どの役のイメージもこの人で固定されてしまいそうなぐらいはまってました。日本の助演陣、それにいつもながら合唱も立派でしたし。
 
 しかしグライムズって、幸せな家庭を夢見るそばから徒弟の子供を虐待したりとか、そもそも何故あんなに漁で財産を築く事だけにこだわるのか(ちゃんと暮らしたいなら、それこそ船長の言うように他の道もあるのに)とか、主人公ながらどうにも理解に苦しむキャラクターだと感じずにはいられません。それでもスケルトンはあえて「わかりやすく」、やたらと観客の共感を誘ったり、反対に粗暴さを強調するような一面的な人物にせず、いろいろな側面を持つ不可解なままの役作りにしたのはさすがだと思います。声自体もヘルデン・テノールにしては無骨すぎなくて、むしろ繊細な表現のほうが光っていたのにも感心。

 これが初聴きですからリチャード・アームストロングの指揮、それにオケの技術的なことについてはどうこう言えませんが、音楽もこれまで避けてきたのがつくづくもったいなかったと後悔です。生で聞く響きは、舞台の雰囲気とも相まって暗い海の厳しさとそこに射す光のような美しさをたたえていました。
 確かに気の重くなるような内容ではあったものの、ここ数シーズンの新国では歌、オケ、演出と三拍子揃って一番満足度の高かった上演かもしれません。


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 ついでながらなぜかうちには昔買ったこんなDVDがあります(録音が極端に少ないスケルトン唯一の主演?映像)。マーリンはもちろんあのマーリンのこと。スケルトンはアーサー王役なんですが、ギネヴィアとランスロットがダンサーなのでちょっとビジュアル的に損してるような・・・。でも最後の踊りの場面とか、なんだか癖になる魅力がある曲でけっこうお勧めです。

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テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

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