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バイロイト2013 「さまよえるオランダ人」

2013.08.29 05:32|音楽鑑賞(主にオペラ)
全幕見終えたら正直オブジェより幽霊船員よりゼンタが怖かった((( )))

130827_1502~01
魔像オランダ人のオブジェを抱えるゼンタ。 
 
 上のグロテスクなオブジェ=台本に出てくるオランダ人の絵。本来肖像画に思いを寄せる設定のゼンタは、ここでは工作用のナイフを手にその仕上げに余念がありません。
 しかしこのリカルダ・メルベト演じるゼンタ、だんだんそのナイフで魔像に生贄を捧げんとする邪教の巫女か何かに見えてきてしまった(汗) この演出でのキャラ付けが怖いのかメルベトが怖いのか、こんな狂気じみて不気味なゼンタは初めてだと思ったぐらいです。

 もちろんこのオペラ自体は気味悪くていいんですよ。ただ肝心のオランダ人がそこらの商店街にいそうな普通の人っぽい雰囲気なのに、ゼンタの異様さだけが一人歩きしているのはちょっと…ネタ的には面白いけど。
 
 演出全体のコンセプトはオリジナルとそうかけ離れていない印象で、世界中を渡り歩くビジネスマンのオランダ人が工場の社長ダーラント(フランツ・ヨーゼフ・ゼーリッヒ、ぴったり)家に婿入りして腰を落ち着けたいという話になっているようですが、軸をゼンタの方に移すような読み替えがあるわけでもないからなおさらちぐはぐに感じてしまいました。
 そもそもこの筋書きで皆が怖がるオランダ人の物語に相当するのって何なんでしょう。仕事人間すぎると顔中アザだらけになるとかいう都市伝説かな(違)
 
 そういった方面には目をつぶるにしても、ヤン・フィリップ・グローガーの演出はオランダ人のモノローグ時のような場違いな動きの悪目立ちが多くて全体にどうもぱっとしません。
 ただ以前書いたとおり、二年目の今年はゼンタのビジュアルイメージが去年とおそろしく違っているわけで(リンク先の記事参照)、一体なんであんなあさっての方向に変わったのかは興味をひかれるところです(笑)

  ティーレマンの音楽作りは一貫してパワフルで、いい意味での荒々しさが効いていたと思います。ただオランダ人とゼンタの二重唱の前半などはもう少し静かななかに凝縮した叙情性を引き出してほしかったですが…。もっともあの場面はオランダ人役のサミュエル・ユンよりメルベトの声のほうが前に出すぎて、アンバランスに感じたのがそう感じた一因かも。
 
 それ以外のところではメルベトは歌でも演技に負けない強烈っぷりだったし(さっきから怖いの不気味だのと失礼ですが、前見たタンホイザーのエリーザベトは大変聖女らしく素晴らしかったので、別にあれが素ではないと思います!)、ユンも声だけ聞いている分にはそれなりに凄みと貫禄のある幽霊船長で、どちらも良かったと思うんですけどね。

 ゼンタの乳母マリー(クリスタ・マイヤー)など他の登場人物たちは、みんなダーラントが経営する扇風機メーカーの社員という設定。冴えない雑用係らしきエリックはこの役を新国立劇場でも歌っていたトミスラフ・ムツェクで、これは今回のほうが存在感ありました。ベンジャミン・ブルーンスの舵取り(社長と車代わりのボートで外回り…)がオランダ人とは対極の、ノリの軽いビジネスマンキャラでやたら目立っていたのが面白かったです。

 ところで先日、テーマに惹かれてこんな本を注文してみました。

The Ghost Ship: Stories of the Phantom "Flying Dutchman"(←Amazonリンク)

 ワーグナーが直接のソースにしたハイネ「フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想」抜粋版、やはりオペラに影響を与えたとされるハウフ「幽霊船」等の古典から現代作家のものまで、「さまよえるオランダ人」をはじめ幽霊船伝説にまつわる作品を並べたアンソロジー。

 いつもこのブログで取り上げているホジスンの作品が含まれているのが縁で見つけたのですが、ほとんど聞いたことのない作家が大半です。知っている名前は上記以外だとジョゼフ・コンラッド、あと意外なことにSF系で有名なロジャー・ゼラズニイぐらいでした。
↓収録作一覧は下記リンクで見られます。 

http://www.isfdb.org/cgi-bin/pl.cgi?310036

(この手のアンソロってたいていは玉石混合ですけど、一つか二つ好みに合った作品があれば満足することにしてます。でもホジスンの収録作が「幽霊狩人カーナッキ」シリーズのThe Haunted Jarvee(日本版タイトル「魔海の恐怖」)というのはちょっと微妙なチョイスに思える…。)

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テーマ:クラシック
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

コメント

おぉ、ありがとうございます!

現代に舞台を変えた「さまよえるオランダ人」ってのも意外だったのですが扇風機売ってるんですか(汗)
私の知らないオペラの一面をいつもご紹介いただきありがとうございます^^

昨日ご紹介下さった"The Ghost Ship: Stories of the Phantom "Flying Dutchman"に収録されているらしいゼラズニイ作品を調べてみたのですが…
上手く検索できなかったのでした><
本日再チャレンジしようとこちらをもう一度のぞいて見たらリンクが!
…昨日気付かなかっただけでしょうか(汗)ありがとうございます。

"And I Only Am Escaped to Tell Thee"という作品らしいですが、どうやら未訳のようで私は読んでないですね・・・
いろいろ検索を試みていたら原文らしきテキストに行き当たりました(汗)
いいのか??
まだ読んでませんが、ごく短い作品のようですね…
最近色々と不調なので余裕が出来たら読んでみたいな、とは思ってますが、どうなることやら…^^
最近あまり英語読まないので(オンラインゲームをやめたせいだと思ってるんですが)ただでさえ貧しい英語力がますます乏しくなってます><
なにはともあれご紹介、ありがとうございました~。

Re: おぉ、ありがとうございます!

あ~、リンクの仕方分かりづらくてすみません、、、あとで修正しておきますe-466

"And I Only Am Escaped to Tell Thee"はたしかに短編としても短めな感じですね。実はゼラズニイの短編はSFホラー集の「影が行く」に入っている「吸血機伝説」(これはとても印象に残ってます)しか読んだことなかったもので、リンク先のデータで調べたらすごい数があってびっくりしました。

幽霊船のモチーフというのはSFとも相性抜群だと思ってるのですが、ゼラズニイの手にかかるとどんなアレンジになるのか楽しみです。
いつになるか分かりませんけど、なんとか頑張って訳してあらすじだけでも紹介したいところです(期待しないでくださいねe-443

>扇風機
台本にある糸紡ぎ車同様「ぶんぶん回る」のと、風を起こす道具ということで航海と関係づけての連想らしいです。こっちの現代風アレンジは微妙でしたが(笑)

まだまだ残暑がきついことですしお大事に…。私もこの夏はなんだかずっとボーっと過ごしてしまいました。うちの猫たちなんてたぶん一日二十時間以上は寝てますよe-441 うらやましい~~。

扇風機、なるほど!

扇風機にはそういう意味が…
納得!…とはなかなかいかないですね(笑)

"And I Only Am Escaped to Tell Thee"
私も少し暇が出来たら読んでみようとは思ってますが、eHollyさんの紹介文も楽しみにしております^^

うちのブログにも書きましたがFBを始めてしまって、なんだか忙しく?なってしまいました><
一日何件も書き込みしている人とかいて、どうやって時間作ってるんだ?と思わなくもなかったり(汗)
それにあわせて書き込みなどできないので最低一日一件くらいは書き込みしようとは思ってるんですが、それさえ難しいです。
SNSは鬼門だ^^
仕事の一環なのでやむを得ないのですが…うぅ。

ここ一週間ばかり雨降りが続いてまして、こちらは随分涼しくなりました。
今朝は窓を開けていたら寒かったぐらいで。
水害があったところもあるそうですが…

eHollyさんとこの近辺は連日30℃超えみたいですね><
お体お気を付け下さい。
うちも猫はのんきに過ごしているようでうらやましいですよ(笑)
「メシ」「ネル」「チョットデテクル」みたいな感じですね~。

Re: 扇風機、なるほど!

こちらはいつまでも暑くって、雨がちょっと降っても湿度の分かえって蒸し蒸しします…クーラーは冷えすぎて苦手なので、それこそ扇風機でも欲しいくらいですe-449

>チョットデテクル
うちはこれがなくて最初の二つだけですから。夜中に起こされることないのはいいんですけど、昼も夜もよくあんなに寝られるもんだと思わずにいられません(特に黒白)

お仕事関係でのFBは大変でしょうね~。私も閲覧用にアカウントだけは作ってますけど、ブログと両立はまず無理そうですe-330 しかしどういう経路でわかるのか、ときどきそっち経由で昔の同級生からメールが来てぎょっとしたり…

ゼラズニイ作品、私は片手で数えられるくらいの数しか読んでないから完全に理解できるかな…。マッドハッターさんのお宅での各作の紹介も読み返して参考にさせていただこうと思ってます。

幽霊船とオランダ人初稿CD

どこにコメントしたら適当なのかわかりませんでしたので、こちらで。
5月に録音されたミンコフスキ&MDLGのオランダ人初稿ダブルビル、発売されます。
http://www.naive.fr/en/work/wagner-dietsch

バイロイトのオランダ人は…舵取りさん、おもしろかったですね。

Re: 幽霊船とオランダ人初稿CD

早速のお知らせどうもありがとうございます!

LMdLのサイトとamazon.comしかチェックしていなかったもので気がついていませんでした。galahadさんの記事を参考にさっそくukアマゾンで予約してきたところです。届いたおりにはうちでも感想を。

舵取りはなかなか美味しい役どころですよね。音だけですがミンコフスキ盤のリヒター(あとマグナス役の方も)早く聴いてみたいものです。

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