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Metライブビューイング 「ルサルカ」

2014.03.13 23:57|音楽鑑賞(主にオペラ)
 司会のグラハムも「ヴィンテージ」とネタにしてたオールドスタイルの演出ですが、捻った解釈されがちなこのオペラではむしろ新鮮なぐらいで楽しめました。なにしろちゃんと水の精をやってるルサルカを見たのすら久しぶりな気がします(笑)

 そのルサルカを歌うルネ・フレミング、これが当たり役なのに異論はないものの、いろいろな面でさすがに年齢的に厳しいんじゃ?というところもちらほら。特に一幕の有名なアリアの辺りでは、本人もそれを意識してか発声も表現も作りすぎで伸びやかさに欠ける印象がありました。
 あともっと言うと、私的にはこういった話の自然の精って、関わる者に悪い影響をおよぼしかねない(この場合まさにそうなるわけですけど)一種の危険さを備えているイメージだったんですが、そういう面でも一幕のフレミングはちょっと違うかなという感じでした。一言でまとめると人間らしすぎ大人びすぎていた雰囲気。
 それでも三幕で行き場をなくしたルサルカの苦悩になると、そういった要素が逆にプラスに働いて良かったとも思うので一長一短でしょうか。

 ストレートにはまり役だと思ったのはイェジババ(魔女)のザジックと王子のベチャワ。ザジックはどちらもやりすぎない程度にコミカルでおどろおどろしかったし、ベチャワの王子は声はもちろん、女二人に振り回される優柔不断なダメ男でなく、魔性のものに魅入られてしまったやむにやまれなさを強調した役作りがルサルカとの対比にもなっていて良かったです。

 このオペラだとルサルカの父ということになっている水の精役のレリエも、ものすごく凄みのあるバスというのではないですが、全体通して揺るぎない低音が人間離れした存在感をかもし出していました。ライバルの外国王女を歌ったマギーは…まあそれなりの意地悪オーラで適役だったかと。
 ネゼ=セガンの指揮は全体のバランスのよさに加え、森の精三人組のシーンとか、一見なんでもない場面の継ぎ目のような箇所にも時折ぞくっとする息遣いを感じさせるあたりが耳に残りました。

 セットはスクリーンで見る限りでは、照明が暗いせいか植物や地面、それにとりわけ難しそうな水の質感も本物らしく経年劣化とかは気にならず。個人的には同じ演出チームの前の「指輪」四部作より好みです。
 ただ残念すぎるのは衣装のセンス! ルサルカや森の精たちのヒラヒラやスパンコールがごちゃごちゃくっついたドレスはどうも自然の化身にはふさわしくなくて似合ってません。最後ルサルカが王子の元に現れるとき、まとった白い布をうまく使って水面から霧の柱が立つように登場するシーンだけは絵のようで本当にきれいだったので、最初からああいうシンプルな衣装だったらよかったのにと思わずにいられなかったです。

それに魔女の秘薬作りのシーンでのきぐるみ大行進↓もリアルな背景と比べて浮きすぎ(インタビューで出てきた中の子たちは可愛かったけど)。

Rusalka0809_06_convert_20140310034002.jpg
しかしこの生物たちのサイズはどう見てもおかしい これも魔女の呪文のおかげ(!?)

 あと水の精が妙にどこかで見た気がすると思ったら「エンチャンテッド・アイランド」でドミンゴが演じたネプチューンでした。
 この東欧の水の精(ヴォドニク)ってチェコの作家チャペック(←オペラ的には「マクロプロス事件」の原作者)の「長い長いお医者さんの話」という本の訳ではたしか「河童」になっていたような。挿絵もあったはずですが、読んだのが小学校のときだったのでもうはっきり思い出せません。

長い長いお医者さんの話 (岩波少年文庫 (002))長い長いお医者さんの話 (岩波少年文庫 (002))
(2000/06/16)
カレル・チャペック

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↓なお五年前に上演されたときのヴォドニクはこんな姿だったもよう。

http://archives.metoperafamily.org/Imgs/Rusalka0809.13.jpg

河童…とはまた違うクリーチャーですね。しかし凄いメイク。今回のレリエはもっと二枚目の素顔に近かったです

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テーマ:オペラ
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

コメント

ルサルカはドヴォルザークのオペラですか?

ルサルカはアンデルセンの人魚姫のように口がきけないのですね。東欧やロシアのお話はヨーロッパともアジアとも違う土俗的な雰囲気があって独特な感じがします。ロシアで思い出すのは「パルナス」。世界名作劇場の合間にCM放映されていて、関西のアラフィフのDNAに、美しい歌と映像が刻み込まれております。「モスクワの味」。ソ連が崩壊するとは当時は夢にも思いませんでした。パルナスも十数年前に無くなりました。
「長い長いお医者さんの話」の三話目にカッパさん出てきました!お兄さんのヨゼフ・チャペックの挿絵も日本の河童そっくりで違和感がなかったです。リューマチで苦しんでいて温泉に行くんでしたよね。「カッパというものは、なにか水に縁のある仕事でないとやれないのです。」
チェペック兄弟は「園芸家12カ月」も大好きです。

Re: ルサルカはドヴォルザークのオペラですか?

オペラはおおむね「人魚姫」と似たようなストーリーですが、水の妖精「ルサルカ」は東欧やロシアの怪奇幻想文学によく出てきますね。東欧といえば吸血鬼伝説の本場でもありますし、深い森といい案外ヨーロッパ怪談の源流なのでは。
以前創元の「東欧SF傑作集」なる本を古本で見つけたのに、なんだか取っ付きにくそうで買わずじまいだったのを今では後悔しています。日本では言葉の問題もあってあまり訳が出ていないのかもしれませんが、もっとあれこれ読めるようになってほしいジャンルです。

「長い長いお医者さんの話」、挿絵はお兄さんの方のチャペックの担当でしたか!小学校の図書室にあった本で、それ以来一度も手にしていないのでかなり記憶があやふやなのです。原語が「ヴォドニク」だと知ったのもどこでだっけ…というくらいで。
オペラでは人間嫌いのヴォドニクですが、この話だとリューマチをお医者さんに診てもらいにいったりけっこう愛嬌ある存在でしたね。そういうところも河童とかぶるような。

チャペックというと

こんばんは、少しお久しぶりです^^

FB始めたせいでしょうか、ブログにもなかなかまとまったことが書けなくなってしまいました><
おかげでブログのプレビュー数はかなり下がってますが(笑)
コメントはしてなくてもehollyさんのブログはいつも拝見してますよ^^

チャペックというと私は全く別ジャンルの作品群が思い浮かんだりするのですが、調べてみると色んなジャンルの作品を手がけてらっしゃるんですねぇ。
知らなかった…

以前紹介いただいた「ルサルカ」も面白かったですが、こちらは伝説のイメージに近い感じなのでしょうか。
水の妖精=河童ってのは日本語への翻案での定番なんですかね。
西遊記の沙悟浄も河童とされていることが多いのが昔から気になってました^^

Re: チャペックというと

こんばんは。私もこの数週間花粉症の薬を飲んでいるせいか、夜はすぐ眠くなってしまってなかなか思うように記事がアップできません。それでもマッドハッターさんのお宅は楽しみに拝見しておりますe-454

カレル・チャペックはそういえば「ロボット」の名づけ主でもありましたね。私はそちら方面には詳しくないのですが、いちおうSF作家のパイオニア的存在なんでしょうか?
私もちょっと調べてみましたら、チャペックの「ロボット」が今でいうメカニックなロボットでなかったと初めて知ってびっくりでしたが。

>沙悟浄も河童

あ~、確かに見覚えが! そもそも中国に河童の話って存在するのか?と思いましたが、中国の河の神が河童のルーツの一つとか諸説あるんですね。
「ルサルカ」の水の精は英語だとウォーター・ゴブリンという表記が多いです。河童はウォーター・インプらしいのでインプとゴブリンなら親戚みたいなものかな…

沙悟浄のルーツ

こんばんは^^

沙悟浄のルーツに関して蔵書を調べてみたら結構面白い事が書かれていました。
昔々に読んだ本で内容をすっかり忘れていたようです><
今度まとめてブログにでも書きまする・・・

>ウォーター・ゴブリン
私的にはゴブリンというと「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」のオークを思い出してしまって、なんだかフィジカルなイメージです(笑)
インプの方がより霊的なイメージがありますね~。
元々の言葉の意味とかではなくて創作物のイメージなのでしょうが。
エルフも「ロード・オブ・ザ・リング」以降イメージ変わっちゃいましたしね><

>チャペック
SFの解説書とか読んでるとほぼ確実に出てきますね、「ロボット」
ヴェルヌやウェルズほどのページは割かれてないですが。
SFテーマの一つの開拓者って扱いでしょうか。

Re: 沙悟浄のルーツ

>沙悟浄のルーツ
「西遊記」読んだのもやっぱり小学生のころ(岩波少年文庫版)でしたが、とにかく自己主張の強い悟空や八戒の影で損な役回り押し付けられがちなのに妙に共感した覚えがあります(笑)
なのでどういうルーツを持つキャラなのかは凄く興味ありますね~。

「ルサルカ」のウォーターゴブリン(ヴォドニク)は人間に時には害をなしたりトリックスター的な性格だったりすることから「ゴブリン」が当てられることが多いんでしょうかね。

トールキンのゴブリン/オークがフィジカルなイメージってのは確かにそうかも。
先-今月とWOWOWに二ヶ月間入っていまして、そこで映画版ホビットの冒険の一作目をやっていたので一年遅れで見てみたんですが、出てくるゴブリンの多くが実に凶悪そうなレスラー体形だったのはゴブリン=小鬼という訳語が頭にあるとちょっと意外でした(笑) LotrWikiというので調べたら身長7フィート越えとあってさらに驚愕…。

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