3・20 新国立劇場 「さまよえるオランダ人」
2012.03.24 21:31|音楽鑑賞(主にオペラ)|
オペラと海洋ホラー両方が好きな人間としては絶対はずせない演目「さまよえるオランダ人」。それでも実際の舞台を鑑賞するのは新国の前回上演の時以来で、なんだかすごく久しぶりな気がしました。
絵本チックというかとにかく無難で、評判も今ひとつと思われるこの演出ですが、私はそれほど嫌いじゃありません。幽霊船の見せ方は斬新とはいえなくても不気味だし、ダーラントの家の部屋を船の甲板に見立てて、ゼンタとオランダ人の二重唱で奥に現れる幽霊船と対比させるのも効果的です。
そして、おそらく最大の特徴はヒロインのゼンタをオランダ人をひたすらアイドル視する、狂気というよりは純粋で無邪気な少女に設定していること。ラストでは彼女がその憧れのヒーローに共感するあまり、彼にとってかわり船と共に沈むというのはそれなりに筋が通っていていい描き方だと思います。
ただ、それは初演のときのゼンタ役だったアニヤ・カンペが声も姿も少女らしく、糸車に手をかけて舵を取るオランダ人のポーズをして見せたりするちょっとしたしぐさにも彼女の一体化願望があらわれているようで説得力あったのが大きかったのですが、今回はすごく大柄で役作りも見えてこないジェニファー・ウィルソンに代わってしまったのでだいぶマイナスでした。
体型は仕方ないにしても今回のゼンタ、どの役と絡むときもほとんど同じような表情で棒立ちだし、歌もよく通る声質は悪くないけれど一本調子。せめてもうちょっと細かい動きをしてくれないと。
トミスラフ・ムツェクはきれいな声で優しそうなエリックでしたが、なぜか存在感が今ひとつ。ダーラントのディオゲネス・ランデスもやっぱり優しそうなお父さん。最初悪くないと思ったのにだんだんへなへな声になってしまったのはやはり不調なのでしょうか。メンバーの一員らしいミュンヘンでも公演を相次いでキャンセルしていたし、無理して日本に来たのでなければいいんですが。
というわけで外人勢では題名役エフゲニー・ニキーチンの一人勝ちだったかと。最近ニキーティンの歌うワーグナーをアンフォルタス(音だけ)、テルラムント、そしてオランダ人と続けて聞きましたが、私としては今回のオランダ人が一番合っていたと思います。
実はニキーチンのオランダ人は今回が初めてではなく、十年以上前のマリインスキー・オペラの来日公演でこの作品が上演されたとき、ちょうど私が聴きにいった日に題名役を歌ったのがこの人でした(ニコライ・プチーリンとのダブルキャスト)。
学生券で、ほんとうに東京文化会館の一番てっぺんの隅っこからオペラグラスもなしに見たんですが、遠目には細身で全身黒尽くめの舞台姿が本当にかっこよく、私のイメージしていたオランダ人そのものでした。ただ歌のほうは、やっぱり新人なんだろうな~という感じであまり印象には残っていません。しかし今回は(あたりまえかもしれませんが)やはり風格も迫力も段違いでした。夏にはこの役でバイロイトですし、あの時オランダ人を聴けたのはけっこう貴重な体験だったかもしれません。
ネトピルの指揮は序曲が終わったあたりでは結構期待したものの、オランダ人とダーラントの重唱などぜんぜん役柄のコントラストがオケから伝わってこず失速状態に。直後に休憩が入ったのが良かったのか悪かったのか、以降はところどころ持ち直すのですが、なんだかとりとめのない音楽作りでした。
結局一番感心したのは、揃っていても無機質すぎず、ちゃんと一人一人違った個人の集まりと感じられたコーラスだったかも。ただ幽霊船の水夫たちの合唱はお化け屋敷じゃないんだし、ちょっと音響効果利かせすぎで興醒めでしたが。
このオペラとほぼ同時代に「さまよえるオランダ人」伝説をもとに書かれた小説、「幽霊船」のあらすじを当ブログで紹介しています。双方比較してみるとなかなか面白いので、興味をもたれた方はぜひご一読を。
小説版"さまよえるオランダ人" (マリヤットの「幽霊船」)あらすじ紹介①
(以降最後まで順繰りにリンクしてあります)
絵本チックというかとにかく無難で、評判も今ひとつと思われるこの演出ですが、私はそれほど嫌いじゃありません。幽霊船の見せ方は斬新とはいえなくても不気味だし、ダーラントの家の部屋を船の甲板に見立てて、ゼンタとオランダ人の二重唱で奥に現れる幽霊船と対比させるのも効果的です。
そして、おそらく最大の特徴はヒロインのゼンタをオランダ人をひたすらアイドル視する、狂気というよりは純粋で無邪気な少女に設定していること。ラストでは彼女がその憧れのヒーローに共感するあまり、彼にとってかわり船と共に沈むというのはそれなりに筋が通っていていい描き方だと思います。
ただ、それは初演のときのゼンタ役だったアニヤ・カンペが声も姿も少女らしく、糸車に手をかけて舵を取るオランダ人のポーズをして見せたりするちょっとしたしぐさにも彼女の一体化願望があらわれているようで説得力あったのが大きかったのですが、今回はすごく大柄で役作りも見えてこないジェニファー・ウィルソンに代わってしまったのでだいぶマイナスでした。
体型は仕方ないにしても今回のゼンタ、どの役と絡むときもほとんど同じような表情で棒立ちだし、歌もよく通る声質は悪くないけれど一本調子。せめてもうちょっと細かい動きをしてくれないと。
トミスラフ・ムツェクはきれいな声で優しそうなエリックでしたが、なぜか存在感が今ひとつ。ダーラントのディオゲネス・ランデスもやっぱり優しそうなお父さん。最初悪くないと思ったのにだんだんへなへな声になってしまったのはやはり不調なのでしょうか。メンバーの一員らしいミュンヘンでも公演を相次いでキャンセルしていたし、無理して日本に来たのでなければいいんですが。
というわけで外人勢では題名役エフゲニー・ニキーチンの一人勝ちだったかと。最近ニキーティンの歌うワーグナーをアンフォルタス(音だけ)、テルラムント、そしてオランダ人と続けて聞きましたが、私としては今回のオランダ人が一番合っていたと思います。
実はニキーチンのオランダ人は今回が初めてではなく、十年以上前のマリインスキー・オペラの来日公演でこの作品が上演されたとき、ちょうど私が聴きにいった日に題名役を歌ったのがこの人でした(ニコライ・プチーリンとのダブルキャスト)。
学生券で、ほんとうに東京文化会館の一番てっぺんの隅っこからオペラグラスもなしに見たんですが、遠目には細身で全身黒尽くめの舞台姿が本当にかっこよく、私のイメージしていたオランダ人そのものでした。ただ歌のほうは、やっぱり新人なんだろうな~という感じであまり印象には残っていません。しかし今回は(あたりまえかもしれませんが)やはり風格も迫力も段違いでした。夏にはこの役でバイロイトですし、あの時オランダ人を聴けたのはけっこう貴重な体験だったかもしれません。
ネトピルの指揮は序曲が終わったあたりでは結構期待したものの、オランダ人とダーラントの重唱などぜんぜん役柄のコントラストがオケから伝わってこず失速状態に。直後に休憩が入ったのが良かったのか悪かったのか、以降はところどころ持ち直すのですが、なんだかとりとめのない音楽作りでした。
結局一番感心したのは、揃っていても無機質すぎず、ちゃんと一人一人違った個人の集まりと感じられたコーラスだったかも。ただ幽霊船の水夫たちの合唱はお化け屋敷じゃないんだし、ちょっと音響効果利かせすぎで興醒めでしたが。
このオペラとほぼ同時代に「さまよえるオランダ人」伝説をもとに書かれた小説、「幽霊船」のあらすじを当ブログで紹介しています。双方比較してみるとなかなか面白いので、興味をもたれた方はぜひご一読を。
小説版"さまよえるオランダ人" (マリヤットの「幽霊船」)あらすじ紹介①
(以降最後まで順繰りにリンクしてあります)
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