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短篇小説日和:英国異色傑作選 (エイクマンの「花よりもはかなく」)

2013.03.12 02:49|怪奇幻想文学いろいろ
 前々回の記事でロバート・エイクマンの本を紹介したばかりですが、偶然にもほぼ同じタイミングで未読だったエイクマン作品「花よりもはかなく」を収録した短編小説集が発売されていました。

短篇小説日和: 英国異色傑作選 (ちくま文庫)短篇小説日和: 英国異色傑作選 (ちくま文庫)
(2013/03/06)
西崎 憲

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 もともと「英国短篇小説の愉しみ」として単行本形式で出された全三巻から抜粋(三篇を新たに追加)・再編して文庫版にしたもので、最後には編訳者の西崎憲氏によるエッセイ「英国短篇小説論考」も加えられています。
 ディケンズやグレアム・グリーン、マンスフィールドなど有名どころからほぼ忘れ去られてしまったようなマイナー系まで実に変化に富んだ顔ぶれの作家陣で、作品にも特に共通したテーマ的なものはなくスタイルもテイストも実にさまざま。全体としてみればいくぶんリアリティよりは非現実に寄っているとはいえるかもしれませんが。
 
 さてお目当ての「花よりもはかなく」。まぎれもなく「怖い話」ながら、超自然的な要素が介在するという意味での「怪談」かどうかは読み方しだいでどちらにも解釈できそうです。
 
 一言でいうと容姿にコンプレックスのある奥さんと、気にしないといいつつ内心気にしている夫の話。妻は夫の意にかなおうと女性らしい美の追求を始めるも、それは次第に常軌を逸していき…という、なんだか今の日本に設定を置き換えても(整形依存とか買い物中毒とか、、、)ぜんぜん違和感なく通ってしまいそうな筋なのでした。
 エイクマンの作品に登場する女性たちには時折妙な生々しさがあるというようなことを前の記事でも書きましたが、これなんてまさにその極みかもしれません。そういう部分と題材の身近さ (さすがにリアル知り合いにはいませんけど!) がどうしてもふつうの「怪談」として読むのを妨げてしまう一方で、同時に一番ぞっとさせられたところでもありました。
 
 ちなみに原題のNo Stronger Than a Flower は、調べてみると「美の為せるは花よりもはかなく…」というシェークスピアのソネット65番の一節とのこと。 

参考に他の収録作品は以下のとおりです↓

1 後に残してきた少女(ミュリエル・スパーク)/ミセス・ヴォードレーの旅行(マーティン・アームストロング)/羊歯(W・F・ハーヴィー)/パール・ボタンはどんなふうにさらわれたか(キャサリン・マンスフィールド)/決して(H・E・ベイツ)/八人の見えない日本人(グレアム・グリーン)/豚の島の女王(ジェラルド・カーシュ))/2 看板描きと水晶の魚(マージョリー・ボウエン)/ピム氏と聖なるパン(T.F.ポウイス)/羊飼いとその恋人(エリザベス・グージ)/聖エウダイモンとオレンジの樹(ヴァーノン・リー)/小さな吹雪の国の冒険(F・アンスティー)/コティヨン(L・P・ハートリー))/3 告知(ニュージェント・バーカー)/写真(ナイジェル・ニール)/殺人大将(チャールズ・ディケンズ)/花よりもはかなく(ロバート・エイクマン)/河の音(ジーン・リース)/輝く草地(アンナ・カヴァン))/短篇小説論考(英国短篇小説小史/ファンタジーとリアリティー/短篇小説とは何か?-定義をめぐって)

 収録順は逆ですが、エイクマンの後味の悪さはほのぼのペーソス系の「羊飼いとその恋人」とか、怪奇譚で有名なヴィーナス像と指輪の話を美しい人間讃歌に変えてしまった「聖エウダイモンとオレンジの樹」あたりで口直ししましょう。

(※追記) …この記事を書いたとたん去年アメリカに注文したエイクマンの作品集二冊が相次いで届くとは。最近じっくり原書を読みこむ時間がなかなか取れないんですが、これはと思えるような一篇に出会えたらぜひ紹介したいと思います。

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テーマ:本の紹介
ジャンル:学問・文化・芸術

コメント

ロバート・エイクマン

初めまして。ロバート・エイクマン作品をネットで検索して
こちらのブログ様に辿り着きました。国書刊行会の「怪奇小説
の世紀」を読んだ時にエイクマンの「列車」が心に残り、作品を探すようになりました。ちくま文庫の「花よりもはかなく」も
忘れられない話です。男性作家なのに女性作家の「いやミス」も
かくやという生々しさと後味の悪さを感じさせるのは凄い。
原書を読まれるなんて尊敬します。「奥の部屋」のあとがきに
原書が四冊ばかり載っていましたね。

Re: ロバート・エイクマン

yoyoshi様、はじめまして。コメントありがとうございます。

エイクマン好きな方が他にもいらしたのはうれしい限りです。こちらのブログにはあまり参考になるようなことはないかもしれませんが…。

>女性作家の「いやミス」も かくやという生々しさと後味の悪さ

これがホラー、ファンタジーの想像力と違和感なく結びついているのがエイクマンの面白さかなと個人的には思っております。怪奇幻想系が得意の女性作家は少なくないですが、そういった人たちはどちらかというとこうした成分控えめの作品を書く印象なのと逆ですね。

イギリス文学万歳!

エイクマンの他にも好きな作家さんばかりでちくま文庫には足を向けて眠れません。スパークはバン!バン!はい死んだという凄い題の編集が出たばかりですが
とても面白いです。マージョリー・ボウエンも忘れられません。マンスフィールドも大好きです。この方の作品は美味しそうな食事風景が沢山描かれるので、食い意地のはった自分はワクワクします。
新潮文庫の短編集の「若い娘」に出てくる
お菓子や飲み物が美味しそうで食べたくて!「園遊会」のサンドイッチやシュガーパフも!取り留めなくてすみません。

Re: イギリス文学万歳!

マンスフィールドの作品には確かに凝ったお菓子がたくさん出てきますね! 本人もかなりの甘党だったのでしょうか。
私も「若い娘」のオレンジジンジャーアイスとブリル嬢がいつも買う"蜂蜜ケーキ"がいつか食べてみたくて。肝心の内容よりそんなことばっかり記憶に残ってますe-330

「パフ」は最初註釈なしの訳で読んだのでどんなものかよく分からなかったのですが、シュークリームなんですね。
最近はよく子供時代に読んだ翻訳文学に出てくる食べ物をネットで画像検索して、想像していたイメージと比べて楽しんでます。
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