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ハロウィンの夜のゲーム ロジャー・ゼラズニイ「虚ろなる十月の夜に」

2017.11.08 02:13|怪奇幻想文学いろいろ
  イベントやコスプレの類いとは縁のない私ですが、今年のハロウィンで楽しみにしていたのがこの本の発売。まさしくハロウィンが題材の、ゼラズニイ最後の長編A Night in the Lonesome Octoberの本邦初訳です。
 ゼラズニイ作品についてはこのブログを始めたばかりの頃、ヒロイック・ファンタジーのディルヴィシュ・シリーズのことを一度書きましたが(今読むと酷い内容)、あとがきによると日本ではその後篇「変幻の地のディルヴィシュ」以来27年ぶりの新刊だとか。翻訳はクトゥルフ関連の本でも時々お名前を見かける森瀬繚氏。

 9784801912670-m.jpg  竹書房「虚ろなる十月の夜に」
 
 舞台はヴィクトリア朝の英国。十月末日のハロウィンが満月と重なる年の夜に限って行われるある儀式に向け、開催地となるロンドン郊外の村に参加者たちが集います。この儀式とは二つの陣営に分かれて勝敗を争う一種の「ゲーム」であるため、それに加わる者は「プレイヤー」と呼ばれ、少しでも有利に事を運ぼうとあらかじめ丹念な調査と準備を行うのです。
 ゲームの概要とは...

 「虚ろなる10月、その満月のハロウィーンの夜、適切な数の人間が、適切な場所に引き寄せられ、旧き神々が地球へと
 帰還するための道が開かれようとする。
 そして、人々の中のある者たちは道を開く手助けをするが、他の者たちは道を閉ざし続けようと努めてきたのである。
 ...プレイヤーたちは、特定の魔道具やその他の魔力を宿す物を獲得し、指定された場所で相まみえて、お互いの意思の力―― 
 魔力をぶつけあうのだ。」
(本文P278より)

 はじめに言ってしまいますと(ご存知の方なら上の引用だけでピンとくるはず)、この小説はオマージュやフレーバーの域を超えたクトゥルフものなので、一応クトゥルフ神話に関して最低限の知識を得たうえで読んだほうがより楽しめます。昨今のクトゥルフTRPGブームのおかげもあり、作中に登場する固有名詞についてはネット検索すればすぐに情報が得られることだし。

 最終的にどちらの陣営に与するかはゲーム開始時まで伏せておくルールのため、プレイヤーたちは基本的に個々で準備を進めなくてはなりません。とはいえ、流石に一人で全てをこなすのは不可能とみえ、ほぼ全員が助手として「使い魔」の動物を従えています。
 物語の語り手をつとめるのも、そうした「使い魔」の一匹である犬の「スナッフ」。ベテランプレイヤーの主人、ジャックと長年行動を共にしてきたらしいスナッフは、番犬としての見張りやパトロールはもちろん、儀式に必要不可欠らしい<計算>までこなしてしまうスーパー犬です。
 
 ちなみに「ジャック」とはいうまでもなく世紀末ロンドンを騒がせた切り裂き魔と同一人物ですが、ここでは単なる殺人鬼とはちょっと異なる独特のキャラ設定がなされているのも興味深いところ。しかもゲームに絡むのは彼だけではありません。各種魔術使い、マッドな司祭、それに吸血鬼、狼男、某人造人間の三大モンスタートリオ…さらにはあの名探偵までが続々と登場し、まさしくホラー・サスペンス界夢のオールスター競演といったおもむきを呈します。

 ただし、この錚々たる面子が派手に火花を散らすバトルものかと思いきや、実質的な主役はスナッフをはじめとする使い魔の動物たちだったのには(主に良いほうに)期待を裏切られました。
 人間たちとは別に独自のネットワークを持ち、お互い牽制しながらも時には協力して情報収集に励む彼らの妙にほのぼのしたやり取りが楽しく、また大勢が入り乱れてあれこれ情報が錯綜するのがかえって全容が分からないゲームの緊張感を高めてもいます。個人的には主人の深酒のせいで酷い目にあうヘビと、フルーツが好物のコウモリのキャラが気に入り(笑)
 
 なお序盤のうちは誰がどのプレイヤーの使い魔かが頭に入っていないとやや混乱をきたすので、せっかくですから自分用に作ったメモ書きの一覧表を貼っておきます。左が使い魔、右がその主人にあたる「プレイヤー」。

 スナッフ(犬)→ジャック
 グレイモーク(猫)→クレイジー・ジル(魔女)
 ナイトウィンド(フクロウ)→モリス&マッカブ(魔術師コンビ)
 ニードル(コウモリ)→「伯爵」
 チーター(リス)→オーウェン(老ドルイド)
 クイックライム(ヘビ)→ラストフ(ロシア人の僧侶)
 ブーボー(ネズミ)→「博士」(某「実験体」の生みの親)
 テケラ→(白子のワタリガラス)→???

 こちらも人間側にひけを取らず個性的な顔ぶれ揃いだし、犬による語り口の味わいも含め、ホラーファンだけでなく動物好きにもお薦めしたい一冊。ところでスナッフって犬種は何なんだろう(上の表紙絵だとダルメシアン?イラストはおそらく担当された広江礼威氏のオリジナルと思われますが)


 ついでに披露のタイミングを逃した今年のハロウィンクッキー しかしこう見ると去年のと変わり映えしませんね。

halloween2017.jpg

知人に猫がタヌキみたいだと言われたんですが...そういえばこの間生まれて初めて近所の庭を走っていくタヌキ見ました。びっくり。
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テーマ:海外小説・翻訳本
ジャンル:小説・文学

タグ:ゼラズニイ

コメント

タヌキに似た猫さん

近隣に古墳が多く宮内庁が人の立ち入りを禁じているため小動物の楽園になっております。イタチなんかジャックランタンみたいなオレンジの体色で、スルスルっと道路を渡るので運転中ドキッとします。虚ろなる十月、読み始めたんですが登場人物と使い魔が錯綜して頭がこんぐらがり、eholly様の表が有り難いです。カバーの絵が派手で外したら本体にも美麗な人物絵が。歴史上の偉人たちが両陣営に別れて争うのはfateシリーズを思い出しました。現在放映中のアニメもジャックザ・リッパー回でしたし。

Re: タヌキに似た猫さん

ご近所に古墳が沢山とは雰囲気たっぷりでちょっと羨ましい…。うちの近くにもそこそこ有名な遺跡があることはありますが、記念碑だけで原型をとどめておらずどうも趣に欠けます。イタチ、画像検索したらほんとにオレンジ色なんですね。

「虚ろなる十月」のジャックは長編小説一、二作分くらいのバックグラウンドはありそうなのに、あえて踏み込まなかったあたり作者の思いきりの良さを感じます。年齢不詳(年を取らない?)なんでしょうが、カバーイラストのイメージはちょっと少年っぽすぎるんじゃないかと思ってしまいました。

ゼラズニイ最後の長編!

私の大好きな作家、ゼラズニイの作品を紹介頂いてありがとうございまず。
ちなみに「虚ろなる~」はまだ未読><。

1993年の作品とのことですので、長編としては「アンバーシリーズ」を書き上げた後の作品になるんですねぇ。
ゼラズニイ作品に登場する歴史上、伝説上の人物というのはどちらかというと主人公格で登場する感じじゃなくて、雰囲気添えというか趣味、洒落で登場するイメージがあるんですが、この作品では扱いが異なる様ですね。
楽しみです^^。

不老不死のヒーローというのはそれこそゼラズニイの真骨頂で、何人そんな登場人物を書いてきた人なんだ?って感じなんですが(笑)。
この作品はデルヴィシュでも少し登場したクトゥルフ神話モチーフを中心に据えた物語なんですね。

yoyoshiさん同様、大阪に住んでいた時すぐ近くに結構大きな天皇陵がありました。
徒歩10分ぐらいの場所に。
大学に行く途中には白鳥陵や応神天皇陵(←最近は呼び名が違うようですが)もありました。
堀に囲まれていてなんだか不思議な雰囲気のする場所なんですよね。
陸にある小島みたいな。

なにはともあれ近々読んでみたいと思います。

Re: ゼラズニイ最後の長編!

先程はお疲れさまでした(しかし賽の目が悪かった…e-350

壮大な世界観のイメージのあったゼラズニイの長編ですが、「虚ろなる十月の夜」はかなりシンプルで凝縮された印象を受けました。大勢のプレイヤーが駆け引きを繰り広げる「ゲーム」がモチーフということもあり、マッドハッターさんならきっと楽しんでいただけるのではないかと思います。
あと思った以上にがっつりクトゥルフしており、これをオマージュしたcoc(この時代ならクトゥルフ・バイ・ガスライト?)のシナリオとか面白そうだなと。

スナッフの主人というか相棒のジャックは確かに典型的なゼラズニイのヒーロータイプで、ディルヴィシュとブラックに匹敵する名コンビという感じ。他にゲスト出演する有名キャラ達にはちょっとばかり扱いが気の毒な人もいますが(汗)

大阪のあの辺りの古墳群、私は教科書に載っていた空撮の写真でしか見たことがありません!堀もあるし本当に神秘の小島という感じですよね。大学の頃、大阪に赴任していた父のところに泊まりに行った時にでも見学しておけばよかったんですが。

秋に収穫したさつま芋。

追熟して甘くなったさつま芋を干し芋にしています。寒風吹きすさぶ今が適期です。砂糖もバターも使わないのにお菓子みたいに甘い!買うとちょっとしか入ってないのに高いので。食物繊維とカリウムが豊富だし、おやつの罪悪感を余り感じずにすみます。年末は食品が高い!奈良県の雑煮は大根と里芋と豆腐に白味噌なんですが、細身の雑煮大根はお高いので普通の大根で代用。亀さんの好きな葉モノや胡瓜も高い!夏の盛りにはプイッと見向きもしないのに、冬の1本100円近い胡瓜をもりもり食い尽くします。イクラや数の子も家族は余り好きじゃないし、今回は無しにしようかな。その分みんなの好物を沢山用意出来るし。売り手市場とか株価上昇とか好景気だとか全然感じません。食品は量が減って値上がりする一方だし、書籍も新刊で買いそびれたら速攻で絶版品切だし。

Re: 秋に収穫したさつま芋。

近所のスーパーなど、今頃になると需要を見越してお節・お雑煮に必須の根菜や青菜を値上げしてくる始末で頭にきます。
この時期の青物は外れが多いですしね~。一昨日買ったキュウリも値段の割に水っぽくてちっとも美味しくありませんでした。うちには処理してくれる亀さんもいないですし(いっそ猫たちが残り野菜でも食べてくれるとありがたいんですが)
自家製干し芋、おいしそう。子供の頃は冬のおやつの定番だったんですが、そういえばここ十年近く口にしていない気がします。
私は今年も親戚が送ってくれたザボンを例のザボンジェットにして堪能しております。砂糖とチョコの消費量が半端ないですが気にしないことにしました…。
(今年の本買い納めは大晦日にゲットしてくる予定の予定諸星先生の新刊です)

雨の日はお化けがいるから

ホットカーペットに猫さんズと寝そべって諸星先生の漫画を読むなんて至福!第一集とあるからには第二第三集も期待して良いんですよね。今年は諸星先生に猫SFにアトリエサードにと大豊作でした。いつも読み応えのある記事を楽しませて頂いてありがとうございます。来年もよろしくお願いします。健康志向で塩や砂糖を控えると、保存が利かなくなるし美味しくない!大和尼寺精進日記でも、砂糖をしっかり使ってますもの。番組中の柚子の砂糖菓子を観てeholly様のザボン菓子が思い浮かびました。

Re: 雨の日はお化けがいるから

こちらこそ、いつもコメント楽しみにさせて頂いてますので来年もぜひよろしくお願いします!諸星漫画で年越しするのは今回が初めてかも。
今年yoyoshiさんに教えていただいた作品で一番はまったのはメイドインアビスでして、行きつけの美容室にも原作全巻揃っていて盛り上がりました。アニメ二期も決定したそうなので先の方までは手を出さないことにしてますけど。

お菓子は和洋問わずリッチなのが一番ですよねえ。果物の砂糖漬けが好きなもので、カルディで買ったフルーツケーキがザボン漬けともどもここ数日の読書のお伴です。

ハクメイとミコチ

寒さと野菜高騰で年末に買った食材を大事に食べてます。黒豆の煮たのが余ったから炊き込みご飯に。先日第1話が放映された「ハクメイとミコチ」のアニメが凄く良くて嬉しい!「ダンジョン飯」と同じ掲載紙で9㎝の小人さんが主人公のお話。狸などの小動物も隣人として普通に会話します。メイドインアビスと同じように世界観がキッチリ作り込まれ夢中になってしまいました。飯テロアニメでもあります。「足下の歩き方」という副読本も買ってしまい、家族に呆れられました。「ダンジョン飯」もアニメ化されたら良いのに。来月くらいに新刊出ないかしら。

Re: ハクメイとミコチ

「ハクメイとミコチ」、第一話を逃して仕方ないから原作買うかと思っていたらアマゾンプライムにあるじゃないですか!ということでさっきまで見ていました。ミネストローネ美味しそうでしたが、お弁当にして冷めないのかが心配に(笑)あの木の水筒が魔法瓶ならいいんですけどね。森の家で小人たちだけひっそり暮らしているのかと思いきや、港町の都会もあるようで、この先どこでどういうふうに物語が展開するのか楽しみです。

そういえば去年の秋に近所で見た狸どうなったのかちょっと気になります。目撃場所の庭には半野良猫なんかもよく来るらしいんですが、さすがにもうよそに移ったかな…。

寒さで折鶴ランが枯れました。

ハクメイとミコチ最新刊を買ってしまいました。海無し県に住んでいるせいか賑やかな港町アラビが大好き!迷宮のような街を探検したり「ポートラウンジ小骨」で珈琲を頂いたり新鮮な魚介類に舌鼓をうったりしたいよう。シルバニアファミリーの世界が飯テロを伴って再現されたような。ドールハウスものって嵌まります。エイクマンの「奥の部屋」みたいな怖さは無いけど、あの世界に住みたくて堪らなくなり現実の仕事が手につかなくなる呪いが。もう1つ大好きだった「少女終末旅行」の原作が完結して魂が抜けています。あの二人をホテルのビュッフェや図書館に連れて行ってあげたい!

Re: 寒さで折鶴ランが枯れました。

私もアニメの三話まで見ました。主人公たちの家もさることながら水上の亀ハウスがお洒落で住み心地も良さそう。実は高校のとき植え込みで亀さんの骸骨(学校の中庭の池に住んでたらしいです)を見つけてしまったのが軽くトラウマだったんですが、あんな家に住めたらそれも払拭されそうです(笑)
そういえば子供の頃、家にあった観葉植物のベンジャミンにおもちゃの家具をくっつけて遊んだりもしたような。「奥の部屋」のドールハウスはもらっても要らないですが、ハクメイとミコチの家が再現できるセットならちょっと欲しいかもしれません。
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筆不精にも関わらずメモ帳代わりとして始めてしまったブログ。
小説や音楽の感想・紹介、時には猫や植物のことも。
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