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「ジャパニーズ・ローズ」の謎

2014.05.12 23:08|怪奇幻想文学いろいろ
 古本ではあまりに高くて手が出せなかった"ウィアード・テールズ日本版"がいつも使う図書館の地下書庫にあったのを今更知りました。数年前にどなたかが寄贈されたとか。

 アメリカで1920―50年代にかけ発行されていた怪奇小説専門誌、Weird Talesの掲載作から選りすぐった短篇を年代ごとに分かれた全五巻に収めた選集で、もう三十年くらい前に国書刊行会から出たものです。
 まず一巻と三巻を借りてきて読み終えたところなんですが、小説ばかりか作家陣によるエッセイの翻訳や編者の故・那智史郎氏による作品紹介なども充実していてなかなかのボリュームでした。
 
 サイズやイラスト、タイトルロゴのフォントにいたるまでアメリカの本家版を再現したというこだわりようも凄く(おかげで電車の中とかではまず読めませんけど)、特に誌面のあちこちに当時の広告がそのまま貼られているのが時代感を演出するのに多大な貢献をしてます。
 広告の内容もよく見てみると結構ウケるのが多いです。自動車用シートカバー、ヒョウ柄二ドル九十八セントにゼブラ柄三ドル六十九セントとか(その差はいったい…)←ちなみに十日間の無料トライアルあり。

 とりわけ気になってしまったのが、第三巻の裏側見返しにある草木の広告。それもさすが怪奇雑誌だけあって(?)当時のアメリカであまり一般的だったとは思えないようなエキゾチック系の植物ばかりが並んでいます。名前からしてFIREFLY PLANT、The Great Wonder Berry、Tree of Heaven…等々耳慣れないものだらけ。

 中でも目玉商品なのか、広告の一番上に絵入りで載っているのが "JAPANESE ROSE BUSHES" なる花木の鉢植え(の種?)です。以下が「世界の驚異」"The Wonder of the World"と銘打たれているその紹介文の引用。

"Japanese Rose Bushes bloom all the year round. Just think of it. Six weeks after planting the seed, the plants will be in full bloom.It may not seem possible, but we positively guarantee it to be so.They will bloom every ten weeks,Summer or Winter,and when three years old the bush will be mass of roses,bearing from five hundred to a thousand roses on each bush.The flowers are in three shades-white, pink,and crimson.The plants will do well both in and out doors.We guarantee at least three bushes to grow from each packet of seed."(太字は原文のまま)

↑によれば、
・開花は一年中。夏冬を問わずほぼ二ヵ月半おきに返り咲きます
・種をまいて六週間ほどで満開になり、三年で五百~千個の花をつけるまでに成長します
・色は白、ピンク、クリムゾン(濃い赤)の三種類
・戸外でも屋内でもよく育ちますよ
とのこと。なおお値段は一鉢十セント。

 それにしたって「ジャパニーズ・ローズ」というからには日本と縁のある花なんでしょうけど、そんな凄い植物果たして実在するんでしょうか!? 
 調べたら、Japanese Roseというのは原種のバラの一種ハマナスをさす場合が多いようです。手持ちのバラの本でハマナスの項を見ると、確かに色は白、薄いピンク、赤に近い濃いピンクと三種類だし、実をつけた後も場合によっては繰り返し返り咲くとありますが… ただ開花時期に関しては日本とアメリカの環境の違いを考慮に入れても、真冬も途切れず咲くというのはどうも厳しそう。

 他にはバラ科のヤマブキ、八重咲きの花の形がバラと似ているツバキなども英語圏ではJapanese Roseと呼ばれることがあるらしく、ヤマブキは花がだいたい黄色だから外すとして、ツバキはもしかしたら可能性ありか?とも思います。ツバキの赤はハマナスより「クリムゾン」に近いし、満開の時には条件がよければものすごくたくさんの花をつけますし。

 まあこの広告元、純粋な植木屋というよりは「かゆみ粉(Itching Powder)」「くしゃみ粉(Sneezing Powder)」みたいな悪ふざけ用ジョークグッズとかドクロ付きのお守り指輪みたいなわけの分からないものも売ってる店なので、多少マユツバの誇大広告だったとしても驚きませんが(笑)
 
 あとちょっとびっくりしたのは、Kudzu Vineという名前で日本の葛が売られていたことです! 生育が早く花もきれいなので邸宅の壁に這わせるつる植物として用いられていたらしいですが、呼び名は外国でもそのまま「クズ」なんですね。さすがにこの広告にある通り一週間で20フィートも伸びるものかは不明ながら、よく育つというのは誇張ではないでしょう(これもネットで調べたら、1876年に開催された博覧会の日本庭園に使われたのがきっかけでアメリカに持ち込まれた葛は、今では一部地域ではびこりすぎて問題になっているそう)。
 
 ジャパニーズ・ローズではありませんが、うちでも先週末ぐらいからバラが開花ラッシュです。でも例によって大風にやられ花が傷んでしまい、あちこち引っかき傷だらけの無残な姿になったのが多数… なのに昨日は国際バラとガーデニングショウに行ってまた大きな鉢バラ、それもデリケートな花の品種というのを買ってきてしまったのでした(汗)

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テーマ:本の紹介
ジャンル:学問・文化・芸術

コメント

ハマナスと葛

先日の「趣味の園芸」で国際バラとガーデニングショウを取り上げていました。日本、イタリア、フランスの女性育種家の丹精したバラが素敵で!特に日本の方のバラは色も名前も夢のように美しかったです。仲間入りした鉢バラ、上手く育つと良いですね。

図書館の地下にそんな貴重な本があるなんて、それ自体が
ウィアード・テイルズの小説みたいです・・・。

葛が園芸植物として輸出されたなんて!アレはとんでもないモンスターです。どんな痩せた土壌にもはびこり、電柱に巻きついて
隣組で草刈りをする時も、一番てこずる植物。花は綺麗だし葛根湯とかの
漢方薬の原料になりますが、わざわざ植えるなんて恐ろしい。
ハマナスは実もジャムに出来るし素敵ですが・・・。

Re: ハマナスと葛

バラとガーデニングショウ、目当てのものが買えてざっと見たら帰るつもりが結局三時間もウロウロしてしまいました。本当に品種によって個性がまったく違うから見ていて飽きないです。

アメリカで葛をまわりに植えられた邸宅の末路を考えると恐ろしいですねえ…。あの伸び放題に茂った姿だけ見ると花や葉の優雅さなんて消し飛んじゃいます。
通っていた学校でも木に絡まった葛を校舎の周りがジャングル化するまでずーっと放置しており、水泳の時にはそこに生息する蚊が隣のプールを襲撃してくるので閉口でした。

あれには死神の鎌でも苦労しそう…草刈りお疲れさまです。

見事なバラが咲いていると、つい見とれてしまう

日本の育種家の方は河村純子さんとおっしゃる方で
ガブリエルやルシファーなどの大天使の名を冠した品種や
アプリコット色の「はつね」がとても素敵!

プロの育種家から一般の方までバラ愛好家のブログは
美しい写真と文章がいっぱいで、うっとりしてしまいます。

ルシファーみたいな青薔薇にも憧れますが、遺伝子組み換え
とか白薔薇に色素注入したりするのは抵抗があるんです。

Re: 見事なバラが咲いていると、つい見とれてしまう

今日はお休みだったので少し時間をかけてバラを手入れしてきました。開いた花の写真も撮ってみましたが、ベストショットには程遠く…。栽培の腕も写真の腕もまだまだです。

青バラは私も永遠の憧れなんですが、やはり難しいらしくてうちでは買ったもの全部失敗でした。ルシファーはその青系の中でもひときわ繊細なんだとか!魔王のくせに(笑)

人工的に着色した花はやっぱり不自然ですよねえ。花屋さんでときどき虹の七色に染めたバラというのを見かけますが、どうにも気持ち悪いとしか思えません。

こんばんは^^

国書刊行会のウィアードテイルズ復刻版とは…
貴重な蔵書ですねー。
だいたい古書の寿命(流通)はよほどのロングセラーでない限り10年と言われてますから。

ジャパニーズローズの広告、なんだか笑えてしまいました。
ジャパニーズローズと聞いて私も最初、椿か牡丹かな?と思ったのですがハマナス!でしたか。

その他怪しげな通販ってのもなんだか(笑)
私が子供の頃も雑誌広告の怪しげな通販は満載で(1920年代じゃないですよ/汗)一世を風靡したシーモンキーとか良く覚えています><

随分前に大阪のサントリー美術館で「1920's 20世紀の青春時代展」なんてのをやってまして、その時購入したってか、たしか学生さんの引率で行ったので貰ったのだと思うのですが図録を引っ張り出してきました。
TRPGクトゥルフの資料にもなるな、と思って(汗)大事にしていた物なんですが、これにも当時の広告とかがあって結構面白いです^^
生活感が伝わって来るので。
これってTRPGのみならず、創作には結構重要ですよね。

でも流石に葛とか植物は紹介されてないようで…

自動車、ラジオ(メディア)、カメラの普及など現代と同様の生活様式を築いたのがこの時代だったんでしょうね~。

この図録、久しぶりに引っ張り出したら結構面白くて、また広告関係は別に資料も持っているので、これに関してはまたブログで何か書くかもしれません^^

Re: こんばんは^^

流通期限十年とは意外に短いものなんですね~。寄贈して下さった方に感謝しなくては。

昔の広告ってほんとに妙な面白さがあります。親が録画した古いビデオテープを、デッキ共々処分する前にいくつか見てみたことがありますが、本編の映画やドラマよりCMのほうが印象に残っていたりとか。

>当時の生活感
禁酒(ウイスキー)・禁煙の広告がいくつかあるのはいかにも2~30年代のアメリカといった感じでした。でも通販の電化製品には、今も使われているのとそう変わらないデザインが多かったのもむしろ意外。ただ値段が現代に換算してどれぐらいなのかがいまいちピンと来ません。

生活スタイルはかなり現代に近くなってきた一方で、価値観などはまだそれ以前の時代の影響が色濃く残っているようでもありますし… いわゆる過渡期ですね。
私は自分ではTRPGができるわけもなくてネット上のシナリオやリプレイを読ませていただく程度の素人ですが、1920年代が舞台だったりすると当時の人間らしくロールプレイするのは大変だろうなと感じます。ましてやキーパーさんはそれ以上に。

葛が通販されていたというのは(日本では売るまでもないかと)、なんだか笑えます。当時のアメリカが舞台のCOCで葛に覆われた廃屋が出てきても間違いじゃないんですよね(笑)

…シーモンキー、知らなかったので検索してみました。なんですかこのリアルでウィアード・テールズに出てきそうな生物は!!!v-12

シーモンキー

シーモンキーは私も買ったというか飼ったことがないのですが、同級生の友達とかは結構飼ってましたね。
簡単に飼育できる、というのが売りだったようですが…
あまりしげしげ見たことはなかったんですが、画像検索すると…><

>生活スタイル
書き忘れましたが電気掃除機、洗濯機、トースターなども当時普及したようです。
電気の普及とともに家庭用電化製品が一般的になった時代のようですね。
もちろん電話も。

20年代舞台でCOCをプレイすると時々「輸血って当時OKだったっけ?」みたいな感じで戸惑うことはありますね(汗)
それだけ現代の感覚に近い世界だったのだと思います。

一方でehollyさんもおっしゃるように旧代の価値観をも備えた世界だったわけですが…
ウィアードテイルズとか当時はやった霊媒とかがその証でしょうか。
また当時規制を受けた女性の水着写真とか資料にあるのですが、今から考えれば何故?って感じでもありますね^^
非常にやぽったくて(笑)

>当時の物価
アメリカですがヤフー知恵袋にこんな記事がありました。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1410893579

ほぼ現代の1/10ぐらいでしょうか。
当時の1ドルが今の10ドルぐらいですかね。

世界最大の農業国家でもあるアメリカですから食べ物は安かっただろうし今の日本と同様に考えていいのかどうかわからないですが。
私が20年代アメリカ舞台でプレイする時は1ドル=1000円ぐらいでやってますね。
色々考えるところはあるのですが、感覚的にわかりやすいのでそれを優先しています(汗)

eHollyさんもシナリオやリプレイ読むだけじゃなくて、COC機会が有ればプレイしてみて下さい^^
TPRGってのはストーリーを受動的に楽しむ物じゃなくて能動的に作っていける双方向的なツールだと私は考えていて、そういう意味でもeHollyさんにはプレイしてみてほしいです^^

Re: シーモンキー

通販のシーモンキーってアメリカが発祥だったんですね。ウィアード・テールズがあと十年長命だったら、広告の目玉商品になってたかも…。。

>電気掃除機、洗濯機、トースター
正確な年代はわかりませんが、第一巻に出ていた広告にトースターやじゅうたん掃除機(カーペットスイーパー)は含まれてました。ほかには扇風機、シェーバー、電動ミキサー等々。

広告に載っている商品はそこそこ~かなりのサービス価格で売られているものが多いようで、それを考慮に入れるとやっぱり現代の1/10相当というのが妥当といったところでしょうね。
最初に借りてきた巻を返却してしまって確かめられないので正確でないかもしれませんが、他に印象に残ってるのだと墓石10ドル弱なんてのもありました。

輸血の普及度…は私も正確に知らなかったので調べたら、当時としてはかなり新しい医療技術に属するものといった感じですね。勉強になります。

ほんとに私もいつかCOCやWoDを自分でやってみるのが憧れです…。しかしその前にTRPGのルールとオンラインセッションのやり方をマスターしなくちゃなりませんが。手始めにルールブックでも買ってみようかな、というのはわりと真剣に考え始めてますねー。

輸血は

輸血は当時ABO式血液型しか知られていなかったらしく(Rh式はまだ)結構危険をはらんでいたみたいです。
私もゲームキーパーをする前に調べたんですけど(汗)
しかし、墓石10ドルはいくら何でも安過ぎだと思うんですが…

>COCやWoD
ルールブック読むだけでもeHollyさんなら楽しんで貰えると思います^^
神話生物の解釈とかは納得いかない部分もあるかもですが。

TRPGの音声オンラインセッションをお考えなら炬燵がお勧めですが...

http://www.ayamenet.com/index.html

最近正式版がリリースされましたが、これはまだ使ったことが無くて私も良くわからないです(笑)
ダイスを振ったり、ホワイトボードで絵が描けたり、あらかじめ作成しておいたユニット(駒)を使えたりと至れり尽くせりのアプリなんですけどね。
現在中断しているシナリオがあるのでまた炬燵でプレイすることになると思います。
その後なら解説できるかも。

COCかWoDなら私も一応キーパー&ストーリーテラーできますんで良かったら今度やってみます?
いつも同じメンバーだと展開の先行きがある程度読めてマスタリングは楽なんですが、新しい刺激が欲しい(笑)
eHollyさんなら大歓迎ですが。

別エントリーへのレスで申し訳ないですが薔薇の名前、「ピルグリム」とか「フォルスタッフ」とか面白いですね~。
由来があるんだろうなぁ。

Re:輸血は

すみません、ちょっと泊まりがけで親戚を訪ねていて遅くなりました

十ドル墓石、ほんとにどんな代物なんでしょうね。あまり裕福でない層(ウィアード・テールズの読者層とどのくらいかぶるのか判りませんが)向けの小さなプレート一枚みたいなものとか?

まさかTRPGにお誘いいただけるとは!ただまだ右も左もわからない状態ですし、まずルールブック(勢いで注文してしまいました)で基礎を頭に入れておいたほうが良さそうですね。サプリメントにも色々な設定のがあって興味をそそられます。いつかは仲間入りできるよう頑張りたいものですが、あれこれご教示くだされば何よりです。

お姉さまが育てておられるビエ・ドゥー、私も真似して買っちゃいました。場所が場所だけに花が傷んでしまうのが残念ですが、悪条件でもよく花をつけますし個性的な柄が素晴らしいです。

>ピルグリム、フォルスタッフ
「ザ・ピルグリム」はバラ会社の公式サイトによると英国古典の「カンタベリー物語」が由来なんだそうです。「フォルスタッフ」はオペラの主人公にもなっているシェイクスピアの登場人物ですけど、超肥満で飲んだくれなキャラとバラの姿とのギャップが…
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