怪談アンソロジー 怪奇小説日和:黄金時代傑作選
2013.11.11 22:19|怪奇幻想文学いろいろ|
気づけば半月も更新をさぼっている内、三月に出た「短篇小説日和」の姉妹編、その名も「怪奇小説日和」が発売になっていました。
「短篇小説日和」同様、国書刊行会から出ていた三巻のアンソロジーからの抜粋に新しく数本を追加した構成です。「短篇小説日和」もそれなりに怪奇幻想めいた内容ではありましたが(実際にエイクマン、マージョリー・ボウエン等、今回のとかぶっている顔ぶれが五人もいます)こちらは完全に怪談に絞った選び方。
元になったアンソロ「怪奇小説の世紀」は既読ですが、新録の作品目当てで買ってしまいました。まあ、もともと中途半端に第二巻しか持ってなくて他二冊はその都度図書館から借りてたことですし。
出版社サイトから転載の収録作一覧
「墓を愛した少年」 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン※
「岩のひきだし」 ヨナス・リー
「フローレンス・フラナリー」 マージョリー・ボウエン
「陽気なる魂」 エリザベス・ボウエン
「マーマレードの酒」 ジョーン・エイケン※
「茶色い手」 アーサー・コナン・ドイル
「七短剣の聖女」 ヴァーノン・リー※
「がらんどうの男」 トマス・バーク
「妖精にさらわれた子供」 J・S・レ・ファニュ
「ボルドー行の乗合馬車」 ハリファックス卿
「遭難」 アン・ブリッジ
「花嫁」 M・P・シール
「喉切り農場」 J・D・ベリズフォード※
「真ん中のひきだし」 H・R・ウェイクフィールド※
「列車」 ロバート・エイクマン
「旅行時計」 W・F・ハーヴィー
「ターンヘルム」 ヒュー・ウォルポール
「失われた船」 W・W・ジェイコブズ
怪奇小説考 西崎憲
怪奇小説の黄金時代
境界の書架
The Study of Twilight
あとがき
(↑「怪奇小説の世紀」全三巻に含まれていなかった作品にはこちらで※印をつけてみました。)
私としては以前こちらで作品集も紹介させていただいた、ヨナス・リーやロバート・エイクマンがしっかり入ってくれたのが嬉しいところです。
「列車」はこれぞまさしくエイクマンと言いたくなるような、読むたび訳が分からなくなる(でも時々ひらめくこともある?)一篇。 徒歩旅行中の若い女性二人が豪雨を避けて泊まる羽目になったのは、かたわらの線路の他には人の行き来もない土地に建つ一軒家。しかしそこは列車が通るたび、窓から運転手に手を振る老女がいるという曰くつきの館で、その家と住人と列車の関係の謎とは…という物語です。もっとも、読者と視線を共有するキャラであるマーガレットと友人のミミとの関係だけに的を絞ってもなかなか面白く読めますが。
…ちなみに私はこれを読んで以来、同性の友人と二人だけで泊りがけ旅行には絶対行きたくないと思うようになりました。
ヨナス・リー(よく見るとまぎらわしいことにリーさんが二人、ボウエンさんが二人います。どっちの姓も片方はペンネームのようですが)の海はホジスン作品の遠洋より日常に近いだけに、それが繋がる異界への危険な引力はある意味もっと強烈です。
本書に収録の「岩のひきだし」でも海が死へと引きずり込む魔力と同時に無限の豊かさをもたたえているのは、舞台となるノルウェーの人々にとってはそこが生活の糧を得る場に他ならなかったからなのでしょう。「ひきだし」の中身がいかにもな金銀財宝でなく、豪華ではあっても衣類や日用品のたぐいが主というのがそれを象徴しているような。
海、とりわけ幽霊船の話が好きな人間としてはラストのW・W・ジェイコブズ「失われた船」も外せません。ずっと以前に消息を絶った船の乗組員が一人だけ戻ってくるも…という筋には、以前書いたゼラズニイのAnd I Only Am Escaped to Tell Theeとも似通ったものを感じたのですが、こちらは不気味さよりも物悲しい余韻が尾を引く、まったく違った読後感です。
あと「フローレンス・フラナリー」は今読み直すと完全にラヴクラフト一派を意識したように思えてしまったり。 あるいは女流作家によるクトゥルフとして見たほうが面白いかも?
結局以前から親しんだ作品の紹介ばかりになってしまいましたが、今回追加された五篇(正確には別のアンソロで訳出済みのものもあり)もそれぞれ個性的で粒揃いの作品でした。
「墓を愛した少年」の詩的な繊細さもいいし、アルハンブラ宮殿を舞台にドン・ファン伝説と眠れる森の美女とアラビアンナイトをいっしょくたに詰め合わせたような「七短剣の聖女」のド派手さも好きです。ヴァーノン・リーという作家は「短篇小説日和」の「聖エウダイモンとオレンジの木」もそうですが、古くから知られた物語を素材にして料理し直すのがうまいですね。
これが初めての邦訳らしいウェイクフィールドの作品は、怪奇自体はちょっと定番にすぎて拍子抜けながら解説にあるように舞台的なつくりというのか、代表作「ゴースト・ハント」のラジオ中継とも似たせりふの応酬(効果音つき)がメインというのが注目のしどころでしょうか。
おしまいに「マーマレードの酒」。オレンジ系のリキュール大好きな私ですが
、これはさすがに…(笑)。
![]() | 怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2) (2013/11/06) 西崎 憲 商品詳細を見る |
「短篇小説日和」同様、国書刊行会から出ていた三巻のアンソロジーからの抜粋に新しく数本を追加した構成です。「短篇小説日和」もそれなりに怪奇幻想めいた内容ではありましたが(実際にエイクマン、マージョリー・ボウエン等、今回のとかぶっている顔ぶれが五人もいます)こちらは完全に怪談に絞った選び方。
元になったアンソロ「怪奇小説の世紀」は既読ですが、新録の作品目当てで買ってしまいました。まあ、もともと中途半端に第二巻しか持ってなくて他二冊はその都度図書館から借りてたことですし。
出版社サイトから転載の収録作一覧
「墓を愛した少年」 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン※
「岩のひきだし」 ヨナス・リー
「フローレンス・フラナリー」 マージョリー・ボウエン
「陽気なる魂」 エリザベス・ボウエン
「マーマレードの酒」 ジョーン・エイケン※
「茶色い手」 アーサー・コナン・ドイル
「七短剣の聖女」 ヴァーノン・リー※
「がらんどうの男」 トマス・バーク
「妖精にさらわれた子供」 J・S・レ・ファニュ
「ボルドー行の乗合馬車」 ハリファックス卿
「遭難」 アン・ブリッジ
「花嫁」 M・P・シール
「喉切り農場」 J・D・ベリズフォード※
「真ん中のひきだし」 H・R・ウェイクフィールド※
「列車」 ロバート・エイクマン
「旅行時計」 W・F・ハーヴィー
「ターンヘルム」 ヒュー・ウォルポール
「失われた船」 W・W・ジェイコブズ
怪奇小説考 西崎憲
怪奇小説の黄金時代
境界の書架
The Study of Twilight
あとがき
(↑「怪奇小説の世紀」全三巻に含まれていなかった作品にはこちらで※印をつけてみました。)
私としては以前こちらで作品集も紹介させていただいた、ヨナス・リーやロバート・エイクマンがしっかり入ってくれたのが嬉しいところです。
「列車」はこれぞまさしくエイクマンと言いたくなるような、読むたび訳が分からなくなる(でも時々ひらめくこともある?)一篇。 徒歩旅行中の若い女性二人が豪雨を避けて泊まる羽目になったのは、かたわらの線路の他には人の行き来もない土地に建つ一軒家。しかしそこは列車が通るたび、窓から運転手に手を振る老女がいるという曰くつきの館で、その家と住人と列車の関係の謎とは…という物語です。もっとも、読者と視線を共有するキャラであるマーガレットと友人のミミとの関係だけに的を絞ってもなかなか面白く読めますが。
…ちなみに私はこれを読んで以来、同性の友人と二人だけで泊りがけ旅行には絶対行きたくないと思うようになりました。
ヨナス・リー(よく見るとまぎらわしいことにリーさんが二人、ボウエンさんが二人います。どっちの姓も片方はペンネームのようですが)の海はホジスン作品の遠洋より日常に近いだけに、それが繋がる異界への危険な引力はある意味もっと強烈です。
本書に収録の「岩のひきだし」でも海が死へと引きずり込む魔力と同時に無限の豊かさをもたたえているのは、舞台となるノルウェーの人々にとってはそこが生活の糧を得る場に他ならなかったからなのでしょう。「ひきだし」の中身がいかにもな金銀財宝でなく、豪華ではあっても衣類や日用品のたぐいが主というのがそれを象徴しているような。
海、とりわけ幽霊船の話が好きな人間としてはラストのW・W・ジェイコブズ「失われた船」も外せません。ずっと以前に消息を絶った船の乗組員が一人だけ戻ってくるも…という筋には、以前書いたゼラズニイのAnd I Only Am Escaped to Tell Theeとも似通ったものを感じたのですが、こちらは不気味さよりも物悲しい余韻が尾を引く、まったく違った読後感です。
あと「フローレンス・フラナリー」は今読み直すと完全にラヴクラフト一派を意識したように思えてしまったり。 あるいは女流作家によるクトゥルフとして見たほうが面白いかも?
結局以前から親しんだ作品の紹介ばかりになってしまいましたが、今回追加された五篇(正確には別のアンソロで訳出済みのものもあり)もそれぞれ個性的で粒揃いの作品でした。
「墓を愛した少年」の詩的な繊細さもいいし、アルハンブラ宮殿を舞台にドン・ファン伝説と眠れる森の美女とアラビアンナイトをいっしょくたに詰め合わせたような「七短剣の聖女」のド派手さも好きです。ヴァーノン・リーという作家は「短篇小説日和」の「聖エウダイモンとオレンジの木」もそうですが、古くから知られた物語を素材にして料理し直すのがうまいですね。
これが初めての邦訳らしいウェイクフィールドの作品は、怪奇自体はちょっと定番にすぎて拍子抜けながら解説にあるように舞台的なつくりというのか、代表作「ゴースト・ハント」のラジオ中継とも似たせりふの応酬(効果音つき)がメインというのが注目のしどころでしょうか。
おしまいに「マーマレードの酒」。オレンジ系のリキュール大好きな私ですが

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