短篇小説日和:英国異色傑作選 (エイクマンの「花よりもはかなく」)
2013.03.12 02:49|怪奇幻想文学いろいろ|
前々回の記事でロバート・エイクマンの本を紹介したばかりですが、偶然にもほぼ同じタイミングで未読だったエイクマン作品「花よりもはかなく」を収録した短編小説集が発売されていました。
もともと「英国短篇小説の愉しみ」として単行本形式で出された全三巻から抜粋(三篇を新たに追加)・再編して文庫版にしたもので、最後には編訳者の西崎憲氏によるエッセイ「英国短篇小説論考」も加えられています。
ディケンズやグレアム・グリーン、マンスフィールドなど有名どころからほぼ忘れ去られてしまったようなマイナー系まで実に変化に富んだ顔ぶれの作家陣で、作品にも特に共通したテーマ的なものはなくスタイルもテイストも実にさまざま。全体としてみればいくぶんリアリティよりは非現実に寄っているとはいえるかもしれませんが。
さてお目当ての「花よりもはかなく」。まぎれもなく「怖い話」ながら、超自然的な要素が介在するという意味での「怪談」かどうかは読み方しだいでどちらにも解釈できそうです。
一言でいうと容姿にコンプレックスのある奥さんと、気にしないといいつつ内心気にしている夫の話。妻は夫の意にかなおうと女性らしい美の追求を始めるも、それは次第に常軌を逸していき…という、なんだか今の日本に設定を置き換えても(整形依存とか買い物中毒とか、、、
)ぜんぜん違和感なく通ってしまいそうな筋なのでした。
エイクマンの作品に登場する女性たちには時折妙な生々しさがあるというようなことを前の記事でも書きましたが、これなんてまさにその極みかもしれません。そういう部分と題材の身近さ (さすがにリアル知り合いにはいませんけど!) がどうしてもふつうの「怪談」として読むのを妨げてしまう一方で、同時に一番ぞっとさせられたところでもありました。
ちなみに原題のNo Stronger Than a Flower は、調べてみると「美の為せるは花よりもはかなく…」というシェークスピアのソネット65番の一節とのこと。
参考に他の収録作品は以下のとおりです↓
1 後に残してきた少女(ミュリエル・スパーク)/ミセス・ヴォードレーの旅行(マーティン・アームストロング)/羊歯(W・F・ハーヴィー)/パール・ボタンはどんなふうにさらわれたか(キャサリン・マンスフィールド)/決して(H・E・ベイツ)/八人の見えない日本人(グレアム・グリーン)/豚の島の女王(ジェラルド・カーシュ))/2 看板描きと水晶の魚(マージョリー・ボウエン)/ピム氏と聖なるパン(T.F.ポウイス)/羊飼いとその恋人(エリザベス・グージ)/聖エウダイモンとオレンジの樹(ヴァーノン・リー)/小さな吹雪の国の冒険(F・アンスティー)/コティヨン(L・P・ハートリー))/3 告知(ニュージェント・バーカー)/写真(ナイジェル・ニール)/殺人大将(チャールズ・ディケンズ)/花よりもはかなく(ロバート・エイクマン)/河の音(ジーン・リース)/輝く草地(アンナ・カヴァン))/短篇小説論考(英国短篇小説小史/ファンタジーとリアリティー/短篇小説とは何か?-定義をめぐって)
収録順は逆ですが、エイクマンの後味の悪さはほのぼのペーソス系の「羊飼いとその恋人」とか、怪奇譚で有名なヴィーナス像と指輪の話を美しい人間讃歌に変えてしまった「聖エウダイモンとオレンジの樹」あたりで口直ししましょう。
(※追記) …この記事を書いたとたん去年アメリカに注文したエイクマンの作品集二冊が相次いで届くとは
。最近じっくり原書を読みこむ時間がなかなか取れないんですが、これはと思えるような一篇に出会えたらぜひ紹介したいと思います。
![]() | 短篇小説日和: 英国異色傑作選 (ちくま文庫) (2013/03/06) 西崎 憲 商品詳細を見る |
もともと「英国短篇小説の愉しみ」として単行本形式で出された全三巻から抜粋(三篇を新たに追加)・再編して文庫版にしたもので、最後には編訳者の西崎憲氏によるエッセイ「英国短篇小説論考」も加えられています。
ディケンズやグレアム・グリーン、マンスフィールドなど有名どころからほぼ忘れ去られてしまったようなマイナー系まで実に変化に富んだ顔ぶれの作家陣で、作品にも特に共通したテーマ的なものはなくスタイルもテイストも実にさまざま。全体としてみればいくぶんリアリティよりは非現実に寄っているとはいえるかもしれませんが。
さてお目当ての「花よりもはかなく」。まぎれもなく「怖い話」ながら、超自然的な要素が介在するという意味での「怪談」かどうかは読み方しだいでどちらにも解釈できそうです。
一言でいうと容姿にコンプレックスのある奥さんと、気にしないといいつつ内心気にしている夫の話。妻は夫の意にかなおうと女性らしい美の追求を始めるも、それは次第に常軌を逸していき…という、なんだか今の日本に設定を置き換えても(整形依存とか買い物中毒とか、、、

エイクマンの作品に登場する女性たちには時折妙な生々しさがあるというようなことを前の記事でも書きましたが、これなんてまさにその極みかもしれません。そういう部分と題材の身近さ (さすがにリアル知り合いにはいませんけど!) がどうしてもふつうの「怪談」として読むのを妨げてしまう一方で、同時に一番ぞっとさせられたところでもありました。
ちなみに原題のNo Stronger Than a Flower は、調べてみると「美の為せるは花よりもはかなく…」というシェークスピアのソネット65番の一節とのこと。
参考に他の収録作品は以下のとおりです↓
1 後に残してきた少女(ミュリエル・スパーク)/ミセス・ヴォードレーの旅行(マーティン・アームストロング)/羊歯(W・F・ハーヴィー)/パール・ボタンはどんなふうにさらわれたか(キャサリン・マンスフィールド)/決して(H・E・ベイツ)/八人の見えない日本人(グレアム・グリーン)/豚の島の女王(ジェラルド・カーシュ))/2 看板描きと水晶の魚(マージョリー・ボウエン)/ピム氏と聖なるパン(T.F.ポウイス)/羊飼いとその恋人(エリザベス・グージ)/聖エウダイモンとオレンジの樹(ヴァーノン・リー)/小さな吹雪の国の冒険(F・アンスティー)/コティヨン(L・P・ハートリー))/3 告知(ニュージェント・バーカー)/写真(ナイジェル・ニール)/殺人大将(チャールズ・ディケンズ)/花よりもはかなく(ロバート・エイクマン)/河の音(ジーン・リース)/輝く草地(アンナ・カヴァン))/短篇小説論考(英国短篇小説小史/ファンタジーとリアリティー/短篇小説とは何か?-定義をめぐって)
収録順は逆ですが、エイクマンの後味の悪さはほのぼのペーソス系の「羊飼いとその恋人」とか、怪奇譚で有名なヴィーナス像と指輪の話を美しい人間讃歌に変えてしまった「聖エウダイモンとオレンジの樹」あたりで口直ししましょう。
(※追記) …この記事を書いたとたん去年アメリカに注文したエイクマンの作品集二冊が相次いで届くとは

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