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怪談アンソロジー 怪奇小説日和:黄金時代傑作選

2013.11.11 22:19|怪奇幻想文学いろいろ
 気づけば半月も更新をさぼっている内、三月に出た短篇小説日和の姉妹編、その名も「怪奇小説日和」が発売になっていました。

怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)
(2013/11/06)
西崎 憲

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 「短篇小説日和」同様、国書刊行会から出ていた三巻のアンソロジーからの抜粋に新しく数本を追加した構成です。「短篇小説日和」もそれなりに怪奇幻想めいた内容ではありましたが(実際にエイクマン、マージョリー・ボウエン等、今回のとかぶっている顔ぶれが五人もいます)こちらは完全に怪談に絞った選び方。
 元になったアンソロ「怪奇小説の世紀」は既読ですが、新録の作品目当てで買ってしまいました。まあ、もともと中途半端に第二巻しか持ってなくて他二冊はその都度図書館から借りてたことですし。

出版社サイトから転載の収録作一覧 

「墓を愛した少年」 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン※
「岩のひきだし」 ヨナス・リー
「フローレンス・フラナリー」 マージョリー・ボウエン
「陽気なる魂」 エリザベス・ボウエン
「マーマレードの酒」 ジョーン・エイケン※
「茶色い手」 アーサー・コナン・ドイル
「七短剣の聖女」 ヴァーノン・リー※
「がらんどうの男」 トマス・バーク
「妖精にさらわれた子供」 J・S・レ・ファニュ
「ボルドー行の乗合馬車」 ハリファックス卿
「遭難」 アン・ブリッジ
「花嫁」 M・P・シール
「喉切り農場」 J・D・ベリズフォード※
「真ん中のひきだし」 H・R・ウェイクフィールド※
「列車」 ロバート・エイクマン
「旅行時計」 W・F・ハーヴィー
「ターンヘルム」 ヒュー・ウォルポール
「失われた船」 W・W・ジェイコブズ
 怪奇小説考  西崎憲
   怪奇小説の黄金時代
   境界の書架
   The Study of Twilight
 あとがき

(↑「怪奇小説の世紀」全三巻に含まれていなかった作品にはこちらで※印をつけてみました。) 

 私としては以前こちらで作品集も紹介させていただいた、ヨナス・リーロバート・エイクマンがしっかり入ってくれたのが嬉しいところです。

 「列車」はこれぞまさしくエイクマンと言いたくなるような、読むたび訳が分からなくなる(でも時々ひらめくこともある?)一篇。 徒歩旅行中の若い女性二人が豪雨を避けて泊まる羽目になったのは、かたわらの線路の他には人の行き来もない土地に建つ一軒家。しかしそこは列車が通るたび、窓から運転手に手を振る老女がいるという曰くつきの館で、その家と住人と列車の関係の謎とは…という物語です。もっとも、読者と視線を共有するキャラであるマーガレットと友人のミミとの関係だけに的を絞ってもなかなか面白く読めますが。
…ちなみに私はこれを読んで以来、同性の友人と二人だけで泊りがけ旅行には絶対行きたくないと思うようになりました。

 ヨナス・リー(よく見るとまぎらわしいことにリーさんが二人、ボウエンさんが二人います。どっちの姓も片方はペンネームのようですが)の海はホジスン作品の遠洋より日常に近いだけに、それが繋がる異界への危険な引力はある意味もっと強烈です。
 本書に収録の「岩のひきだし」でも海が死へと引きずり込む魔力と同時に無限の豊かさをもたたえているのは、舞台となるノルウェーの人々にとってはそこが生活の糧を得る場に他ならなかったからなのでしょう。「ひきだし」の中身がいかにもな金銀財宝でなく、豪華ではあっても衣類や日用品のたぐいが主というのがそれを象徴しているような。

 海、とりわけ幽霊船の話が好きな人間としてはラストのW・W・ジェイコブズ「失われた船」も外せません。ずっと以前に消息を絶った船の乗組員が一人だけ戻ってくるも…という筋には、以前書いたゼラズニイのAnd I Only Am Escaped to Tell Theeとも似通ったものを感じたのですが、こちらは不気味さよりも物悲しい余韻が尾を引く、まったく違った読後感です。

 あと「フローレンス・フラナリー」は今読み直すと完全にラヴクラフト一派を意識したように思えてしまったり。 あるいは女流作家によるクトゥルフとして見たほうが面白いかも?

 結局以前から親しんだ作品の紹介ばかりになってしまいましたが、今回追加された五篇(正確には別のアンソロで訳出済みのものもあり)もそれぞれ個性的で粒揃いの作品でした。
 
 「墓を愛した少年」の詩的な繊細さもいいし、アルハンブラ宮殿を舞台にドン・ファン伝説と眠れる森の美女とアラビアンナイトをいっしょくたに詰め合わせたような「七短剣の聖女」のド派手さも好きです。ヴァーノン・リーという作家は「短篇小説日和」の「聖エウダイモンとオレンジの木」もそうですが、古くから知られた物語を素材にして料理し直すのがうまいですね。
 これが初めての邦訳らしいウェイクフィールドの作品は、怪奇自体はちょっと定番にすぎて拍子抜けながら解説にあるように舞台的なつくりというのか、代表作「ゴースト・ハント」のラジオ中継とも似たせりふの応酬(効果音つき)がメインというのが注目のしどころでしょうか。

おしまいに「マーマレードの酒」。オレンジ系のリキュール大好きな私ですが、これはさすがに…(笑)。
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テーマ:本の紹介
ジャンル:学問・文化・芸術

コメント

レメディオス・バロの表紙絵も素敵。

「列車」がエイクマン作品で一番好きなんです。
古い屋敷に住む一族と近代工業の産物である列車が結びついて
こんなにゾッとする話になるなんて。エイクマン作品には雨の中
徒歩旅行する人がよく登場しますね。あと出てくる食事が美味しそうではないような。「列車」や「学友」のお茶会はお菓子もお茶も御免こうむりたいです。日常から異界へ引きこまれるけれど
その日常もそんなに大切で楽しいものではないし、異界で冒険する訳でもない。なのに目が離せない、気になって仕方ないのです。

Re: レメディオス・バロの表紙絵も素敵。

「列車」、正直どういう話なのか私もいまだに分からなかったりしますが何度読み返しても面白い作品です。でもただの通り過ぎる列車をあそこまで薄気味悪く思わせるのはすごいなと。

徒歩旅行は「奥の部屋」のヒロインもしてましたね。
食事が美味しそうじゃないのは…人間の嫌な部分の生々しさと同じように、食べ物の味どころでなくなるような気まずさのシチュエーションの書き方が上手なんでしょうか。
イギリスの食べ物が美味しくないんだろうといえばそれまでですが(笑)

猫は跳ぶ

福武文庫の「猫は跳ぶ」を読了しました。
ボウエンの表題作は流石です。短いお話なのにギュッと
不穏な空気が詰まっています。何の瑕疵も無い新築物件
だとしても、あの女友達はパーティを台無しにしそう。
あとヘンリー・ジェイムズの姉妹ものが怖い!

再レスすみません。

殿方を巡る姉妹のさやあては怪奇小説日和のM・P・シール
「花嫁」にもありましたね。殿方は両手に花だわいと鼻の下を
伸ばしておられますが、全人生を賭けた女の一念を舐めると
痛い目に遭います。血の繋がりがあるから姉妹は怖いです。
「ホントはあの人の隣で幸せに暮らしていたのは私の筈だったのに・・・。」とか。自分自身でバリバリ活躍して人生を切り開ける時代ではなく、配偶者次第で運命が決まってしまうんですから。姑さんは6人姉妹の真ん中で、その姉妹が皆、同じ町内に結婚して暮らしておられます。事ある毎に集まるので大変です。
昔は配偶者と子供自慢、今は孫自慢・・・。

Re: 再レスすみません。

「猫は跳ぶ」、ついタイトルに笑ってしまいました。我が家の猫も棚の上に跳んで辺りをめちゃくちゃにしてくれるという騒動があったばかりでして。

ヘンリー・ジェイムズの姉妹ものというのは古衣装の話でしたっけ?日本の怪談にも古い着物にまつわる因縁話とかありますし、あれを読んだとき翻案してもなんの違和感もなさそうな話だと思ったものでした。あの話は姉妹の執着の対象が夫か衣装か判別できなくなってしまっているのがいちばん恐ろしいです。

そういえば「怪奇小説日和」のあとがきにあった「同趣向の結末の作品」二作ってなんなんでしょうね。私はシールの「花嫁」がその一方かと思ったんですが、あんまり自信がありません。

ある古衣の物語

自分も「同趣向の結末の作品」二作が何か分かりません。
ただエイクマンの「列車」は唯一無二の作品だと思います。

「ある古衣の物語」ですが、娘さんにしたら我が身の誕生と引き換えに産褥で亡くなった
母親が二十年前に遺した形見の衣装や宝石を、身に着けたいものでしょうか?
いくら丁寧にしまわれていても黄ばんでいるんじゃ・・・。樟脳がきつくてクシャミが
出そうです。既製品の無い時代はアンティークを大事にしたんでしょうか?
○ニクロのありがたさが身にしみます。大量生産の既製品万歳!

夫か衣装どちらに執着しているのか分からなくなって・・・、本当にそうですね。

Re: ある古衣の物語

>樟脳がきつくてクシャミ

確かに… その分大量の香料と一緒に保管して、着るときには香水をつけて、、、なのかもしれませんけど、現代の人とは匂いの感覚がまるっきり違うのかもしれませんね。
あの話の後しまわれていた衣装はどうなったのか、あれこれ想像してみたくなってしまいますが。

「同趣向の結末」というの、私は「姉妹」と「岩のひきだし」かなと思ったんです。どっちも最後に不実な(?)男性がしっぺ返しを食らって終わるものですから。あまりにもひねり無さすぎるでしょうか。
「列車」があの中でもとびきり個性的な作品だということに関しては疑いようもないですけど(笑)

東雅夫著 幻想と怪奇の英文学

この本にエリザベス・ボウエンの章があり、読んでみたいのですが他の章の作家が知らない方が多くて・・・。図書館にあれば
良いのですが、多分無理でしょうし。南條先生なら一も二も無く買うんですが。6月には荒俣先生の選集が創元からでるんですね。三部作だそうで楽しみです。SFマガジンの700号記念アンソロジーは好きな作家が殆ど入っていなくて哀しいです。自分は
ミステリよりSFファン歴の方が長いものですから。学校図書館で「超生命ヴァイトン」のジュブナイルを読んで夢中になり、大阪万博で「月の石」を見て胸をときめかせた世代。物理が全く駄目でハードSFとは相性が悪く、バリントン・J・ベイリーやジャック・ヴァンスのような奇想系の作家が大好きなんです。

Re: 東雅夫著 幻想と怪奇の英文学

出版社の紹介ページを見てきました。本当になんというか捻った感のある作家と作品のチョイスですね。私も名前が出てくるうちで実際に読んだことがあるのは一作だけです。
扱われているテーマ自体は結構面白そうなので、そのうち図書館に入らないか忘れずチェックしてみます(リクエスト購入してもらうのはちょっと難しいでしょうか…?)

SFファンでいらっしゃったとはちょっと意外でした。私はこのジャンルに入ったのが19世紀の文学からだったので、ホラーもSFも時代が下がるほどどんどんついていけなくなる始末でして。ハードSFなんて本当さっぱりです。

ウィアード・テールズ時代あたりだとまだSFと怪奇幻想の線引きは難しいですよね。個人的には両方の要素が混ざり合ったC・A・スミスの怪奇SFみたいなタイプが気に入りでして、スミスのゾティークに似た設定というヴァンスの「終末期の赤い地球」が読んでみたくてたまらないんですが、絶版の上に超入手困難というのがなんとも…。

終末期の赤い地球

ヴァンス御大は国書刊行会で「奇跡なすものたち」が出て
小躍りして喜んだものです!「終末期の赤い地球」や詐欺師
キューゲルのお話なんかはSFマガジンにポツリポツリと訳されて載っているそうです。ヴァンス叢書の計画もあるそうで、リニア開通並みに時間はかかるでしょうが待ってます。あと自分の寿命がもつ間に完結して欲しいのがジョージ・R・R・マーティンの「氷と炎の歌」です。この作家様の「サンドキングス」は家宝にしてます。ベイリーの「カエアンの聖衣」も大好きで!「服は
人なり」という背広SFなんです。絶版品切れなのが許せない。
SFの話題になると鼻息が荒くなってすみません。

Re: 終末期の赤い地球

「奇跡なすものたち」、図書館のデータ検索してみたら蔵書にありました! 次に行くとき借りてきます。今から楽しみ。

「キューゲル」はアンソロジー「不死鳥の剣」に入っていた「天界の眼」で読んでいたのに、「終末期の赤い地球」と同一の舞台設定だったのに今まで気がついてなかったんです。
そのシリーズがSFマガジンに載っているとは良いことを聞かせていただきました。でも図書館に通い詰めて一つ一つバックナンバーを読んでいくか(貸出は不可なので)、原書を地道に読んでいくか…悩ましいですね(笑) 叢書が出るならいっそそちらを待ったほうが早かったりして。

しかし「氷と炎の歌」って完結まだだったんですか…。

天界の眼

おお、不死鳥の剣!同じ河出文庫の20世紀SFシリーズ6巻と合わせて家宝です。
どんだけ家宝があるねんという。奇想コレクションも文庫化してくれて有難い限り。
最近「どんがらどん」も出ました。天界の眼のスモロッド村の住人は「魔法の尖頭」
である菫色の眼さえ付けていれば極楽にいられるけれど、実際は掘っ立て小屋で垢にまみれて寝転がっているわけです。なんか強烈な麻薬みたいですね。
「奇跡なすものたち」図書館にあって良かったですね。
氷と炎の歌はテレビドラマ化もされていますが、小説の方が自分のイメージする世界に
没入できます。諸侯が狙っている玉座は千本の剣を鋳潰して合わせた造りですが、メチャクチャ座り心地が悪そう。剣の刃に触れると切れるし、冷えるし・・・。

Re: 天界の眼

「不死鳥の剣」を読んだせいでコナンとエルリックとファファード&グレイ・マウザーのシリーズを全巻揃えてしまいました。中にはまだ読み終わっていないのもありますが。

「ゲーム・オブ・スローンズ」は日本では確かスターチャンネルで放映でしたっけ。せめて無料放送でやってくれないかと思いますが、内容的に結構えぐかった記憶がありますし難しいんでしょうか。

ファンタジーやSFの映像化は自分でイメージする原作の世界との兼ね合いが難しいですよね。あまりに違いすぎると見る気が失せるし、かといって忠実に作りすぎるよりはちょっと冒険してほしいですし(贅沢な悩みかもしれませんが)。個人的に古いほうの「コナン」の映画なんかはけっこう好きです。
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