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Metライブビューイング 「マクベス」

2014.11.11 12:08|音楽鑑賞(主にオペラ)
 一つ前のエントリで書いたように、ハロウィン翌朝の初回という何とも言えないタイミングでの上映で見てきました。
 このエイドリアン・ノーブル演出「マクベス」はHD収録されるのは二度目で、前回のものは映画館には行きませんでしたが、WOWOWで放映された時の録画で視聴済みです(その時も題名役は同じジェリコ・ルチッチでした)。

 今度の再演の目玉、ネトレプコは映像込みで見るといっそうの迫力で、野心に火が点いてから精神崩壊して狂気にいたるまでの過程を何かに憑かれたような勢いで演じ切ったマクベス夫人は凄まじかったです。前とは別人のように重くなった声を大胆不敵にガンガン繰り出すさまはアクロバティックと言いたくなるほどで、それがまた役柄の危うさとシンクロして凄味を増しているよう。
 
 加えてマクベス夫妻の性格の違いを際立たせていたキャスティングの妙が面白く、華やかで常人離れした強烈さのあるネトレプコの夫人に対し、ビジュアルも前と比べていっそう枯れたルチッチ演じるマクベスは優柔不断で自信のない性格がそのまま外見に出ているようで好対照。どうも覇気に欠けて聞こえる(聞き苦しくはないのに)声のトーンや歌い口のおかげで、歌にはあまり感心した記憶のないルチッチでしたが、こと今回のマクベス役に限ってはそれもプラスに作用してぴったりのはまり役に感じました。
 
 とりわけ第二幕パーティーの場面で、亡霊の出現に取り乱すマクベスを、夫人が場を取り繕おうと強制的にダンスに引っ張り込むも、それどころでない彼は無様によろけてしまうあたりなど二人の対比がよく視覚化されていたし、ネトレプコとルチッチの演技も見事で印象に残ってます。(覚えているかぎりでは、ここでは前回のグレギーナ演じる夫人は夫と揃って動揺を隠し切れないという印象だったし、一幕幕切れでとる行動等、それ以外にも夫人の役作りがかなり異なる箇所がいくつかありました)

 出番の割には豪華な(こちらの記事の最後で触れたような事情があったからとか…あくまで噂ですが)配役のバンクォーとマクダフも主役夫妻に負けない存在感でした。芯のある声がこちらもマクベスと対照的な、剛毅な性格を示しているようなパーペの歌はドラマ前半の要所要所で効果を発揮していましたし、カレヤの切々と歌うアリアの表情付けも良かったです。
 ルイージの指揮する演奏がまたスリリングで、この作品全体にみなぎるダークなエネルギーがリズムにも音そのものからもしっかり感じ取れたのが個人的には何より賞賛したいポイント。それは合唱、とりわけ魔女に扮した女声陣にも共通していました。

 WOWOW鑑賞時には全体にどんより黒っぽい印象以外あまり記憶に残らず、可もなく不可もなくといった演出でしたが、今回はカメラワークや先に述べたような細部の演技がいくつか改善されたこと、またテレビ画面でなく映画館で見ると背景が中途半端な暗さでなく、時には本当に真っ暗闇に見えて雰囲気が出るのもあって、前回の収録版より芝居として多少面白く見られたという気はします。
 冒頭で魔女たちがいた森が夫妻の精神状態が破綻をきたすにつれて居城の空間に入り込み、現実を超自然の世界が浸食してゆく不気味さなどもコンセプトとしては悪くありません(ただ肝心の見せ方がどうもイマイチなのですが)。

 そういえば大学に入ったばかりの頃、シェークスピア入門みたいな授業で「真夏の夜の夢」の映像を見せられたことがあり、それもエイドリアン・ノーブルの演出だったと最近になって思い出しました。この「マクベス」でも使われていた空から下がる電灯と小さい男の子が出てくる冒頭シーンは覚えてるんですが、その後ほとんど記憶にないのはたぶん居眠りしてたんでしょう(私のシェークスピア知識なんてそんなもんです)

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テーマ:オペラ
ジャンル:音楽

タグ:オペラ感想

コメント

なんといっても三人の魔女。

スコットランドのグラームズ城は名城ですね。
お話の表題だし主人公ではありますがマクベスは女性陣に比べると影が薄い。
夫人と魔女に、いいようにされる駒みたいな感じがします。
魔女のせりふは一言一言が重く意味深で引き込まれます。
マクベス夫人は現代の女性でも違和感が無い野心と脆さが同居しています。
血が落ちないと手を洗いまくる場面が一番好きです。

Re: なんといっても三人の魔女。

私も「マクベス」はやっぱり魔女の存在に尽きます。夫人はともかく(笑)、マクベスはどうして魔女に言われたことをああも盲信してしまったのか、それに魔女たちのほうではマクベスを一体どうしたかったのかというあたりが個人的には一番興味深いですね。

>魔女のせりふは一言一言が重く意味深
やっぱり内容のせいか、怪奇幻想系の小説には「マクベス」の台詞を引用したタイトルが多く面白いです(もちろん調べてやっと分かる程度ですが…)。手持ちではブラッドベリの「何かが道をやってくる」、ウィンダム「時間の種」、あとファファード&グレイ・マウザーの初期の作品を収めた未訳短編集もそうだとか。
(なおどっちの作品もだいぶ前から積読になってます…「何かが道を…」はハロウィン時に読むにはもってこいだったのに、結局手を付けないまま過ぎてしまいました。)

四大悲劇の中で一番好きです。

「何かが道をやってくる」「十月はたそがれの国」でハロウィーンを知ったのでした。クリスティ「親指のうずき」の元になった
第四幕の魔女のセリフ。魔女の予言にさえ遭わなければマクベス
は主君と親友を手にかけることなく忠義の士として天寿を全うできたかもしれなかったのに。人の運命を弄ぶのが楽しいのかな。
マクベスに王朝転覆クーデターを起こさせて王家に復讐したいという訳でもなさそうだし。予言と引き換えに莫大な報酬を得た訳
でもないし。マクベス夫人は夢遊病のまま亡くなるけど魔女は・・・。魔女の出番が無くなる終盤は興味が半減してしまいます。同性のせいか魔女は全然怖くなくて登場人物の中で一番好きです。

Re: 四大悲劇の中で一番好きです。

「マクベス」の魔女たちに関する説で面白く思ったのは、古代ケルトで信仰されていた三人の死と戦いの女神が原型の一部になっているというものでした。マクベスを煽って国を乱すのには、自分たちを追いやったキリスト教社会に対する復讐の意味もあるのではとか(先輩から又聞きしただけなのでいい加減ですみません)。
この演出では夢遊病になった夫人と魔女たちの絡みがあるのもなかなか不気味で良かったです。どっちも「魔性の女」かもしれませんが、本質は全然違った存在ですよね。

ブラッドベリのハロウィンというと、「十月のゲーム」の嫌~な読後感ばかり残っているのが困りものです。なぜかアンソロで出くわすのがああいう陰惨系の短編ばかりで変な苦手意識が出来てしまい、いまだに長編を読んだことがありません。調べたら「ハロウィーンがやってきた」という作品もあるらしく、こちらは子供向けテイストなので印象を変えるのにいいんでは?なんて思ってますが。

レイ・ブラッドベリは図書館に多数あり。

晶文社の「ハロウィーンがやってきた」が図書館にあったので借りました。
自分は「火星年代記」からブラッドベリ作品を読み出したのでSF作家のイメージなんです。あまり陰惨系の短編を読んだことが無くて。陰惨系の作家ではジョン・ソールや
ジャック・ケッチャムを読んだのですが「隣の家の少女」を読んだ後、ズンドコまで
落ち込んでしまいました。「ハロウィーンがやってきた」は伊藤典夫御大の訳で安心して
読めました。

Re: レイ・ブラッドベリは図書館に多数あり。

私も「ハロウィンがやってきた」アマゾンで買ったのが数日前に届いたので、今日急いで読んだところです(おかげで遅くなりすみません)

もともと短いのもありますが、ハロウィンのお祭り的高揚感そのままに最後まで衰えないテンポとテンションで進むので一気に読み終わってしまいました。楽しかったけど、少年たちもいつかは最後の取引を別なふうに考えることもあるんだろうなというのがやっぱりブラッドベリ的ではあるかと…。

ブラッドベリ、私は最初に読んだのがたしか「ほほえむ人々」(河出のアメリカ怪談集)で次が「トランク詰めの女」(早川の「幻想と怪奇」)だったんですよ。「十月のゲーム」やこういうのを陰惨系というべきかわかりませんけど、どうも私はああいう病んだ家庭が出てくるのが嫌で。「隣の家の少女」はウィキ見ただけでもういいです(汗)


ケッチャムの後は東海林さだお先生と工藤ノリコ先生で回復。

ブラッドベリもケッチャムも筆力が半端ないので陰惨系の破壊力
が甚大です。特にケッチャムの虐待の連鎖の救いの無さときたら。「生きていてすみません。神よ何故、人間など作りたもうた
のですか。堪忍してつかあさい。」の精神状態に・・・。

そんな時は工藤ノリコ作品を!のらねこぐんだんが大好きです。
みんなポッチャリ体型だし美味しそうな食べ物がいっぱいだし、
ダイエットは明日からにしてたらふく食べるぞって気になります。何度もレスしてすみません。

Re: ケッチャムの後は東海林さだお先生と工藤ノリコ先生で回復。

ブラッドベリは多作ですから私が苦手なタイプの作品はその中の一握りにすぎないんでしょうけど、常にどこかしら毒があるといった形容が個人的に一番しっくりくるかもしれません。

先日電車で遠出をしなければならなかったので、積読を解消すべくウィンダムの「時間の種」をお供にしました。こっちも「毒」とまではいきませんが、ちょっとピリッと来るかほろ苦い感じですよね。ちなみに私がウィンダム作品で気に入っているのは「千の脚を持つ男」収録の「お人好し」です。ああいうブラックユーモアなら大好き。

ノラネコぐんだんの皆さん、見事にうちの茶白とそっくりスタイルですなあ~。私も猫画像(リアルですが)で気分回復はよくしますよe-251

翻訳の黄金時代を支えた方々が・・・。

「火星年代記」を訳された小笠原豊樹先生が亡くなられました。
自分にはロシア文学よりもSFの人でした。先日亡くなられた
東江一紀先生もそうでしたがジャンルを問わず、素晴らしい翻訳
をなさる方でした。御冥福をお祈りいたします。

「怪奇文学大山脈Ⅲ」が今月こそ刊行されますように。
栞と紙魚子は二巻までゲットしました。

Re: 翻訳の黄金時代を支えた方々が・・・。

同じくご冥福を。自分は「火星年代記」を読んだことがないのになぜ小笠原氏の名前に馴染みがあるのかと考えてみたら、早川の「無実はさいなむ」も訳されていたんですね(長編ではこれ一作だけというのが少し意外でしたが)。あれはクリスティーでも特にインパクトのあった作品の一つで表紙が擦り切れるまでさんざん読んだものです。そういえば他には田村隆一氏や加島祥三氏の名前を覚えたのもこのクリスティー・シリーズでした。

>「怪奇文学大山脈Ⅲ」
パルプマガジン特集とあっては何を差し置いても買わねば!と思ったら、年末までもうお小遣いが…。つい先日同じ創元のデュ・モーリア短編集とSF傑作選の「黒い破壊者」注文したばかりなんですよねえ。バラ苗を一本減らしてこっち買いますか(汗)

国書刊行会からディレイニー

欲しい本ばかり!ジャック・オ・ランタン君に吐きだしてもらう
というのは・・・。25日にディレイニー「ドリフトグラス」が
出ると国書刊行会のHPにありましたが欲しいです!エンパイアスターのサンリオ版を持っているので読み比べたい。

寒波到来ですが結構バラが咲いているのを見かけます。寒さには
強いんでしょうか。

Re: 国書刊行会からディレイニー

ジャックの中身はつい先日イングリッシュローズの新しい苗に化けました(ちょっとガーデンセンターを覗いてしまったのが運の尽きでした。だって人気品種は早く買わないとすぐ売り切れちゃうんですものね~e-456
出版社のHPはいつ見ても目の毒です!!!今はとりあえず怪奇文学大山脈3の内容が知りたくてうずうずしてますが。

関東のこちらもわりと暖かいせいか、ほっておけば真冬でも葉が青々している鉢も少なくないです。でもそれだと花つきが悪くなるので、年明けには全部葉をむしって剪定しなくては…。

デュ・モーリア傑作集「いま見てはいけない」

やっと入手でき読了しました。
表紙絵が美しい。「レベッカ」もそうでしたが美味しそうな料理が沢山出てきて
イギリス料理が不味いなんて嘘やろと思ってしまいます。
怪奇文学大山脈Ⅲの内容がホントどこにも載ってませんね・・・。
発売が延び延びになっているので心配です。

Re: デュ・モーリア傑作集「いま見てはいけない」

え、もう読み終えられたとはe-330 私は一週間前に入手しましたがあと二篇残ってます。いずれ感想を記事にしようと思ってますがまだかかりそうで…。とりあえずこれまで読んだ話はどれも粒揃いだったという感想ですが。

>イギリス料理
アイルランドの田舎だから↑に入るかどうかは微妙ですが、スコーンを期待してお茶を頼んだらポテト添えベーコンエッグが出てきたのはちょっと笑えました。
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筆不精にも関わらずメモ帳代わりとして始めてしまったブログ。
小説や音楽の感想・紹介、時には猫や植物のことも。
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