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19世紀前半の英国小説に出てくる「島原の乱」

2014.01.14 01:00|怪奇幻想文学いろいろ
 そういえば前回でちらっと触れたフレデリック・マリヤットの小説「幽霊船」(The Phantom Ship)について、ずっと書きかけで放置してたことがあったんでした。

 オペラ版「幽霊船」に一部の設定が引用されているとはいえ、この物語には「さまよえるオランダ人」の伝説に基づくという以外、ディーチュやワーグナーの台本との共通点はほとんどありません。「さまよえるオランダ人」ことウィリアム・ヴァンダーデッケン(ファン・デア・デッケン)の息子フィリップを主人公に、父の幽霊船を探してその呪いをとこうと自らも船乗りになった彼の生涯を描く海洋冒険小説です。

 舞台となる時代はスペインから独立したばかりのオランダが植民地を求め、アジアに進出した十七世紀半ば。その時流の中でフィリップは東インド会社の一員となり、さらに海軍に徴用されたりもして世界の海をめぐります。たびたびアジアの各地が舞台となるだけでなく、驚いたのはなんとその当時の日本についてかなり長い言及があったことでした(「幽霊船」が書かれたのは日本が開国する前の1830年代)。

その箇所を含む話の流れは以前こちらで紹介しましたが、はしょりすぎて分かりづらいので少し補足させていただきます。
 
 主人公フィリップが乗り組む船は東南アジアからの帰途、救命ボートで漂流していた難破船の一行を救い上げます。難破したのは日本から戻る途上の自国オランダの船でしたが、中には船員たちに混じってマティアス神父というポルトガル人の老宣教師が乗っていました。

 長年日本に滞在し禁教令が出されたあとも密かに布教活動に従事していたマティアス神父は、とうとう幕府の追っ手から逃げきれなくなってオランダ人たちに保護を求め(宗教や立場の点でポルトガルはオランダと敵対関係にあったにせよ、少なくとも幕府よりは寛大な処置が期待できたので)、任期を終えて帰国するオランダ商館長を送り届ける船に同乗して本国に送還されるところだったのです。
 
 ところでフィリップは、異端視されないよう船の仲間には秘密にしていましたが、当時のオランダではひじょうな少数派だったカトリックの家系出身でした。ある夜人目のない当直中を見計らって、彼は神父に自分たちが同じ宗派であると打ち明けます。思わぬ知己を得て喜んだ神父がフィリップに語りはじめた日本のキリスト教徒たちの悲劇とは――

 こんな流れを経て始まるマティアス神父の日本史講義(違)によると大体次のような感じです(ざっと要約)
 
 ...聖フランシス=フランシスコ・ザビエルが伝えたキリスト教(カトリック)は、(しかしザビエルが最初に上陸したという the Island of Ximoとは?音が似ている日本語一般名詞の「島」と混ざってるんですかね)熱心な伝道によってまもなく日本国中に広まりました。 
 しかし後から日本にやってきたオランダ人たちは、もとより布教<貿易のスタンスだというのに、日本の信徒のあいだですでに信頼を勝ち得ていたポルトガル人のため自分たちの商売が不利益をこうむっているのが我慢なりません。そこでオランダ人の指導者層は、日本の君主である"emperor"(こう書かれてます)にキリスト教への不信を植え付け、立場を逆転しようと画策します。

 このあたりまでは、完全にポルトガル側からの視点としてならそこまで史実と離れてないような? いや日本史苦手な人間なので自信ありませんけど。"emperor"はまあ、天皇でなく江戸幕府の将軍ととるしかないでしょう。
 しかしその次に起こったこととは... ここだけちょっと原文を載せてみることにします。

...There was a Japanese lord of great wealth and influence who lived near us, and who, with two of his sons, had embraced Christianity, and had been baptised. He had two other sons, who lived at the emperor's court. This lord had made us a present of a house for a college and school of instruction: on his death, however, his two sons at court, who were idolaters, insisted upon our quitting this property. We refused, and thus afforded the Dutch principal an opportunity of inflaming these young noblemen against us: by this means he persuaded the Japanese emperor that the Portuguese and Christians had formed a conspiracy against his life and throne.(中略)
...The emperor, believing in this conspiracy, gave an immediate order for the extirpation of the Portuguese, and then of all the Japanese who had embraced the Christian faith. He raised an army for this purpose, and gave the command of it to the young noblemen I have mentioned, the sons of the lord who had given us the college. The Christians, aware that resistance was their only chance, flew to arms, and chose as their generals the other two sons of the Japanese lord, who, with their father, had embraced Christianity. Thus were the two armies commanded by four brothers, two on the one side and two on the other.


 ここも超簡単にまとめると、 
 息子二人と共にキリスト教に帰依していたある有力領主、いわゆるキリシタン大名がいましたが、地元を離れて「宮廷」に仕えていた別の息子二人は、父が神学校を建てるなどキリスト教への財政援助をしていたのが気に入りませんでした。
 大名の死後、その息子たちは父の行った寄進を返却するよう要求するもキリシタン側が拒んだことで両者の関係はさらに悪化。そこに時のオランダ商館長が付けこみ、彼らを焚きつけてキリシタンが国家転覆を企てていると"emperor"に吹き込みます。
 それを信じた"emperor"は、直ちにポルトガル人と日本人キリシタンを残らず滅ぼすよう命じ、訴えた息子たちが率いる大軍を差し向けました。一方キリシタン側でも、彼らの兄弟にあたる、父と一緒に改宗した側の息子二人を総大将に反乱軍を結成し対抗したのです。


 この「オランダ商館長」とは、上述のマティアス神父と一緒の船で帰国するところだった人物のことなのですが、難破のさいその元商館長は他の者がみなボートで脱出する中一人だけ命を落としてしまったのでした。
 もちろんマティアス神父にとってキリシタン迫害のきっかけを作った元商館長は目の敵だったので、唯一の犠牲者となったのも、宗派が違うとはいえ同じキリスト教徒を自分の利益のために大勢死に追いやった報いだとばっさり断罪されます。

 このキリシタンの反乱、すなわち島原の乱の話にはまだ続きがあるのですが、だいぶ長くなってきたので残りの内容はまた次回に。なお原文はこちらのWikisourceで読むことができます。

1/19追記:続きはこちら
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テーマ:歴史雑学
ジャンル:学問・文化・芸術

コメント

日本のエンペラー

こんばんは。
先日はブログコメントありがとうございました!

以前「幽霊船」を紹介されていた時にも書いたような気がするんですが、日本のエンペラーと4人の息子って一体誰のことだ?と思ったりしていました(笑)

つい先ほどふと思いついて「ガリヴァー旅行記」に関して調べてみたんですが…
ウィキペディアの記述ではありますが、当時の西欧では日本のエンペラー=徳川将軍家という認識だったようです。
「ガリヴァー旅行記」は「幽霊船」よりも100年前に書かれた作品ではありますが、鎖国時代の日本で情報はあまりなかったでしょうし、当時の西欧の認識としてはeHollyさんの書かれているとおり、エンペラー=将軍だったんだろうなぁ、と思います。

キリシタン弾圧の原因に関しては日本人がポルトガル人に奴隷として売られた事に当時の為政者秀吉が激怒したから、なんて話も聞いたことがあるんですが…
売られた日本人は年季奉公のつもりだったとか。
彼らを売ったのはキリシタン大名で鉄砲と火薬が欲しかったからとかなんとか。
気の滅入る話でうんざり><

島原の乱がどのように描写されるのか、続きを楽しみにしています^^

Re: 日本のエンペラー

こんばんは、この前はお邪魔しましたe-454

「ガリヴァー旅行記」、確かに日本出てきましたよね。(岩波文庫版を持ってたはずなので確認しようと思ったら行方不明で…今度本の整理するので探してみます)
 
 私もウィキ見てみましたら、「ガリヴァー」の翌年出版されたオランダ商館の医師による「日本誌」だと、「将軍が"世俗的皇帝"で天皇は"聖職的皇帝"とされている」とあってだいぶ腑に落ちました。
そうだとすると将軍・天皇は西洋人にとっては、ヨーロッパにおいての世俗の国王と教皇のような図式で認識されていたんでしょうか?

>キリシタン弾圧の原因

 おっしゃるように日本でのキリスト教の流布→排斥の流れにも、単に宗教の問題にとどまらないいろいろな側面があったんでしょうね。
 小説内の記述はあくまでマティアス神父の立場からですから、ものすごく偏った見方なのはある意味当然なんですけれどその後の展開が示すように、「幽霊船」という小説自体は決してキリスト教(カトリック)に肯定的なわけでもないと思います。

 「四人の兄弟」にもある程度モデルとなった実在の大名家の話があるのかと探してみましたが、見つかりません…。何せ日本史に関しては教科書レベルの知識なもので、色々とご教示くださいませe-443
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